女神が舞い降りる夜【1】
 時計塔広場にある天文台。そこに集う天文部の面々。今日も彼らは望遠鏡と温かい飲み物を手に、天体観測に励む。
 天文部所属のキックスもそんな先輩達と一緒に、望遠鏡を覗いていた。春はもう少し先の話。今はまだ冬の星座が夜空を彩っている。
(……でも、だいぶ星座も交代してきたな)
 そんなことを考えていたその時、キックスの望遠鏡が奇妙な物を捉えた。
「赤い……流星? それにしちゃ、遅い……」
 キックスの言葉に、他の部員達も夜空を見上げる。そこには確かに、小さな赤い光を放つ点が星空を滑る様に動いていた。
「おい。でも、この軌道、おかしくないか?」
 天文部員の言葉に、キックスも頷く。普通の流星というのは綺麗な軌道で落ちてくるものなのだが、この赤い流星は少しずつ少しずつ進行方向を変えているのだ。それも、不規則に。
 だが、天文部で観察できたのはそこまでだった。結局、赤い流星は街の方へと消えてしまったのだ。
「……何だったんすかね。先輩」
 キックスの言葉に、天文部員は全員首をひねる。

 だが、その答は意外な形でキックスの元にもたらされることとなった。
 もたらしたのは、他でもない。ネイである。
「キックスキックス〜。聞いた〜? 微風通りの夢工房前に隕石が落ちたんだって」
 翌朝、キックスはネイのそんな言葉を聞き、慌てて微風通りへと向かう。キックスが着いた時には、そこには既に黒山の人だかりが出来ていた。
「まったく、どないやっちゅうねん。これじゃ営業妨害や。もうちっと離れてや!」
 客が増えるのは大歓迎のリムだったが、野次馬が多い現状では文句の一つも出ようと言うもの。リムは店の前を空ける様に野次馬に言うが、聞き入れられない。
 キックスはそんな人だかりを掻き分けて中へと進む。すると、そこには白衣の女性が居た。マリーである。
「これは興味深いわ! 新素材としての価値は計り知れないわね! もしかしたら、新しいエネルギー源としても期待できるかも……」
 その横には、カマー教授の姿も見える。どうやら、「怪しいものはとりあえず蒸気研に調査を依頼」と誰かが考えたらしい。
「マリエージュ。お喋りはあとよ。とりあえず隕石を回収して、研究室で研究するわよ」
 カマー教授の言葉に、マリーが手袋をはめる。隕石の大きさは直径10アー程で、女性のマリーでも何も道具や機械を使わずに持ち上げられるほどの軽さだった。
「あらっ? 何だかまだ温かい感じね」
 マリーがそう驚きの声をあげた時、キックスは思わずこう叫んでいた。
「それを持って帰るのは、やめた方が良いぜ?」
「あら。何で?」
 マリーとカマー教授が同時に尋ねる。だが、キックスはそれ以上言葉は継げなかった。
(まさか、その隕石が不自然な落ち方してきたからとは言えねぇよな……。言ったらむしろ、喜んで持って帰りそうだし)
 キックスが黙ってしまったので、マリーとカマー教授は予定通り隕石を持ち帰った。それを見送りながら、ネイが尋ねる。
「どうしたの? 何かあったの?」
「何でもねぇよ」
 キックスはそうごまかした。だが、その日の夕方には、ネイによってキックス達の見た出来事が噂となって流れていたということである。

 隕石が落ちた日の次の夜。キックスは大忙しだった。
 いや、正確に言えば天文部が。もっと言うと『天文台が』大忙しだったと言うべきだろう。噂を聞きつけた者達が、今日も流星が見られるかもと天文台に押しかけたのだ。
 その中には、意外にもレダの姿もあった。
「ここに来たら、おほしさまがとれるかもって」
 レダはアルファントゥと共に、笑顔でそう言った。
(ネイのせいだな……)
 キックスはネイに昨日の出来事を話したことを心底後悔した。だが、今更言っても仕方がない。
「……にしても、これじゃ身動きとれねぇ」
 あふれかえる人を見ながら、誰かがそう呟く。
 このままでは通常の観測に支障が出る。赤い流星が出た時にも、満足な観測が出来ないかも知れない。そう考えた天文部の面々は決断を下した。
「キックス! 鍵掛けろ!」
 その言葉に、キックスが何とか人を追い返し、扉を閉じて内側から鍵を掛ける。天文台から追い出された者達は、意気消沈して階段を降りていった。
 その時、レダが驚きの声をあげる。
「あーっ! おそらになにかいる〜!」
 他の者は、その言葉に一斉に空を見上げた。
 そこにあったのは、淡い緑色に輝く女神の姿だった。女神は夜空を舞う様に移動し、程なく姿を消す。
「何だったんだ……」
 夜空を見上げていた者達は、唐突な出来事に言葉を失っていた。

 次の日の朝、世間の興味は当然の様に隕石から女神へと移っていた。
「キックスキックス〜」
「言わなくても分かってる。俺達も見てたからな」
 うわさ話を聞きつけてやってきたネイの言葉を、キックスが遮る。
 当然ながら、空に浮かんでいた女神の姿は天文部も観察していた。正確な距離を測定したわけではないが、浮いていた位置は概ね校舎の上空であったことまでは、キックス達もつかんでいる。
「だけど、女神は俺達の専門外だ。天文台に押しかけない様に、お前からはっきり言え。こっちは流星の観測で忙しいんだからな」
「え〜? ……キックスのケチ〜」
 当てが外れたネイは、すねた声を出しながら時計塔を去る。
(ったく。これ以上観測を邪魔されちゃ困るんだよ)
 キックスはネイを見送りながら、そう心の中でつぶやいた。

 実際の所、昨晩も赤い流星は観測されていた。
 だが、前の日よりもっと悪いことに、上空に淡い緑色の光を放つ物体があった為か、天文部はより早い段階で流星を見失っていた。幸いに隕石が落ちたと言う噂がない為、辛うじて被害が出なかったことがわかった位である。
「観測して、事実をつかまないと」
 それが天文部員の思いだった。
 だが、その夜から流星と女神はほぼ同じ時刻に出現する様になり、流星観測は遅々として進まなかった。

 一方、レダは女神に逢った夜から、少し夜更かしをしている様だった。夜の時計塔前広場で、アルファントゥと共に出歩く姿がよく見られる様になったのだ。
「あれ? どうしたの?」
 そう尋ねると、レダはふるふると首を振ってこう答えていた。
「あのね。なんでもないの。めがみさま見たいなぁ〜って、アルと2人で話してただけなの〜」
 そう言って、レダは夜空を見上げる。それ以上のことは話さなかったが、レダが何らかの目的で女神を見ているのは間違いなかった。

 最初の隕石騒ぎから一週間。学園都市アルメイスの夜は相変わらず賑やかだった。
 天文部の観測では赤い流星は相変わらず訪れているし、女神も相変わらず姿を見せている。そして、蒸気研の隕石解析結果はまだ出ないと言う。
「一体、何が起ころうとしてるんだ?」
 街の人達も、不安な夜を過ごし始めたのだった……。

 “水月の天使”ガブリエラが呟く。
「どうしてみんな、空に浮かぶ彼女を『女神』さまだと思ったのでしょう? 普通の『女性』では無く、女神様と……」

 “闇司祭”アベルが呟く。
「ふん。女神だと。神々の間からわざわざ具象化してお出ましになったとでも言うのか? 馬鹿馬鹿しい」

 女神が夜空に舞い降りてから1週間。女神の『真実』に気づいた者はまだいない……


■昼・調査■
「夜空に浮かび上がる女神の姿。流れる星……。それはとっても幻想的で素敵な光景ですけど……」
 “風曲の紡ぎ手”セラは女神の話を聞いて思うところがあったので、寮長アルフレッド・フォン・ライゼンバードの所を訪れていた。
「皆さんが女神や流星を観察しているのは良いのですが、また騒ぎを起こす方もいらっしゃるかもしれませんし、出来れば見回りをしたいのですけど……」
「それはもっともな話だけど、何故私の所に来たのかな?」
 寮長が優しくそう問いかけると、セラも優しく微笑みながら答える。
「夜中に一人で出歩くのも、レディとしてはしたないと思いまして。アルフレッド様なら、お手伝いして頂けそうでしたから」
「信用されているようで、光栄だね」
 寮長はそう言うと、しばし考える。どうやら、寮長は予定に空きがあるかどうかを思い出しているようだった。
「……ふむ。すまないね。やはり、用事が入っているようだ」
 考えた末に寮長はそう返事をした。セラは素直に諦める。なにしろ、普段は寮長室に行っても会うことが難しいほど忙しい寮長なのだ。これは仕方のないところであろう。
「また機会があったら」
 寮長にそう送られてセラが部屋から出ようとした時、別の生徒がドアを開けた。
「おお! おった! 寮長〜。御願いがあるんやけど〜」
 それは“のんびりや”キーウィだった。彼女はセラの横を通り、寮長の元まで駆け寄るとすかさず御願いを始める。
「寮長〜。夜に寮の屋上を借りたいんやけど」
「ふむ。何故、屋上を借りたいのかな?」
 寮長の問いに、キーウィは手に持っていた望遠鏡を見せながら答えた。
「最近、天文台に野次馬が押しかけて困っとるみたいなんよ。でも、それって天文台以外に望遠鏡がないせいやと思うねん。せやから、『寮の屋上で女神様と隕石を見るお茶会』開いて、野次馬をそっちに連れて行こうと思ったんや。キックスはんから望遠鏡もこうして借りてきたし」
 寮長はそこまで話を聞くと、出て行きそびれたセラを見ながらこう答えた。
「すまないけど、夜も用事があってね。私がいない間、長時間屋上を貸すわけにはいかないんだ」
「ええーっ。んな殺生な〜」
 残念そうに言うキーウィに、寮長は一つの提案をした。
「屋上ならば、学校の屋上を借りると良いんじゃないかな? 会長には私からも話をしてあげよう。セラ君も、会長のところで改めて誰かを捜してみてはどうだろう?」
「ほんま?! おおきに〜」
 キーウィとセラは、その言葉に会長の所へと向かうことにする。

