中間報告1・『学生食堂派』作戦会議
(「1:やはり、料理は魂だ! 職人技だ! 『学食』に協力する」を選択)
学生食堂にて…
あなたはネイに協力を申し出るべく、学食を訪れた。
学食には、あなたと同じくネイに協力しようとする学生たちがまばらに集まっていた。その集団の中から、背の低い、お下げ髪の女の子が走り出してくる。
ネイだ。
「来てくれてありがとう!」
協力を申し出たあなたの手を、ネイがガッチリと掴んでぶんぶんと振り回す。
「ささ、こっちへ!」
ネイはあなたの腕を引っ張り、集団の中へ連れ込むと、一段高い壇上に上り大きな声で宣言した。
「食の真髄は魂にあり! 食の本質は、生の真理なり!」
「魂なくして愛はなく、愛なくして食はなく、食なくして生はなし!」
「それを分かっていないクランに、真の魂を、愛を伝えるのが、私たちの使命なのです!!」
そして、勢いよく腕を突き出す。
何だかよく分からないネイの迫力に気圧された集団が、ネイに続けて腕を突き出し、学食に唸りとも、ざわめきともつかぬ声が上がる。
それを満足そうに眺めていたネイは、バッと大げさに腕を横に振り払った。
ネイの小柄な身体に似合わぬ迫力と威厳の前に、集団はピタリと声を止め、次に発せられるネイの言葉を静かに待った。
「具体的な料理プランの前に一言。私は料理ができません。だけど、真に美味しい料理を見極めることは誰にも負けないし、料理に対して足りないものを的確に伝えることができます」
「そこで、集まってもらった皆さんを、3つのグループに分けて勝負に挑みたいと思います」
「1つは、調理班。調理班はこれから勝負までの間、料理の技術と、魂を伝える術を磨いてもらいます。で、この調理班には私がつきます」
「次に、仕入れ班。仕入れ班には、材料を用意してもらいます。材料は北の大雪山に生息する雪兎。凍った海の下に生息する青背ボーロ。どっちも一般的な家庭料理のメニューだけど、それだけに親しみと温かみを伝えやすい料理になると思います」
「ですが、学園に輸送されてくる雪兎や青背ボーロは鮮度がイマイチだし、上物が多いともいえません。それにお金もかかります。素材に関して、私は専門的な知識はありませんが、それを生業としている人なら上物の見分け方を教えてくれるかも知れません。何とかして、調達してみて下さい」
「最後に、給仕班。いくら料理が最高でも、気持ちよく食べてもらわないと台無しになってしまいます。まだ具体的な案はありませんが、何か面白い給仕方法を考えてみて下さい」
そこまで一気に言い終えると、ネイは壇を両手で叩いた。
バン! という音が、驚くほど大きな音で学食内に響く。
「作戦は以上です! では、勝負に向けて頑張りましょう!!」
威勢よく響くネイの声に、気合のこもった叫び声が答えたのだった……。
中間報告2・『お料理研究会』作戦会議
(「2:安くて美味しいことはいいことだ。『お料理研究会』に協力する」を選択)
お料理研究会を訪れ、協力を申し出たあなたを、クランがいつもと変わらぬ柔和な笑みで迎え入れた。
「よくいらしてくださいましたのです。ちょうど、今から説明会を始めるところなのです。ささ、どうぞなのです」
あなたがお料理研究会に足を踏み入れると、まばらな学生たちが用意された椅子にきちんと座っているのが見えた。
椅子の並び方も整然としており、まるで教室のような雰囲気だ。クランの気質を如実に表している光景ともいえる。
あなたが用意された椅子に座ると、クランが扉を閉めて壇上に上がった。
「皆様、よくいらして下さいましたのです」
「料理の本質は、技術に溺れることでも、見栄に溺れることでもありませんのです。誰もが等しく享受し、誰もが同じ喜びを分かち合える料理こそ、人と人を繋ぐ真の料理だと思うのです」
「一部の人間しか食べられない料理や、腕自慢の一人の人間が作り出す料理では、例えそれがどんなに素晴らしい料理であっても、帝都の暗闇で困窮に喘ぐ人々を救うことはできませんのです」
「誰もが食べられる、美味しい料理。それが私が目指す料理であり、この勝負に提示する料理でもあるのです」
そういってクランは辺りを見回し、一度間を置いてから静かに続けた。
「私は皇帝専属の宮廷料理長の家に生まれ、この学園に来るまで食に関して専門的な教育を受けてきたのです。素材学、調理法、栄養学、盛り付け…。そうした経験と知識の中から、最善と思える方法をこの料理勝負に使いたいと考えているのです」
