夢の子の明日
「あれから、レダは姿を見せないわね……」
 リエラ対策班の会議室で、マリーがふと呟く。

 レダがリエラとしてパーティが去ってから、レダに会った者はいなかった。
 微風通りでの暴走行為も無くなった。
 ……そして、時計塔広場でアルファントゥと散歩するレダの姿も見られなくなった。

 それとは反対に、双樹会側はこの事態を重視したのか、リエラ対策班は追加予算を組まれ、活動を本格的に行うこととなる。そして……
「事態が事態なので、私も協力をすることになった。以後、よろしく頼む」
 そう言って、アルフレッド寮長がリエラ対策班に参加することとなった。
「早速だが、対策班の諸君に認識して欲しいことがある。これは、双樹会からの通達だ」
 会議の席上で寮長はそう言って、連絡事項を述べる。
「レティー・ダークの処遇だが、出来る限り生け捕りにして欲しい。これは、感情論でも情けでもない。彼女は出来うる限りこの学園都市アルメイスにて保護する事が、最良の策であると考えるからだ」
 寮長の横でずっと話を聞いていたマリーは、寮長の言葉の本当の意味を理解していた。
(……要は、レダを実験対象にするってことね。確かに、レダの真実には興味があるけど……)
 科学の徒であるマリーは、複雑な気持ちでその言葉を胸にしまう。寮長はこう話を続けた。
「今回の件に関して、双樹会として最大限の協力は惜しまない。道具などに関しては融通はしよう。リエラ能力使用は原則として許可する。一刻も早く、彼女を保護して欲しい。通達は以上だ」
 活動に関しては、寮長の管理下にて出来うる限りのことを行えると説明して、話は終了した。


 ネイ、キックス、リッチェルと彼女たちに協力をすると言った生徒達は、天文部の部室に集まっていた。ここは鍵が掛かるので、秘密の打ち合わせにはうってつけである。それからも判るように、彼女たちはリエラ対策班とは別行動を取ることにしていた。
「……で、どうするんだ?」
 キックスが気分悪そうにそうネイに尋ねる。ネイは腕を組みながら、こう答えた。
「手は一応3つ、かな……」
 そう言うと、リッチェルが近くにあったボードにネイの考えを書き出し始める。
「やりたくない順番に話すと、1つめは『高天の儀を行う』」
「やりたくないもなにも、出来ないだろうが。次の皆既日食がいつだと思ってるんだ。そもそも、皆既日食なんて滅多に起こるもんじゃねぇ。20年とか30年で次が来たら、それこそ奇跡だ。天文学的な計算だと、早くて56年。次の皆既日食まで2〜300年とか言うのもざらだ」
 キックスが珍しく饒舌にそう説明すると、リッチェルが続ける。
「かといって、わたくし達が時に頼らず高天の儀を行えるようになっているのかと言えば、そうでは無いのでしょう。ネーティア様。流石にその案を行うのは、不可能ではなくて?」
 リッチェルの言葉にネイは頷く。
「言ってみただけだよ。私だって、そんな不確実な方法は当てにはしてないし。だから、最初に『一応』って言ったんだ。実際は手は2つだと思って」
 そして、ネイは改めて説明を続ける。
「えっと、2つめは、『リエラとして、パートナーのフューリアを見つける』かな。例えば、前にあった虹色の猫と孤児院の女の子。最近だと銀色リエラのエイムさんとラジェッタちゃん」
 暴走する自存型リエラは、個体差はあるが、急いで次のパートナーを探している事が多い。だから、今回もレダに対してパートナーのフューリアを見つける事が出来たら、ひとまず危険は無くなり、安定するだろうと言う発想である。
「ただ、今までの場合と違い、1つ未知の要素があるんだよ」
 ネイの言葉に、リッチェルが頷く。
「アルファントゥですわ。アルファントゥにも別のパートナーを見つける必要があるのか、レティー・ダークのパートナーがそのままアルファントゥのパートナーになるのか。前例のない話ですから、どうなるかはさっぱり判らないのですわ」
「……で、3つめは何なんだよ。やりたくない順番って事は、今の話よりもっとやりたいことがあるって事なんだろ? 少なくとも、俺はどっちもやりたくないぞ」
 キックスがそういってネイの話を急かす。恐らく、今までの2つはキックスにとってはどちらも同程度に気にくわないのだろう。
「じゃ、3つめ。『何らかの方法で、レダの中のバランスを一気にフューリアへシフトさせ、元のハーフ状態、もしくはフューリア状態に持って行く』」
 それを聞いた時、キックスは思わず叫んだ。
「おい! 『何らか』って何だよ! 一番肝心な部分が抜けてるじゃねーかよ!」
「そんなこと言ったって! この前やったパーティだって失敗しちゃったんだよ!」
 売り言葉に買い言葉。キックスとネイは口げんかを始めた。それを止めるでもなく、リッチェルが補足の説明を行う。
「ヒントは無くは無いんだと思うのですわ。丁度、この前のパーティでシルフィスさんが言っていましたわね? 『己の存在が希薄になると言うべきかしら』と。そこを補完すると良いのではと、ネーティア様は考えて居るのですわ」
 リッチェルがそう説明すると、ネイがこう続ける。
「うん。レダが『自分がフューリアのレティー・ダークと言う存在で居続けたい』と思わせる事が出来れば、一気にフューリア寄りにバランスが傾くと思うんだ」
 キックスはそれを聞いて、いつもの調子でネイをこう茶化す。
「……それなら、もしお前がリエラになったら、戻すのは簡単そうなんだがな。『リエラになったら、きっと美味しい飯を食うことも噂話聞き回ることも自由には出来ねぇぞ』って説得すれば戻りそうだ」
 だが、ネイはいつものように明るくそれに返すことはしなかった。キックスも、さすがに悪いと思ったのか、静かにこう尋ねる。
「で……どうするんだ?」
 ネイは暫く考えていたあと、こう告げた。
「私は、3番で行きたい……。でも、次に失敗したら、レダはもうフューリアに戻せないかもと思うと、怖いよ……。方法も、見えないし……」
 ネイはそう言うと、耐えきれず黙ってしまった。