 寮長とセラ達が会長の所を訪れた時、そこには既に先客がいた。“海星の娘”カイゼルと“せせらぐ流水”水華である。
「会長。ちょっといいかな?」
 寮長の言葉を聞き、マイヤは2人にちょっと待つように言った。
「何でしょう?」
 寮長は早速、キーウィが屋上を借りたい事を伝える。すると、マイヤはキーウィをカイゼルの方に呼び寄せた。
「丁度、あなたと同じ事をカイゼル君も言ってきたところです。おそらく、あなた達の本当の目的は空に浮かぶ女神でしょう?」
 頷くカイゼル。キーウィの方も、気にならないと言えば嘘になると告げた。と、話を聞いていた水華が、マイヤに訴える。
「今は女神の他に隕石騒ぎもあるわ。噂によれば、隕石の軌道は予想できないみたい。だから、女神見物や隕石観測で外に出歩いてる人達は危険だと思うの」
 そこまで言った時、マイヤの視線が一瞬天を仰ぐ。だが、すぐに水華の方を向いたので、水華は話を続けた。
「せめて、蒸気研でマリー達が隕石の謎を解明するまでは、生徒を自室謹慎にすべきだと思うわ」
 そこまで聞いたマイヤは、目を閉じて薔薇を構える。彼の得意のポーズだ。
「隕石の話は聞いています。ただ、隕石が現状で1度しか地上に落ちてきていないという報告を受けていますので、今のところは自室謹慎するまでもないでしょう」
 マイヤがそう答えると、水華は食い下がった。
「では、せめて、一刻も早く隕石の解明がされるように、マイヤ会長の力を貸して欲しいわ」
「それでは、隕石の解明を早めるためにも、屋上を開放しましょう。より多くの観測データは、真実を導き出す鍵となるでしょうから」
 マイヤの言葉を受けてそこにいた生徒達で相談した結果、キーウィが屋上開放の責任者となることとなった。
「では、相談もまとまったようだし、私はこれで失礼するよ」
 寮長がそう言って部屋を後にする。他の者も、早速屋上での観測会兼お茶会の準備のため、三々五々部屋を後にした。
「……隕石ですか……」
 マイヤがそう呟いて執務に戻ろうとした時、誰かが扉をノックした。マイヤが返事をすると、扉の向こうから“戦う執事”セバスチャンが姿を現す。
「マイヤ様。ちょっと、よろしいでしょうか?」
「はい。構いませんよ。もしかして、女神や隕石の話ですか?」
 マイヤがそう話を向けると、セバスチャンは頷いてこう話を切り出した。
「毎日不規則に落ちる隕石と、同時期に現れる女神。これには何か因果関係がありそうです。生徒達も各々調査を進めているようです」
「そうですね」
「ですが、バラバラに動いていても情報が散逸して、真理に辿り着けないのは自明の理。そこで、御願いがございます」
「何でしょう?」
「ええ。『隕石女神対策課』を設置し、そこに情報を集めて……」
 そこまでセバスチャンが言った時、別の誰かが扉を叩く。マイヤはセバスチャンを待たせて、返事をした。すると……
「マイヤ会長。一つ許可を頂きたいのだが」
 そう言って入ってきたのは、“悪博士”ホリィ。今度はホリィを待たせ、マイヤはセバスチャンの話の続きを聞く事にする。
「では、改めて。『隕石女神対策課』を設置し、そこに情報を集めて……」
 セバスチャンがそう言った時、ホリィが驚いた。
「そちらもか! こちらも『女神並びに隕石の臨時対策調査本部(仮)』(以下、調査本部)の設置許可を取りに来たのだが……」
 どうやらセバスチャンとホリィはほぼ同じ事を考えていたらしく、女神や隕石の情報をまとめ、そこから真相を導き出そうと言う話が2人から出る。ただ、ホリィの方がより具体的な場所などの提案を出してきたため、マイヤの勧めもあってセバスチャンがホリィ達の調査本部へ合流することになった。
「では、随時報告の方を御願いします」
 マイヤの言葉を受け、2人は早速打ち合わせのため調査本部の拠点である『至高倶楽部』の部室へと向かう。
「どうだった?」
 そこには既に“タフガイ”コンポートの姿があった。ホリィが頷いて許可が降りた事を伝えると、コンポートは鉄砲玉のように調査へと向かう。
「では、私は図書館へ行こう」
「それでは、私は生徒達へ情報提供を頼んで参ります」
 ホリィとセバスチャンも、早速行動を開始した。


「んもう。あんな風に追い返さなくたって良いじゃない……」
 “炎華の奏者”グリンダは、恨めしそうに時計塔を見上げながらそう呟いていた。彼女もあの日のレダと同じく、天文台から追い出されていたのだ。普通ならここで諦めるものだが、彼女はそうではなかった。
「ネイ。ちょっといい?」
 そう、グリンダは食堂に向かい、ネイを焚きつけようとしたのだ。
「ネイ。あなたもキックスから女神について何か言われたんだって?」
 グリンダの言葉に、ネイはあっさりと乗ってきた。
「そうなんですよ〜。キックスったら、『女神は天文部の専門外だから、天文台に見に来るな』って言うんですよ〜。でも、私の灰色の脳細胞は、そうとは告げていないのに……」
 やや大げさに落ち込んでみせるネイ。グリンダはそんなネイの手を取って言った。
「私も同感よ! あの流星と女神が無関係なんて、そんなわけないじゃないのよ。ね? ネイ。ここは一つ、私たちで調査して、キックスや天文部の人達を見返してあげましょうよ!」
「グリンダさん! やりましょう!」
 ネイが手を握りかえしたその時、“安全信号”紅楼・夢がネイに話しかけてきた。
「私も一緒に調査したいんだけど」
 その時のネイは、やや興奮気味であった。夢の話を聞くまでもなく、ネイはグリンダにしたのと同じように、夢の手を握った。
「大歓迎です! 調査は人手が多い方が好都合です」
 こうして、ネイの調査団は3人でスタートする事になった。夢は夜に学園の屋上で女神を待ちかまえる事を提案したので、それまでは別行動という事になる。
「じゃ、私は最初に隕石が落ちたって言うリムの所に行くわ」
 グリンダはそう言って、早速微風通りに向かった。

 グリンダがリムの所についた時には、同じ事を考えていた“銀の飛跡”シルフィスや“求むるは真実”ラシーネが既にリムの話を聞き始めていた。グリンダも早速、話の邪魔にならないように、その輪に加わる。
「発見した時の状況を聞きたいんだけど」
 ラシーネが尋ねると、リムはジト目でにらむ。どうやら、タダで情報を話す気は無いらしい。その空気を読んだシルフィスが早速大学ノートを買い、リムはようやく話を始めた。
「隕石を発見したのは、ウチらやないんよ。だいたい、夜に隕石が落ちてきた音なんかせぇへんかったし」
 その言葉に驚く生徒達。確かに、噂では第一発見者が誰だとは言っていなかったが、店の前に落ちてきた隕石の音が聞こえないという事はあり得るのだろうか?
 シルフィスが話を進めるべく質問を引き継ぐ。
「では、最初に発見したのは?」
「それもようわからへんけど、ウチが店を開けた時に帽子かぶった男の子が『ルスティンバークさん、大変です! あそこに隕石が!』って駆け込んできたんや。たぶん、その男の子が発見者なんやないかな。んで、道端にあった隕石を見て、お父が学校に届けて……あとは大騒ぎってわけや。お父! そやな?」
「ああ〜。そうやな〜」
 リムの呼びかけに答えて、店の奥からのんびりとした声が響いた。リムの父親、アッタ・ルスティンバークである。
「そうそう。どうせ聞かれるやろうから先に言うとくと、その男の子は初めて見る顔やったよ。ああいうのを美少年って言うんやろうなぁ。線が細そうやったから、ウチの好みや無いけどな」
 リムがそう話をまとめる。

 意外な情報が手に入ったので、グリンダは早速ネイの所に戻る。と、先程一緒に話を聞いていたシルフィスも、ネイの元を訪れていた。
「という事は、話は聞いたのね?」
 グリンダの言葉に頷くネイ。
「シルフィスさんから話は聞きました。今回の件で、不肖ネーティア・エル・ララティケッシュ。自分の未熟さを知り、いたく反省する次第です。今度からはもっとより質の高い噂を集める所存です〜」
 ネイはまるで演説するが如くそう言うと、改めてキックスの所へ行くと言った。
「もっと、はっきりとした話を聞いて来ます!」
 張り切るネイの後ろ姿を見送りながら、グリンダとシルフィスは隕石の正体について考えを巡らす事にした。