「そこで、皆様には、2つの班に分かれていただくのです」
「1つ目は、勝負当日に実際に調理を行っていただく班。料理工程を6つのパートに分けて、それぞれのパートでの調理法を指示しますので、とにかく指示された調理法を一分の狂いもなく行えるようになってほしいのです」
「2つ目は、素材を調達する班。私が考えた調理法は、素材の質が良くなくても充分美味しくなる料理なのです。とにかく色んな種類の野菜を仕入れて欲しいのです。アルメイスで充分な仕入れが行えないなら、帝都まで出るのも1つの方法なのです」
「それでは、理想の料理を実現するためにも、宜しくお願いするのです」
そういってクランは全員に向かって深々と頭を下げた…。
中間報告3・『象牙の塔』作戦会議
(「3:夢は高くても宮廷料理。『象牙の塔』に協力する」を選択)
校内某所にて…
「ふふふ、よく来た。さぁ、入ってくれたまえ」
アドリアン・ランカークはいつもの不遜な笑みを浮かべると、あなたを暗い個室のような場所に導き入れた。
「君がここに来た理由は分かっている」
あなたに椅子を勧めた後、アドリアン・ランカークは向かいの椅子に腰を下ろし、机を挟んで向かい合う形となった。
「『レイアル・カッシュ』」
アドリアン・ランカークが机の上で肘をつき、からかうような口調で続けた。
「帝国に伝わる、格式高き選ばれた者のみに許される料理……。ふむ、味が凄いのかって? 凄くない訳がないだろう?」
そういってアドリアン・ランカークは机の上に金色に輝く小さな卵を置いた。
「君も名前ぐらいは聞いたことがあるかも知れないな。これは金目鳥の卵だよ」
金目鳥の卵!
購入するのに、その重さの百倍の金塊が必要とされる伝説的卵。その余りの美味故に乱獲され、絶滅寸前とまでいわれる卵の中の卵!
驚愕に震えるあなたの姿を楽しむように、アドリアン・ランカークは指の腹で、何のためらいもなく卵を押し割った。
黄金にも等しい卵の黄身が、無残にも机の上に流れ出す。
「おやおや。どうしたのかね?」
アドリアン・ランカークが愉快げな声で続ける。
「こんなものは、『レイアル・カッシュ』においてはほんの前菜程度でしかない。『レイアル・カッシュ』が持つ真の魔力は、そっと人の心に忍び寄る……世界最高の娼婦よりも淫らで、蠱惑的な力なのだよ」
そういってアドリアン・ランカークがパチリと指を鳴らすと、彼の背後の暗闇から黄金色に輝く杯を持った少女が現れ、あなたの前にその杯を置いた。
疑うまでもない。杯は純金だった。精巧にして繊細。技術の粋を集めて作られた……底知れぬ品格と不滅の輝きを放つ黄金の杯。そして、それになみなみと注がれた、真紅の液体。
アドリアン・ランカークが仄めかした「真の魔力」の意味は、そう……これにこそあったのだ。
「理解できたかね? 味の良し悪しなど、所詮真の魔力を知らぬ小娘どもの戯言であることが」
「『レイアル・カッシュ』は味覚を超え、感覚を超え、直接人間の本能に働きかける至高の料理。天が果てしないのと同じように、『レイアル・カッシュ』以上の料理など存在し得ないのは、神が定めたもうた摂理なのだよ」
「そして神に選ばれた我々は、神の叡智を蒙昧な輩に知らしめる必要がある。その為には、いかなる障害も切り払わねばならない」
そういって、アドリアン・ランカークはつと椅子から立ち上がった。
「費用はいくらかかっても構わない。この学園に仕入れられる食材を全て買い占めるのだ! ありとあらゆる方法を用いて、あの小娘どもの邪魔をするのだ!」
「『レイアル・カッシュ』とは人類が築いてきた叡智の結晶。それを小娘の無知と思いつきで汚され、同等に比べられるのは……悲しいことだと思わないかね? もし君が神の意思の代行を手伝い、我々の一員となる証を立てたのならば、その杯は君のものとなることだろう」
そういってアドリアン・ランカークはもう一度指を鳴らした。先ほどの少女が現れ、あなたの前から黄金の杯を持ち去った。
「さぁ、私のいったことが理解できたのなら行きたまえ。私と君は初対面で、言葉も交わしていないのなら、君はここにいるべきではないし、君にはやるべきことがあるだろうから」
その言葉と共に、アドリアン・ランカークの姿は闇に溶け込んでいくのだった……。
(結果小説へ続く)
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