 それからしばらくの間、ネイ達もリエラ対策班もはっきりとした行動方針を打ち出せずにいた。なにしろ、肝心のレダもしくはアルファントゥがさっぱり見つからないのだ。
 だが、事態は動いた。ついに、レダの居場所がわかったのだ。
「リットランドに続く鉄道のそば。とある森の中で彼女を見たと言う話が来たわ。どうやら、レダはリットランドに向かっているらしいよ」
 マリーが対策班にたれ込みの内容をそう説明すると、寮長がそれに続ける。
「私事だが、私はリットランドの森に土地勘がある。だから私が案内するといいのだが、寮長としての仕事もあるし、会長から私はアルメイスを離れないで欲しいとの要望も出た。なので、マリー君にあの辺りの知識を教えておこうと思う」
 寮長はそこで一呼吸置くと、こう告げた。
「特に注意すべきは、あの辺りに出没する『白き大樹のエルランド』と言うはぐれリエラだ。くれぐれも気をつけて欲しい」
 白き大樹のエルランドとは、帝国の中で目撃されたはぐれリエラの中でも危険度が高いと言われるリエラである。かつて、学徒動員まで行われて排除を試みたが、その驚異的な治癒力と攻撃力により完全排除は適わなかったと言う。最近では活動していると言う話は聞かれなかったが、完全に排除されていない以上、最も注意すべき事項である事には間違いはなかった。
 マリーは寮長の話を受け、行動方針をこう定めた。
「リエラ対策班は2つに分かれることにするわ。私はリットランドに向かって、レダが来るであろう場所でレダの確保。寮長はアルメイスに残って、アルメイスの防衛。レダの確保に関しては改めて作戦とか決めるから、次回までに森の中での作戦を考えておいて。もちろん、はぐれリエラ対策も」
 こうして、対策班の本日の会議は終了となった。