 ネイはまっすぐ天文部に向かう。たぶん、キックス達は仮眠をとっているだろうが、ネイはたたき起こしてでも話を聞くつもりだった。
 ネイが時計塔の入り口までついた時、一人の女生徒がネイを呼び止める。
「あ、ネイ! こんなところにいたんだ。丁度良かった」
 それは、“六翼の”セラスだった。彼女は何故かふりふりのエプロンを身につけて、手には大きなハンカチで包んだ何かを持っている。
「私にそれを?」
 ネイが不思議そうに尋ねると、セラスは手を振った。
「違うよ〜。これは……」
 そこまで言ったセラスは、辺りを見渡すとネイにそっと耳打ちをする。すると、ネイはポンと手を叩いた。
「……なるほど! そこまでは考えが至りませんでした!」
「だよね? じゃ、冷めちゃうから、早速行こうよ」
 セラスはそう言うと、ネイと一緒に時計塔の階段を上る。最上階までたどり着いた時、幸運にも扉の前には誰もいなかった。彼女たちは一番乗りを果たしたのだ。
 早速、セラスが扉を叩きながら叫ぶ。
「こんにちは! 差し入れを持ってきたよ」
 続いて、ネイも叫んだ。
「キックス〜。美味しい美味しいお弁当だよ〜。カラシは抜いてあるから〜」
 と、セラスがネイに尋ねる。
「キックスって、カラシが苦手なの?」
「より正しく表現するのなら、辛い物全般が苦手と言う事なのです」
「じゃ、好きな物は?」
「そうですね。魚介類が好きみたいですよ。山に囲まれた土地で育ちましたから、海の物が珍しいのでしょうね。かくいう私も、それは変わらないのですが」
 2人でそんな話をしていると、突然扉が開く。
「おい、ネイ! 差し入れって言葉に先輩が反応して起きちまったぞ! どうするんだ!」
 そう言うのはキックス。その後ろでは、デ……いや、恰幅の良い男子生徒が、差し入れはまだかとキックスをせっついていた。
「はい。これだよ!」
 セラスがその生徒に包みを渡す。その間に、ネイは何故かキックスに怒られている。
「お前のせいで、さっきも誰か『女神が誰に似ているか教えて?』とか聞きに来たぞ。どうするんだ!」
「まぁまぁ、キリツ。そのくらいにしてやりなよぉ」
 先程の男子生徒がそう言いながら包みを素早く開けると、1口食べてセラスに言った。
「ありがとう〜。それにしても、君の格好は良いねぇ。男心を料理と衣装でぎゅっと鷲掴みだねぇ。料理も美味いし、萌えるねぇ」
 その言葉に苦笑しながら、セラスとネイはその生徒から改めて流星の話を聞く事にした。先程の生徒はやはり仮眠をしていた天文部員見習いの“久遠の響”キーリを起こし、みんなにお茶を入れるように言う。すると、セラスが言った。
「あ、メオティーなら持ってきたから、それを飲まない?」
「あ〜、気配りも最高だねぇ。君、僕のお嫁さんにならないかい?」
 先程の生徒の言葉に顔を引きつらせながら、セラスがメオティーを入れる。せっかくなのでキーリも話を聞く事にして、席に着いた。
「で、何を聞きたいのかなぁ?」
 生徒が尋ねた時、ネイはセラスの方を見る。はっきりとした話と言っても、どこから聞いて良いのか、ネイにはとんと見当もつかなかったのだ。
 すると、そこに別の生徒が扉をノックする。振り向くと、そこには“翡翠の闇星”ガークスが立っていた。
「ちょっと、聞きたい事があるんだが……」
 ネイはこれこそ天の助けと、ガークスを強引に招き入れた。簡易お茶会の席に着かせ、ネイが男子生徒を指しながらガークスに言う。
「今なら、この方が何でも答えてくれます」
 事情はわからなかったが、何でも答えてくれるのならと早速ガークスは質問をする事にした。
「流星の観測内容を教えて欲しい。軌道は不規則と聞いているが、流れていった方向の大雑把な方向でもわかれば良いのだが」
「ああ。流星ねぇ。うーん。あんな流星は見た事がないなぁ。何しろ、へろへろと動いていたからねぇ。途中で消えてしまうし……」
 その生徒はそこで一息ついてメオティーを一気にあけると、お代わりを要求しながら話を続けた。
「強いて言うなら……これは僕の勘なんだけど、だんだんと街の中心部から離れて行ってる気がするんだよねぇ」
「それってもしかして……」
 ネイが言うと、男子生徒は頷く。
「だんだんと、校舎の方に向かって行ってる気がするんだよねぇ。途中で消えちゃうから、良くわからないんだけどねぇ」
 その言葉に、ネイ達は顔を見合わせた。


■夜・隕石再び■
 その夜。
 キーウィとカイゼルが準備した、屋上での観測会に人が集まる。その中には、ネイやグリンダ達の姿もあった。だが、キックスは天文部で観測するからと、こちらには来なかった。
「絶対、真実をつかんでやるんだから」
 ネイは鼻息も荒く、観測に向かう。その横で、夢も熱く語っていた。
「女神が何なのかわかれば、私もネイさんも大満足だよ」

 ところで、今回の観測会はある1つの特徴があった。会場がしきりで2つに分けられているのだ。
「お。カップルさんやね。カップルはこっちやねん」
 屋上に姿を見せた“熱血策士”コタンクルと“深緑の泉”円を、キーウィがそう言ってしきりの反対側に案内する。そう。今回の観測会はカップル専用エリアがあったのだ。
「コタンクルさんと一緒なら、きっと大丈夫です……♪ 起きてられると思うです……」
 円は眠そうな目をこすりながら、案内された所に腰掛ける。コタンクルはそんな円を気遣って、コーヒーをそっと差し出した。普通のグルーメルではない。この日のために喫茶店に行って買ってきた、幻とも言える極上のコーヒーである。
「ありがとうございますです♪」
 コタンクルに寄り添いながら、円はそのコーヒーにそっと口を付ける。
「ところで、円の方はどうだった? 蒸気研に行ってたみたいだけど」
 コタンクルがそう話しかけると、円はしゅんとした顔でこう応えた。
「まだ、隕石の研究は終わってなかったみたいです。それと……こっそり資料を見ようと思ったら、見つかってしまったです……」
 円の言葉を聞いて、コタンクルは脳裏に状況を思い浮かべる。
(きっと、箱を被って潜入しようとしたんだろうなぁ。潜入が上手くいったとしても、箱が机の上にある資料を見ようとしたら、そりゃ見つかるよ……)
 が、そんな事はおくびにも出さず、コタンクルは自分の方の結果を円に話す。
「こっちは、リムに隕石関連のグッズを売り出したらって言ってきたよ。父親とも相談して、ものになりそうだったら売り出すらしい」
 商品の試作品は、一朝一夕で出来るものでは無い。なので、コタンクルはしばらく夢工房の手伝いをするつもりだった。だが、隕石を最初に発見したのがリム達ではないとわかって、次策は方向の転換も考えていた。
「女神様にあったら、お願いをするです」
 ふと、円がそう呟く。
「何をだい?」
「『お母さんに会わせてくださいです』です」
 コタンクルは怪訝そうな顔で、円のそんな話を聞いていた。なぜなら……
(……女神ね……。夜空に浮かぶのは、戦友の顔だって相場が決まってるだろうに)
 と、そこで円が小さく欠伸をする。
「はふ……なんだか眠くなって来ちゃったです……」
「じゃ、来たら起こすよ」
 コタンクルはそう言って、円をそっと撫でる。安心した円はコタンクルに体を預け、まぶたを閉じた……。

 円が目を覚ました時、夜は既に明けていた。円は横にいたコタンクルに尋ねる。
「コタンクルさん。女神はどうなったです?」
 すると、コタンクルは苦々しくこう答えたという。
「昨日は出なかったよ。だから、女神なんて素直に信用できないんだ……」


 一方で、学園都市アルメイス内では別の騒ぎが起こっていた。女神が出なかったその夜、二つ目の隕石が地上に落下してきたのである。
 今回は女神が出なかった為、隕石の軌道は天文部の方でしっかりと追う事が出来ていた。
「……確かに……これは妙な動きを……」
 昼間のお礼にと、ガークスとキーリは共に天文台で観測を手伝っていた。だが……
「おい! 隕石が落ちるぞ! 目の前だ!」
 望遠鏡を覗いていた生徒が叫ぶ。その言葉にガークスはいても立ってもいられず、天文台を飛び出す。
「なんか気になる……。俺も行ってきます!」
 珍しく、キックスもその後について天文台を飛び出していた。

 “深藍の冬凪”柊 細雪はその夜、中央繁華街で一番高い建物の屋上で星見酒と洒落込んでいた。米酒を杯に受け、満天の星を肴にちびりとなめる。
「今宵も星が綺麗にて候……む?」
 細雪の目に、深紅に輝く流れ星が映る。彼女は杯を降ろし、落下地点へと向かう準備を整えた。その次の瞬間、遠くの方からずしんと重い音が響き、彼女の体を震わせる。細雪は確信した。間違いない。あれは隕石が落ちた音だ。
「……急がねば……」
 細雪は繁華街を一気に駆け抜ける。

 ガークスと細雪が隕石の落下地点に着いたのは、ほぼ同時だった。場所は、中央繁華街と研究施設の間を流れる川のほど近く。あと少しずれていれば、研究施設に当たろうかと言う所だった。
 隕石は木の箱の様な物を直撃し、さらに半分地面に埋まっていた。いくつかに割れている隕石と、粉々に砕かれた木の箱を見ると、衝突時の衝撃がどれくらいだったかは想像に難くない。
 程なく、キックスもそこに到着する。早速、ガークスが明かりを持って隕石に近づこうとした時、細雪がそれを止めた。
「お待ちくだされ。その隕石、物の怪やもしれぬ」
「物の怪かどうかは知らねぇけど、俺もうかつに触らない方が良いと思うぜ。あんただってわかってるだろう? これは普通の隕石じゃねぇ」
 キックスが細雪に同調してそう言うと、ガークスもさすがに隕石に触れるのを止めた。
「ここは拙者に……」
 そう言うと、細雪は交信レベルを上げ、隕石に交信を試みた。だが、抵抗もされず返事もない。交信状態を解くと、細雪は改めて隕石に問いかける。
「ふむ。お主は意志があるやあらざるや?」
 ……
「お主は何故ここに降って参った?」
 ……
「お主は何物か?」
 端から見るとその光景は滑稽だったが、彼女は大真面目である。そして、細雪が問いかけを終えた時、隕石はそのどれにも答える事はなかった。
「反応がない。これはただの隕石なのでござろう」
 そう断定すると、細雪が隕石を拾い上げようとした。
「それをどうする気だ? まさか、あんたもマリエージュ先輩みたく新素材とかエネルギーがどうこうとか言うんじゃないだろうな」
 キックスの問いに、細雪が答える。
「珍しき物故、我が君マイヤ殿に献上して候」
 マイヤと聞いたキックスは、それ以上の追求をしなかった。
「……戻ろうぜ」
 そう言うとキックスは隕石を細雪達に任せ、その場から離れる。
「後は明朝でござるな。拙者も今宵はこれにて戻りて候」
 細雪もそう言って離れたので、ガークスもキックスの後を追いかけ、天文台に戻る事にする。
 その途中、キックスは夜空を見上げて呟いた。
「……あいつ……何しに来たんだろうな……」
「どういう事だ?」
 ガークスが尋ねると、キックスは空を見上げたままこう答える。
「何となくだけど……あの隕石は何か伝えたがってる気がした」
 だがその直後、キックスは自分の言った台詞が恥ずかしかったのか、急に走り出した。ガークスも苦笑しながら、その後を追う。


 翌朝の現場は大騒ぎだった。細雪達が持ち帰りきれなかった隕石を巡って、朝早くから人だかりが出来ていたのだ。
 夜のうちに噂を聞きつけたのか、はたまた貧乏人の勘なのか。現場にもっとも早く乗り込んだのは、貧乏コンビ“蒼盾”エドウィンと“貧乏学生”エンゲルスだった。もちろん、この2人がつるんで行動しているという事は、そこに金が絡んでいるのは言うまでもない。
(研究所に譲り渡せば、謝礼が出るかもしれない)
(……出来れば、賃金も……。今月はひい爺ちゃんに仕送りして、懐が寂しいし……)
 2人はそんな思いを胸に、現場で隕石回収に当たる。だが、その道はきわめて険しかったと言う。
「ワンワン! ウー! ウー!」
 隕石の周りには、何故か犬が一匹。隕石を敵視して吠えかかっている。野良犬だろうか? だが、その行動に、2人はピンと来る物があった。
「エンゲルス。前回の隕石落下地点には何も不思議な事がなかったけど、今回は違うな」
「ええ。きっと、何か違いがあるんでしょうね」
 そう言うと、早速エンゲルスがその犬に吠えかかる。そう。彼は野良犬に正面切っての喧嘩を挑んだのだ。野良犬も気が立っているのか、あっさりとエンゲルスに向かって来る。
「このぉっ!」「ガルルル……」
 エンゲルスが本気で戦っている間に、エドウィンが隕石を回収する。が、それを見た野良犬は、標的をエドウィンに変えた。
「ガルゥ!」
 一声高く唸ると、飛びかかる野良犬。だが、それをエドウィンは一撃でたたき落とす!
「悪く思うな。これには、俺達の未来と食費がかかっているんだ……」
 野良犬に、エドウィンがそう言い捨てる。だが、野良犬の異常なまでの執着心は、これぐらいで揺らぐ事はなかった……。

「隕石が墜ちてきたんだって?」
 それから四半刻ほど過ぎ、隕石の噂を聞きつけたコンポート等生徒達が集まる。その時、細雪から連絡を受けたマイヤも現場に足を運んでいた。
 だが、その時彼らが目にした光景は、普通では考えられない物だった。
「……君たちは、何をしているんですか?」
 マイヤの問いに、まだ野良犬と喧嘩を繰り広げていたエンゲルスが、息を切らしながら答える。
「この犬と……隕石の所有権を巡って争っています……」
 それからしばらくの間、2人は「犬と本気で戦った男達」と言う別の意味で有名人になったのは言うまでもなく、双樹会の名の下にマイヤに隕石を全部接収されたために、貧乏コンビの2人には1シナーも入らなかったのも言うまでもなかった。
 そして、更に悪い話が貧乏コンビの元に届けられる。
「聞きましたか?」
「ああ。結局、あそこにあった木の箱の様なものって、あの野良犬……いや、飼い犬の犬小屋だったらしいな」
 結局無駄骨に終わった自分たちの行動を思い返し、貧乏コンビはため息をついた。


■昼・研究室■
 蒸気研では、日夜隕石の研究が行われていた。ただ、円がコタンクルに言ったように、その研究に結論が出ていたわけではない。むしろ、彼らの研究は遅々として進まなかったと言って良いだろう。それは何故か……?

「たのもうなのでーす!!」
 元気よくそう言って蒸気研の扉をノックもせずに堂々と開けて入ってくるのは、“燦々Gaogao”柚・Citron。
「あらっ、またお手伝い?」
 マリーが尋ねると、柚は頷く。
「はーい! あたし的には、隕石はリエラの卵だと思うんでーす! だから、どんなものかこの目で実際見たいのでーす! お手伝いが有れば、何でもしますのでー!」
 その言葉に頭を抱えたのは、先に手伝いに来ていた“銀晶”ランド。
「何を馬鹿な事を……。そんなわけがないだろう」
「えー! どうしてですかー!」
「じゃ、リエラは卵生か? 卵を産んで増えるのか? そんな話、聞いた事無いぞ」
 その問いに、柚は黙ってしまった。マリー達が研究に戻ろうとしたその時、別の生徒が扉をノックする。
「オラにも隕石を調べさせて欲しいんだべ。研究、進んでないんだべ?」
 “土くれ職人”巍恩の言葉に、マリーが応える。
「確かに、ちょっと行き詰まってるわね。でも、そこまで言うからには、君は何か仮説があるのかな?」
 すると、巍恩は頷いた。
「流星と共に現れた緑色に輝く女神……。緑色は植物……。だから、流星の正体は……」
「正体は?」
 そこにいた学生達が巍恩の言葉に注目する。巍恩はそこで何故か自信ありげにこう言った。
「もしかしたら、流星の正体は植物の種かもしれねぇべ!」
 もしここが喜劇の舞台だったら、おそらく他の学生は一斉にコケていたところだろう。それ位、巍恩の説は突拍子もない物だった。当然のように一笑に付されたところへ、更に別の学生がやってきた。
「今度はどんな珍説が飛び出すのかしらね……」
 マリーが半ばあきらめ顔で、その学生“不完全な心”クレイに、先程の巍恩と同じように尋ねる。
「君は何か仮説があるのかな?」
 すると、クレイは神妙な顔をしながら、声をひそめて言った。
「僕の中の何かが告げるんです……。アレは……隕石は危険な存在だと……」
「あー、もうなにを言われても驚かないわ。でも、うちは蒸気研。オカルトやミステリーは専門外。そう言うのは……」
 マリーがそこまで言ったところで、別の学生が入ってきた。
「はーい! カマーちゃん、マリーちゃん。元気? 研究の調子はどう?」
 それは、そんなオカルトやミステリーの研究をしている「ミステリー研究会」の会長、“泡沫の夢”マーティだった。そして、彼女(?)の手にはクッキーの箱。
「良かったら一息入れない?」
 マーティの言葉に、マリー達は今までの珍説を思い出し、ぐったりとしながら頷く。今のマーティは、マリー達にとってはまさに救いの女神(?)だった。
 蒸気研の研究が遅々として進まなかったのは、こんな珍説を持ち込む者が後を絶たなかったからだった……。

 遅れを取り戻すべく、蒸気研の面々とお手伝い達は研究に励む。と、そこでクレイが尋ねた
「ところで、隕石が卵でないとしても、隕石がリエラだという可能性は?」
 クレイが手伝いをしながら尋ねる。すると、ランドが答えた。
「それは俺も提案した。隕石に交信できるかどうか確かめるべきだと。だが、万が一の事があったらと保留になってる」
「それなら、僕のリエラは【障壁作成】が出来ます。何かあったら、僕が守ります」
 ならばと、ランドが改めてカマー教授に提案を上げる。その結果、観察役として名乗り出た“賢者”ラザルスとマリーを入れて、4人で交信実験が行われる事になった。
 クレイがまず、リエラ『イビルガード』を呼び出す。そして、他の者も交信レベルを上げ、最後にランドが隕石に交信を試みた。
「どう? リエラ? リエラだったら……」
 マリーが尋ねるが、ランドは首を振った。ラザルスも、隕石に変化はないと首を振る。
「じゃ、リエラじゃないのね。これで、ますます私達が頑張らなきゃ」
 マリーの言葉に、交信を解いた生徒達が頷いた。

 そして、ついに研究の遅れを劇的に取り戻す人物が現れる。“鍛冶職人”サワノバである。
「わしのリエラ『ルニック』は鉱物や材料の知識に関して超一流じゃ。ひょっとしたら、解析に役立つかもしれんの」
 それを聞いた蒸気研の面々は、一も二もなく彼に解析を頼む事にする。サワノバも早速ルニックを呼び出し、話を聞く事にした。
「ルニック。この隕石は何じゃ?」
 沈黙が蒸気研を包む。ルニックはサワノバとしか意思の疎通が出来ないので、結果はサワノバから聞くしかなかったのだ。
 しばらくして、会話を終えたサワノバが結果を告げた。
「この隕石は、残念だがただの石じゃ。そこら辺に転がっている石と、何ら変わるところはあるまいて」
「やはりか……。マリーが持てるほど比重が軽いと言う時点で、既に鉱物では無い気がしていたんだが……」
 ランドが呟く。そのマリーはと言うと、結果としてエネルギー源でも新素材でも何でもなかった隕石を見つめながら、今まで費やした時間を思い返してため息をついた。
 蒸気研が暗く思い雰囲気に包まれたその時、“自称天才”ルビィが明るくカマー教授に提案した。
「教授。一つ実験させて欲しい事があるのですが」
「あー、何かしら? もう、するべき実験はないと思うけど?」
 ルビィは首を振った。
「この隕石と翌日から現れた女神が全くの無関係とは思えません。この2つを接触させる事により、何某かのデータが取れるのではないかと推測しております。隕石が普通の石だとわかったのなら、なおさらです。ダメ元ですがやらせてください」
 その言葉に、“弦月の剣使い”ミスティも教授へ頼み込む。
「私からもお願いします。もしかしたら、石はただの石でも、女神様はその隕石を探しているかもしれない。ちゃんと返すから、実験させてくださいませんか?」
 それを聞いたカマー教授は、半ば投げやりな口調で許可を出す。
「もう、好きにするといいわ。ただ、ちゃんと返してよぉ?」
「任せなって」
 ルビィはそう言うと、隕石を預かる。

 だが、ルビィ達が女神に隕石を見せようとした夜、女神は姿を現さなかった。
 次の日、2つめの隕石のかけら達が双樹会を通して蒸気研に持ち込まれる。前回の経験から、すぐにサワノバが呼ばれ再び解析が行われた。
「……これも、普通の石じゃ。どういう事じゃ……?」
 サワノバはやはり首を振って、そう結果を告げる。早速、そのかけらはミスティに渡され、女神との接触に賭ける事となった。


■夜・茶会■
 あちこちで生徒達が隕石や女神問題で東奔西走している間、何故か時計塔前広場は穏やかな空気に包まれていた。もちろん、その空気の真ん中にいるのはレダだった。
 レダが毎晩女神を見ていると聞いて、真っ先にレダに接触したのは“笑う道化”ラックである。彼は「レダは夜起きているのだから、昼間は昼寝しているはず」と勘を働かせ、昼休みに時計塔広場を訪れたのだ。
 果たして、レダはアルファントゥにくるまって、広場のベンチでぬくぬくとお昼寝をしていた。ラックは早速、レダに声を掛ける。
「レダ〜。ちょっとええ?」
 その言葉に、先に目を覚ましたのはアルファントゥの方だった。アルファントゥはラックの方を見ると、しっぽを使ってレダの顔を撫でる。
「ん〜。アルぅ〜。くすぐったいよ〜」
 レダはそう言いながら、体を起こした。だが、頭はまだ寝ているらしく、目をこすりながらアルファントゥにもたれかかる。そこで、アルファントゥがレダのほっぺをペロリと舐め、彼女はようやく目を覚ました。
「ごめんなぁ〜。レダ」
 ラックはまずそう謝ると、レダを誘う。
「レダ〜。最近女神様見に来てるんやって?」
 すると、レダはにっこり笑顔でこくんと頷く。
「そうだよ〜。アルといっしょにめがみさま見てるの〜」
「ボクも今晩、お弁当持って女神様を見に来るつもりなんやけど、レダとアルファントゥの分も作ってこよっか?」
 すると、レダはアルファントゥに抱きつきながら頷いた。
「ホント?! じゃ、お願いなの〜」
「まかしとき〜」
 ラックがそう言った時、時計塔の鐘が時を告げる。
「あ、午後の授業に行かなきゃ〜。じゃ、ラック。今夜ここでまってるね〜」
 レダはそう言うと、アルファントゥに乗った。次の瞬間、疾風と共にレダ達は走り去っていく。と、ラックがふと思った。
「あ、ボクも授業行かなぁ〜」
 だが、ここから学校までの距離を考えると、授業開始には間に合わないのは明白だった……。

 その日の夕方。レダが授業を終え、アルファントゥの散歩も兼ねて広場に来る。すると、彼女が来るのを待ちかまえていたかのように、生徒達がレダに近づいてきた。アルファントゥは身構えるが、生徒の中の1人“黒き疾風の”ウォルガが大丈夫だと言わんばかりにしゃがみ込む。
「レダ。どうして女神を見ているか、教えてくれないか?」
 目線の高さをアルファントゥに乗っているレダに合わせながら、彼は尋ねた。だが、ストレートに聞いて教えてくれるのなら、とっくに誰かがその答えを聞いているだろう。今回もレダは今までと同じように答えるだけだった。
「めがみさま見たいなぁ〜って、アルと2人で話してただけなの〜」
 すると、そこへ“混沌の使者”ファントムがやってきた。
「レダ。お星様はいりませんか?」
 その言葉に、レダは文字通り目を丸くする。
「おほしさま、ほしい〜」
「じゃ、両手を出して」
 ファントムの言葉に、レダは素直に両手を出す。すると、ファントムは綺麗な飴玉をいくつか、その小さな手のひらに乗せた。
「アルファントゥに乗っているとはいっても疲れはたまると思いますから、軽く糖分をとっておいた方が良いでしょう」
「うーん。わかんないけど、ありがと〜」
 どうやらレダにはやや難しかったようだが、とりあえず飴玉を口に含む。と、そんな様子を見た“双面姫”サラがレダに尋ねた。
「レダ。もしかして、お星様欲しいですの〜?」
 だが、レダはふるふると首を振る。
「ほしかったけど、キックスに怒られたの〜」
「じゃ、女神様にお願いがありますの〜?」
 サラが問いを続ける。だが、レダはまたふるふると首を振る。
「おねがいがあるわけじゃないの〜。ただ見たいだけなの〜」
 すると、サラはポンと手を打った。
「それじゃ、とりあえず女神様捕まえちゃいましょう〜〜」
 サラは半分かま掛けのつもりでそう言っていた。ただ、残りの半分は本気だったのだが、その本気の部分を察したのかはたまた別の事情があるのか。レダは珍しく強い口調で腕を振り回しながら叫ぶ。
「めがみさまをつかまえちゃだめって、アルが言ってるのー! めー! めー! めーっ!」
 この仕草はあからさまに怪しいが、とても追求できる状況ではない。仮に追求したとしても、レダは話してくれないだろう。サラは女神捕獲計画を保留するしかなかった。
 と、そこへラックがやってくる。両手には尋常では無いほどいっぱいの荷物。どうやら、お弁当のようである。
「お、みんなお揃いやね。みんなの分もお弁当持ってきたから、一緒に女神様見ぃへん? 大勢の方が楽しいしね〜♪」
 ラックがそう言うと、お弁当の匂いを嗅ぎつけたのか、レダがすっかり笑顔になって頷く。
「うん。見よう〜。にゅふふ」

 夜になり、ラックのお弁当でささやかなお茶会を開きながら、レダ達は女神が現れるのを待つ。
 だが、不幸にもその日は女神は現れなかった。レダは途中まで頑張っていたが、眠気に負けアルファントゥにくるまる。ファントムがそんなレダにコートを掛けると、アルファントゥはまるで「ありがとう」と言うように小さく頷いたあと、レダを背中に乗せて去っていった。
「ほな、お開きかな……」
 ラックの言葉で、今夜は解散となる。だが、そこにいた者の思いは1つだった。「明日も来よう」と頷きあい、時計台広場を去っていく。

 そして、次の日。街は隕石の噂で持ちきりだったが、レダ達は前日と同じように時計塔広場に集まった。いや、もっと言えば、広場に集まった面々は前日よりも増えていた。
「レダ。この前は悪かった」
 そう謝りながら、お茶会の輪に入ったのは“血剣”嘉島・熱人。先日の球技大会での騒ぎを、さすがに悪いと反省しての参加である。
「まぁ、アレだ。俺も女神を見て、出来れば話してみてぇってのもあるぜ」
 熱人の言葉に、レダが少し考えたあとアルファントゥに尋ねた。
「アル〜。めがみさまって、お話しできるの?」
 だが、しばらくアルファントゥと話したレダは、首を振った。
「アルったら、『話すのはとても難しい。おそらく無理だろう』って言うんだよ〜」
 と、それを聞いていたラックがレダに尋ねた。
「ほな、アルファントゥはあの女神が何か知ってるんかな?」
 こくこく。ふるふる。レダはラックの問いに、首を縦縦横横に振って答える。
「しってるけど、おしえてくれないの〜。アルファントゥは知ってるから、『女神をよく見ておきなさい』とか『女神を捕まえちゃダメだ』とか言うけど、ボクは何も知らないの……。でも、アルが言うし、ボクもめがみさまが何だか知りたいからみてるの〜」
 ここに来て、ようやくレダの目的が判明した。レダは『女神が何か知りたい』のだ。ファントムやウォルガも、そう言う事ならと改めて手伝う事を約束する。
「じゃ、レダ。一緒に女神様探して、写真に撮りましょう」
 そう言うのは“時刻む光翼”ショコラ。レダは彼女が持っていた『簡易型写真機』を見て、うんうんと頷いた。
「うん。一緒に探そう〜。で、その機械でとるんだよね」
 レダがその写真機をしげしげと見つめる。どうやら、レダの興味は1割ほどその写真機に移ったようだった。

 そうして、2日目のお茶会が始まった。やや遅れてその場に姿を見せた“幼き魔女”アナスタシアは、その様子を見て声を上げる。
「……驚いたのぅ。暇人というのは、こんなにいるものなのじゃな。ま、我もその暇人の一人なのじゃが……」
 アナスタシアが席に着くと、あからさまにお茶とは違う匂いが漂ってくる。ぐるりと見回すと、ラックの持ってきた荷物の横にリンゴ酒の瓶があった。
「おぬし、酒を持ち込んだのか?」
 すると、ラックは手をひらひらさせながらレダの方を指す。
「ボクだけやないよ♪ ほら」
 アナスタシアはレダの方を見る。すると、そこにはレダと“永劫なる探求者”キサがオルゴーン酒を飲み交わしている図があった。
「レティーさん。今夜は冷えますし、もう少しお酒はどうです?」
「わ〜い! いただきま〜す」
 オルゴーン酒とは、寒い地方で発達したアルコール度数の高いお酒の事である。それをレダがすいすいと空ける姿は、冷静に考えると違和感があった。反対に、キサの方がやや酔い気味である。
「まだ春は遠いようですが、狼さんは冬眠しないようで」
 そう言ってアルファントゥに語りかけるキサの様子は、間違いなく酔っぱらいのそれである。だが、本人は酔ってないと主張しながら、レダに尋ねた。
「そう言えば、女神様とお知り合いなんですか?」
 先程の話から、レダが女神と知り合いでないのはわかる。だが、アルファントゥはどうだろう? そう考えたレダは、アルファントゥに尋ねた。
「アルはめがみさまの事を知ってるけど、めがみさまがアルの事を知ってるかどうかはわからないって〜」
「じゃ、知り合いなんですね」
 キサは納得して、更にオルゴーン酒をコップに注ぐ。その時、サラが何かに気づいたように叫んだ。
「……来ますの〜! そこですの〜っ!」
 超常的勘でサラが指さしたその先の夜空には、淡く緑色に輝く女性の姿があった。流れるような長い髪、薄い布を纏いしその姿は神々しいと言うに相応しい。それは確かに『女神』と呼ぶべきものだった。
「話に聞いていたより、少し遠いか……?」
 ざわめく茶会の席で、ウォルガは学食一週間分と交換にネイから引き出した噂から判断して、そう呟く。それによると、一昨日まで出現していた女神は時計塔広場からほど近い橋の辺りに現れ、校舎の方まで舞うように移動しているとの事だった。
 冷静に観察してみると、今日出現した女神は先程の橋から少し離れて川の上にいるようだ。早速、アナスタシアが交信を試みるが、『抵抗』を感じてすぐに交信を中止した。
「あの“女神”は、やはりリエラじゃな……。じゃが、目的がわからぬ……」
 アナスタシアがそう言った時、同じく交信を掛けていた“光炎の使い手”ノイマンが言う。
「こっちも駄目だ……。レダ。君は女神様の声が聞こえないか?」
 すると、レダは小さく首を振った。
「声は聞こえないけど……うーん……わかんないよ〜。なんか、むねの中がもやもやする〜」
 どうやら、レダには他の生徒達と違って、女神リエラに何か感じる物があるらしい。
 と、女神が研究施設の方に舞うように移動しはじめる。それを見たレダが、珍しくきりりとした表情でアルファントゥに言った。
「ボク、めがみさまを追いかける! マリーのいるところなら、ボク、すぐに行けるよ!」
 レダは良くこの広場に口笛で呼び出される。その時たいていレダは「マリーの所に遊びに行っていた」と答えていた。それだけ、この広場と研究施設の道を、レダとアルファントゥは往復してきたのだ。道も熟知しているのだろう。
「ひみつの道があるんだ〜。行くよ〜!」
 レダはそう言うと、アルファントゥの背中に乗って駈けだしていく。他の者もあわててその後に付いていった。
 だが、アルファントゥの高速移動をもってしても、女神に追いつく事は出来なかった。正確に言えば、アルファントゥが研究施設に着いた時、女神は既に校舎の方へと移動して消えていたのだ。
「ふにゃ〜……」
 極度に集中してここまで来ていたレダは、緊張の糸が切れたのかアルファントゥの上でへろへろとへたり込む。アルファントゥはそんなレダを乗せ、ゆっくりとその場を去っていった。
「ほな、お開きかな……」
 ラックの言葉で、お茶会の二日目も終わりを告げた。


■夜・追跡■
 2つめの隕石が落ちた次の日の夜、“伊達男”ヴァニッシュは校舎の屋上にいた。
(女神といえば美人。美人といえば、“伊達男”として一度お会いせねばなるまい)
 そんな目的と共に、彼は最初、屋上に潜入するつもりでロープやら何やらを用意していたが、キーウィ達が今日も観測会を開いていたので、彼は犯罪者にならずにすんでいた。
「……さて、と。美人の女神はどこかな。おーい。女神〜。“伊達男”ヴァニッシュが会いに来たぜーっと」
 彼は早速双眼鏡を取り出し、夜空の観察を始める。
 その隣では“踊る影絵”ジャックが夜空を見つめていた。彼もまた、女神に会うためにここに来ていたが、その目的はヴァニッシュのそれより純粋である。
(今起こっている現象の原因を突き止めて、早くいつもの平穏な夜を取り戻さないと……)
「おおっ?!」
 双眼鏡から目を離し、ヴァニッシュが叫ぶ。彼らの思いが天に通じたのか、女神が姿を現したのだ。だが、彼女のいる場所は、校舎からやや遠く離れていた。丁度、研究施設の端辺りだろうか。そこで、ヴァニッシュは自分が出せるありったけの声を振り絞って叫んだ。
「そこの女神ーーっ! お茶しないかーーーいっ?!」
 ジャックはそれを聞いて、ほっと胸をなで下ろしていた。もし、女神が自分の『交信』に応えなかったら、ジャックも似たような台詞で呼びかけるつもりだったのだ。ジャックにとっては少々恥ずかしい台詞だったが、ヴァニッシュはそんな事も無いらしい。
(では、叫ぶのは任せましょう)
 と、その時、ヴァニッシュの思いが更に通じたのか、女神は研究施設からこちらに向かって、空を舞うように移動し始めた。
「ひゃっほぅ! そう来なくっちゃな」
 ヴァニッシュが喜びの声を上げる隣で、ジャックは早速女神に交信を試みる。だが、すぐに『抵抗』され、ジャックは交信をいったん解いた。
「……女神は、リエラですね……」
 ジャックがそう一言言うと、改めて交信を試みた。だが、一度も女神はその交信に応えることなく、学園の敷地内に入ろうと言うところで姿を消す。
「結局、何もわかりませんでしたね……」
 ジャックは女神のいない夜空を仰いでそう言った。

 それと時を同じくして、“翔ける者”アトリーズは蒸気機関研究所の敷地内で女神を待ちかまえていた。と、程なく女神が彼の視界に入ってくる。
「行こう! ディスケンス!」
 女神を見つけたアトリーズは、早速彼のリエラ『ディスケンス』と一緒に、高速飛行で女神に接触を試みようとした。ディスケンスが彼の言葉に背中をつかんだが、いつもなら飛び立つはずのディスケンスが、いつまで経っても飛ばない。
「ディスケンス! どうしたんだ?」
 そう言った瞬間、アトリーズの体を奇妙な感覚が包む。ぬるぬるとからみつく、おぞましくも寒気のする感覚。と、そこへ声が響いた。
「女神にちょっかいを出そうと言う不届き者はおぬしか」
 それは“探求者”ミリーだった。気づくと、アトリーズの足下の影から、触手がアトリーズとディスケンスを捉えている。
「わしの研究を邪魔する者には、フニクラで更に未知の感覚を味わって貰うぞ」
 その言葉に、影から伸びた触手が数を増してアトリーズにからみつく。そう。ミリーのリエラ『フニクラ』は、アトリーズの足下に展開していた闇そのものだったのだ。
 だが、このまま黙って捉えられているアトリーズではなかった。触手の感触に耐えながら、何とか自分のポケットまで手を伸ばす。
「これでも……食らえ!」
 そう言うと、彼はポケットから催涙爆弾を取り出した。だが、その爆弾は投げられる前に触手に没収される。
「おとなしくしておくのじゃ。今回は情報を集め、女神に無用な刺激を与えるべきではなかろうて」
 ミリーがそう言うと、アトリーズは主張した。
「俺だって、女神に話を聞きたいだけだ!」
「では、話を聞きたいだけの者が、何故こんな物を持っておる? リエラに効くわけもなかろう。それに、人に当たれば犯罪じゃぞ?」
 触手から渡された催涙爆弾を軽く弄びながら、ミリーが追求する。他の者が女神に接触するのを催涙爆弾で邪魔しようとしていたアトリーズは、その言葉に二の句をつげなかった。その間に、女神は2人の頭上を通り、校舎の方へと向かったところで消える。
「おぬしのせいで、女神の調査が出来なかったのじゃ」
 ミリーがそう言うと、フニクラの触手がようやくアトリーズを解放する。
(それはこっちも同じだよ……)
 アトリーズがそう思いながらその場を離れる。

 ルビィとミスティは、その夜も研究所の近くにある広場の芝生の上で女神が来るのを待っていた。もちろん、その手には隕石のかけらがある。
「それにしても、結局まだ誰も女神ちゃんとまともに接触できた奴はいないのか。何というか、見下されてるなぁ」
 ルビィが夜空を見上げながら、ふとそう言った。だが、ミスティはどう返して良いかわからず、曖昧に頷く。ルビィはそれを気にするでもなく、話を続ける。
「ま、俺達全員を見下すとは、さすがは天空の女神ちゃん。でも、それも今日で終わりだぜ。俺達にはこれがあるからな」
 ルビィは改めて、自分の手の中にある隕石を確認した。ミスティも自分の勘を信じて、隕石を抱きしめる。と、そこへ奇妙な声が聞こえてきた。
「俺はソウマ! 突然現れたあんたと話がしたくて探し回ったんだ!」
 不審に思った2人は、声のする方へ向かう。念のため、ミスティは交信レベルを上げ、リエラ『レヴァンティン』を呼び出した。
 程なく2人は声の主に出会う。それは女神の真下を走りながら叫んでいる“蒼空の黔鎧”ソウマだった。
「あんたはリエラなのか? あんたは隕石が出る時に来るのか? あんたは何をしてるんだ? あんたはいつも何処にいるんだ?」
 どうやら、ソウマは走りながら女神に問いかけているらしい。だが、女神はその問いに答える事はなかった。だが、更にソウマの質問は続く。
「あんたはリエラなのか?」
 その質問を聞いた時、ミスティは自分のすべき事を思い出した。
(女神様がリエラだとしたら、交信してみよう)
 ミスティは女神に交信を試みる。だが、既に他の生徒が試していたように、抵抗はあるものの、交信に女神が応える事はなかった。質問を終えたソウマも交信を試みるが、やはり女神は応えない。そうこうしているうちに、女神は校舎の辺りで姿を消した。
「……謎だらけだぜ」
 ソウマが苦々しくそう呟く。その姿を見ながら、ミスティとルビィは自分たちの勘が外れた事を悟った。

 女神が夜空に姿を現した時、アベルは彼のリエラ『天狗』と共に夜空を飛んでいた。
「女神だと? 馬鹿馬鹿しい……。あれは何者かのリエラか、リエラによる幻覚と考えるのが妥当だろう。私が正体を暴いて、民衆を落胆させてやるわ」
 今回の騒ぎを聞いてそう考えていたアベルは、自分が所属する『至高倶楽部』が対策本部になったのを最大限に利用し、女神の目的をこう推測していた。
「犯人の狙いは、隕石落下の事実を隠す事だろう。ならば、探索するのは女神そのもので有る必要はない」
 そこでアベルは天狗と共に、空に飛んでいる女神には目もくれず、女神の後方にいるであろう女神のフューリアを探すべく夜空を飛んでいたのだ。
(これで犯人がレアンだったら、かなり大掛かりな仕掛けだな……)
 アベルは伊達に“闇司祭”と呼ばれていない。危機的状況を作り出して、それを楽しむのが彼の望みだった。
(レアンに会ったら、協力を持ちかけるか。より日常を愉快にするためにな……)
 そんな事を考えながら、アベルは忍び笑いをしながら空中を見て回る。だが、結局彼が見つけた者は、彼の望みを満足させるにはほど遠かった。
「あれは……レアンか?」
 上空からアベルが目をこらしてみると、誰かが闇の中に立っていた。しかも、その手が淡く輝いている。顔などは見えないが、それは明らかに交信を行っている証だった。
(女神リエラの持ち主か?)
 そう思いながらも、アベルは地上に降りる事にする。すると、向こうもアベルに気づいたのか、交信を止め姿を闇の中へと紛れ込ませた。

 アトリーズとミリーが対峙していた場所から少し離れたところで、“天津風”リーヴァはリエラ『ヴェステ・シャイン』を呼び出していた。触媒のランタンの周りを飛びながら、ヴェステ・シャインはその能力『遠隔視聴』を行使する。もちろん、見ているのは夜空に浮かぶ女神。リーヴァには、彼女がまるで目の前にいるかのように見えていた。
「全く……迷惑な話だ。女神騒ぎのおかげで眠れなかったではないか。私の睡眠時間を返せ」
 女神にそう呟きながら、リーヴァは観察を続ける。と、女神が舞を始めた。
「……そう言えば、女神は何故上を見て舞っているんだ?」
 至近距離で観察して初めて気がついたのだが、女神の視線は上空に向けられていた。そこで、リーヴァは女神の視線の先に何があるかを見るべく、視点をずらす。
「……?! なるほど、そう言う事か……」
 視線をずらしていったリーヴァは驚きの声を上げた。そこでは、隕石が女神の舞に会わせて砕け散る光景があったのだ。
「衝撃波か何かか……?」
 リーヴァは観察を続ける。その間に、文字通り木っ端微塵になった隕石のかけらを、女神が再びの舞で更に砕いていた。完全に隕石を砕いた後、女神は姿を消す。
「……あれは、リエラだな……」
 リーヴァは交信を解いてそう呟く。あのような事が出来るものは、普通ならばリエラであると考えるのが妥当だろう。ならば、次に彼がとる行動は1つ。
「周りにリエラを呼び出した者がいるはずだ」
 女神はリーヴァの頭上を通り、校舎の手前辺りで消えていた。早速、リーヴァは痕跡を探すべく、消失地点の真下に向かう。
「あれは……?」
 その途中、リーヴァはアベルが地上に降りてくるところを目撃する。
「何やってるんだ?」
 リーヴァがアベルに尋ねる。だが、アベルはそれには答えず、苦々しくこう言うだけだった。
「ちっ。逃がしたか……」
 アベルはそう言うと、再び夜空へと飛んでいった。リーヴァもその後、女神消失地点の真下に痕跡が無いかどうか調べたが、結局有力な手がかりになるような物は無かった。


■昼・真実■
 夜が明けて、ルビィとミスティが蒸気研に戻ってくる。
「これ、お返しします……」
 そう言って隕石を返すミスティの声は、元気がない。その様子に、蒸気研で手伝いをしていた者達も、万策尽きたかと落胆する。
「悪魔の証明って言う言葉があってね。有る物を『有る』って証明するのは可能だけど、無い物を『無い』って証明するのはきわめて困難なんだって」
 マリーが、ぽつぽつとそう語り始める。
「森羅万象全てに対して『無い』と証明しなきゃいけないから、範囲が限定されてなければ、ずっと研究し続けなきゃいけない。結局、その研究を止めるのは、自分の意志ね」
「何が言いたいのじゃ?」
 ラザルスが問いかけると、マリーは眼鏡を外しながら、疲れ切った顔でこう言った。
「認めたくないけど、この隕石には何もないってそろそろ認めなきゃいけないってこと。もう、私たちに出来る事はないわ……」
 その言葉によって、蒸気研の隕石解析は成果無しという最悪の結果を導き出して終わろうとしていた。
 だが、その時。
「まだ、出来る事はある!」
 研究室の中から声が上がり、マリー達は一斉にそちらの方を向く。そこにいたのは、マーティだった。
「出来る事って?」
 マリーが尋ねると、マーティは自信たっぷりにこう言った。
「それは、諦めない事だ!」
「諦めないって言ったって、精神論だけじゃどうしようもないのよ?」
 マリーが落胆した声で言うと、マーティは大丈夫と胸を張り、カマー教授に言う。
「カマーちゃん。ちょっとお願いがあるんだけどぉ」
「はいはい。何かしら」
 マーティはルビィが机の上に置いた隕石を両手で持ち上げて言う。
「この子があの日の夜どうやって墜ちてきたか、見てもいいかしらん?」
「そうか。『過去視』か」
 マーティが何をしたいか理解したランドがそう言うと、マーティは頷く。
「その通りよぉん」
 マーティのリエラ『スパイラルパスト』の過去視は、まわりにいる者にも同じものを見せる。そう説明すると、蒸気研の中に一筋の希望の光が指した。
「じゃあ、ランド。またまた、後はお願いねん」
 マーティの言葉に、ランドは頷く。以前にもこの2人のコンビで過去視をした事があるので、ランドは既に何をすべきかわかっていた。
 早速、マーティは交信レベルを上げた。程なく、どこかの光景が空中に映し出される。その映像は次第に遡り、光景は一気に闇へと移っていった。
「夜空かの? 隕石だから、夜空から来るのは当然じゃな」
 どんな小さな事でも見落とすまいと目をこらしていたラザルスが、ふとそう呟く。が、程なく、映像は再び地上へと戻ってきていた。
「……何じゃと?! この隕石は『地上から打ち上げられた』と言うのか!」
 口々に驚きの声が上がる。だが、その次の瞬間、光景を見ていた者達にさらなる衝撃が走った。
「……少年……?」
 そこには、隕石……いや、隕石と思われていた普通の石……を持っていた少年の姿があったのだ。
 マーティはそこで時を遡らせるのをやめ、改めて映像を時間軸に沿って映し出す。
 少年は大きな帽子を目深に被っていたため表情はよく見えなかったが、帽子から出ている部分から、黒髪と褐色の肌なのはわかる。服装はいわゆるオーバーオールというものだろうか。制服を着ていないので、アルメイスの生徒なのかどうかはわからない。背は余り高くないようだ。映像から判断すると、マーティと同じくらいだろうか。
 程なく、少年は交信レベルを上げ、リエラを呼び出す。形を持たないそのリエラは、隕石を包み込み、一瞬にして筒状に変形した。そして、まるで吹き矢を打つかのように、夜空に向かってそれを打ち上げる。
 映像はそこで終わった。もっとも、後は夜空の光景と地面に落ちた時の光景しか見えなかっただろう。情報としては、十分すぎるほどであった。
「ところで、この石は何だったかしらん」
 交信を終えたマーティは、自分が触っていた隕石を指して、そう言った。どうやら、今回スパイラルパストがマーティから奪った記憶も、余り影響のない物であったらしい。ランドは早速、そんなマーティの面倒を見る事にした。
「うーん。誰だったかなぁ。あの少年、見覚えあるんだけど……」
 マリーはそう言って首をひねっていた。もちろん、スパイラルパストがマリーからも記憶を奪った訳ではない。だが、しばらく考えた後、結局マリーは失われた記憶を追求するのをやめた。
「思い出せないって事は、重要じゃないって事ね。きっと」
「ふむ。それはともかく、次はあの少年を捜すべきじゃな」
 ラザルスが最後にそうまとめ、今回の『事件』は次の段階に移ろうとしていた。と、ランドから状況を改めて聞いたマーティが呟く。
「……我々は、気づくのが遅すぎたのかもしれない……」


「じゃ、レダ。今夜も出歩くんなら、誰かと一緒にな。俺ならいつでもつきあうからな」
 女神が再び出た夜の次の日。“銀嶺の氷嵐”サキトは、時計塔前広場でそう言うとレダの頭をぽむぽむと優しく叩いていた。
「うん。ありがとう〜」
 そう言うと、レダはアルファントゥに抱きつく。レダはお昼寝中のところに、サキトとガブリエラの訪問を受け、女神の姿を2人に説明していたのだ。
「起こしてしまってごめんなさいですの。また、女神様に会えると良いですね」
 ガブリエラの言葉に、レダは大丈夫と頷くとアルファントゥにくるまって、再びの眠りについた。
「では、図書館に行きますの」
 ガブリエラの言葉に、サキトも頷く。
 図書館に行った2人は、早速膨大な蔵書から伝承や神話に関する本を選び、レダから聞いた女神の姿に合致する話を探し始める。女神が『女神』と何の疑いもなく呼ばれていたのは、伝説や神話にその女神に似た女神がいるからではないと、2人は推測していたのだ。
「……アルファントゥは知ってそうだったけど、さすがにレダは知らなかったみたいだな」
 サキトは女神の姿を聞きがてら、そんな女神の伝承を知ってるかとレダに尋ねていたがが、茶会に参加していた生徒達に答えたように、レダは知らないと首を振っていた。
「女神の話はラーナ教にもあるみたいですけど、それと今回の女神は違うみたいです……」
 ガブリエラが分厚い本を十数冊読んだところで、疲れた声でそう呟く。と、そこへ“白き風の”エルフリーデが彼女に話しかけてきた。
「もし良かったら、一緒に休憩しませんです?」
 エルフリーデも、事件と言う視点から独自に女神について調べていた。が、ガブリエラが同じ事を調べているとわかり、休憩に誘ったのだ。
「ありがとうです〜」
 ガブリエラと、隣で調べ物を続けていたサキトは、そんなエルフリーデの申し出を受け、3人で談話室に行く。
「ショートブレッドや揚げパンを持ってきてるです。メオティやグルーメルもあるですよ」
 エルフリーデが食べ物を提供し、3人は本と格闘して疲れた体を休める。その後、3人は協力して、再び資料を探し始めた。
 そして数日後、サキトが疑問に思いながらも、1冊の本を他の2人に見せる。
「にわかには信じられないが……これじゃないか?」
 ガブリエラとエルフリーデは、その本を覗き込んで驚く。
「これは……“果てなき大地の”ティベロン……?!」
 そこに描かれていた4大リエラの1つ、地のティベロンの絵は、レダから聞いた女神の特徴と酷似していた。違う点を上げるとするならば、絵やその解説文からはティベロンが緑色に輝いていたかどうか不明な事くらいであろうか。
「ふむ。“果てなき大地の”ティベロンとは……」
 と、そう言いながら顔を出してきたのはホリィ。彼も独自に図書館で資料にあたっていたが、ガブリエラ達の声を聞きつけてやって来たのだ。
 ホリィもそこに合流し、4人はティベロンに関する資料を更に探した。ティベロンが過去に空中を飛んでいたと記述された資料が見つからない等、いくつか疑問点も上がりはしたが、資料を読み解けば読み解く程、4人には空にいた女神がティベロンであると感じられていた。
 特に、サキトはある本に書かれていた次の文に注目する。
「『ティベロンは、その力を攻撃ではなく守護に使う事が多い。あらゆる命を守るのが、ティベロンの使命であるかのように』だそうだ」
「どういう事です?」
「やつが……女神が現れる様になってから隕石が墜ちてないという事は、女神は隕石が墜ちるのを防ぐために現れたのかもしれないって事だ。隕石からアルメイスを守る為に、な」
 と、そこで図書館の閉館時間となる。4人は十分な手応えを感じながら、図書館を後にした。

 次の日、エルフリーデは昨日までの調査結果をマイヤに報告した。
「まだ不確定なところは多いですが、夜空に舞い降りた女神は4大リエラの1つ、ティベロンであると思うです」
「なるほど。報告に感謝します」
 報告を受けたマイヤは少し考えた後に、エルフリーデと会長の補佐をしたいと申し出ていた水華に言う。
「お二人に、それぞれ用事を頼みたいのですが」
「何でしょう?」
 2人がマイヤの方を見ると、マイヤは薔薇を構えながら真剣な表情で用件を告げる。
「水華君は蒸気機関研究室に行って、マリエージュ君を呼んできてください。そして、エルフリーデ君は……」

 用事を頼まれたエルフリーデが向かったのは、至高倶楽部の部室である。扉をノックすると、中からコンポートが返事をした。
「開いてるよ」
 早速、エルフリーデが中に入る。が、そこにいたのはコンポートだけだった。
「他の方は?」
「……出かけてるよ」
 本来なら、彼もフィールドワークに行って隕石の調査などをしているはずだった。だが、調査の途中でネイに会った時告げられた言葉が、コンポートのやる気を3割ほど削いでいた。
「……リッチェルが……長期の里帰り中だったなんて……」
 独り言を呟くコンポートに、エルフリーデが話しかける。
「あの。調査本部の人に、マイヤ会長からの伝言があるのですが……」
「何だ?」
 用件を聞かれたエルフリーデは、一呼吸置くとマイヤからの伝言を告げる。
「隕石が街の人に危害を与える可能性が出たので、『隕石対策本部』を改めて学園側で組織したく、こちらの調査本部の合流を願いたいとの事です」
 その言葉に、コンポートはやる気を取り戻した。
「……隕石による被害を出さないのが、自分のなすべき事だ。俺は、何をやってたんだ!」
 コンポートはそう言うと部屋を飛び出す。後に取り残されたエルフリーデも、用件は伝えたからと、部屋を後にした。

 一方、もう一つの伝言を頼まれていた水華がマリーの元を訪れた時、そこにはセバスチャンが先客としてきていた。
「なるほど。隕石は誰か別のフューリアによって落とされていたのですか……」
 マリーの話を聞いて、メモを取るセバスチャン。と、水華がマリーに言う。
「マイヤ会長から伝言があるんだけど……」
「あら。直々に? 何だろう」
「ええと。学園側で『隕石対策本部』を改めて組織するので、その管理官をマリーさんに頼みたいそうよ」
 すると、その話を聞いていたセバスチャンが、様々なところから聞いてきていた情報とその話を総合して、こうまとめる。
「なるほど。隕石は人為的に落とされたもので、ホリィ様曰く女神ことティベロンがその隕石から街を守っているかもしれない。だが、ティベロンばかりに任せてはおけない、と言ったところですね」
 マリーはそれを聞いて、水華に言った。
「了解したわ、と会長に伝えて」

参加者

“福音の姫巫女”神音 “飄然たる”ロイド
“眠り姫”クルーエル “天津風”リーヴァ
“蒼盾”エドウィン “怠惰な隠士”ジェダイト
“せせらぐ流水”水華 “白衣の悪魔”カズヤ
“探求者”ミリー “永劫なる探求者”キサ
“光炎の使い手”ノイマン “弦月の剣使い”ミスティ
“翔ける者”アトリーズ “喧噪レポーター”パフェ
“笑う道化”ラック “朧月”ファントム
“風曲の紡ぎ手”セラ “双面姫”サラ
“光紡ぐ花”澄花 “ぐうたら”ナギリエッタ
“闇司祭”アベル “紫紺の騎士”エグザス
“銀の飛跡”シルフィス “黒き疾風の”ウォルガ
“暴走暴発”レイ “タフガイ”コンポート
“自称天才”ルビィ “待宵姫”シェラザード
“鍛冶職人”サワノバ “伊達男”ヴァニッシュ
“幼き魔女”アナスタシア “六翼の”セラス
“銀嶺の傀儡師”リオン “闇の輝星”ジーク
“銀晶”ランド “安全信号”紅楼・夢
“深緑の泉”円 “冥き腕の”バティスタ
“踊る影絵”ジャック “餽餓者”クロウ
“悪博士”ホリィ “闘う執事”セバスチャン
“血剣”嘉島・熱人 “見守られる者”リーリア
“時刻む光翼”ショコラ “熱血策士”コタンクル
“海星の娘”カイゼル “白銀の皇女”アンジェラ
“天駆ける記者”カリン “陽気な隠者”ラザルス
“堕天の翼”雪奈 “水月の天使”ガブリエラ
“路地裏の狼”マリュウ “蒼空の黔鎧”ソウマ
“茨の城主”フォルシアス “紅髪の”リン
“土くれ職人”巍恩 “竜使い”アーフィ
“炎華の奏者”グリンダ “宵闇に潜む者”紫苑
“狭間の女王”コトネ “拙き風使い”風見来生
“緑の涼風”シーナ “彷徨い”ルーファス
“銀嶺の氷嵐”サキト “ヤル気0.0001%”LAG
“翡翠の闇星”ガークス “爆裂忍者”忍火丸
“貧乏学生”エンゲルス “七彩の奏咒”ルカ
“久遠の響”キーリ “のんびりや”キーウィ
“白き風の”エルフリーデ “深藍の冬凪”柊 細雪
ラシーネ “微笑む太陽”ノエル
“旋律の”プラチナム “燦々Gaogao”柚・Citron
“轟轟たる爆轟”ルオー “影使い”ティル
“憂鬱な策士”フィリップ “泡沫の夢”マーティ
“不完全な心”クレイ