「……ったく……居場所が分かったのに、これかよ……」
 キックスは天文部部室でいらいらとしていた。
「キリツ様。少し落ち着かれた方が良くはなくて?」
 リッチェルがそう言ってキックスを宥める。だが、彼にとってはそれもまたいらいらの原因となっていた。
「……てめぇがネイの従者じゃなかったら、とっとと追い出してるんだからな」
 キックスはそうリッチェルにあたるしかなかった。
 と、そこへネイが戻ってくる。ネイはいつもの様に、街での噂集めをしていたのだ。
「私はやっぱりこれから始めないとね」
 そう言うネイに、リッチェルが報告する。リッチェルはリッチェルで、独自に情報を集めていたのだ。
「ネーティア様。向こうが動き始めましたわ」
 すると、ネイは頷いた。
「……聞いたよ。やっぱり、私たちもリットランドに向かった方が良いかな……」
 ネイは腕組みをし、迷いながらそう答える。反対に、キックスには迷いはない。
「俺は行くからな。あいつらにレダを渡してたまるか」
 そう言って、キックスは支度を始める。それを見ながら、ネイはリッチェルと互いの情報を交換しはじめた。と、言ってもリッチェルからの情報は先程出たので、ネイが手に入れた情報を話し始める。
「気になる噂が1つだけあったよ。黒いコートを着込んだ、全身黒ずくめの男が夕暮れ時に時計塔の周りを歩いてたって。で、人を見つけると、『思い出は……どこにあるのだ?』って尋ねてくるらしいんだ。目撃情報によると、その男の髪は黒。肌は褐色。目は濃い茶色。そして、誰もその人を、今まで見たことがないって」
 そこまでいったネイは、キックスに尋ねる。
「安直かも知れないけど、キックス〜。男の人の親戚とかいない?」
「知らねぇな。聞いた事ねぇ」
 キックスは支度の手を緩めず、そうぶっきらぼうに答えると、鞄を抱えて言った。
「俺は1人でもレダを助ける。ネイ。終わったら鍵かけて、先輩に返しといてくれ」
 そう言い残して、キックスは天文部部室を出て行く。
「ちょ、ちょっと! キックス!」
 ネイが止めた時には、天文部の重い扉は閉まっていた。

 キックスはそのまま昇降機で地上に降り、駅に向かおうとする。あたりはすっかり日が落ちていた。
 と、歩き始めたキックスを誰かが呼び止める。
「誰だ?」
 キックスが振り向くと、そこにはネイの話していた全身黒ずくめの男が居た。そして、ネイが話していた通りの質問を、キックスにも尋ねる。
「キリツ。思い出は……どこにあるのだ?」
「思い出……? 思い出……そうか!」
 キックスはその言葉に、踵を返して天文部部室へ戻る。彼の顔には自信があった。
(これで……きっと元に戻せる。存在は消えかけているかもしれねぇけど、絶対に消えないものが、きっと残ってる)

■残る者■
 レダの事件に関わろうとした者達は、概ねその行き先をリットランドへと定めていた。それは、リエラ対策班もネイ達も変わる所がない。
 だが、行き先がアルメイスの外と言うことで、リットランドへ行きたくても行けない者がいる。その筆頭はアルフレッド寮長と言うこともあってか、所用でリットランドに行けない者達は寮長の所へと自然に集まってきていた。
(いくら、レアンさんでも具合の悪い人を放っておくなんて出来ません……)
 サウルとの約束で彼の家に居る“春の魔女”織原 優真は、アルメイスに残ることを決めていた。“真白の闇姫”連理はリットランドに向かうとのことで、優真は連理に託すことにしたのだ。
(リットランドには行けませんけど、わたしはわたしで残って出来ることがあるはずです。レダさんや連理さん達が安心して帰ってこられるように)
 優真はそんな思いで寮長の所を尋ねた。そこには、既に“風曲の紡ぎ手”セラや“天津風”リーヴァの姿がある。彼らも優真と同じ考えなのか、寮長にこんな要望を出していた。
「レダ君が普通に……フューリアとして扱われるように取りはからって貰えないだろうか?」
 リエラ対策班に寮長が配属された目的は、「レダを学園都市アルメイスで保護する為」である。これは「実験対象」として囲い込む意味合いがあるのだと言うことは、察しの良い者なら気づいていた。だから、彼らはレダを実験動物ではなくアルメイスの生徒として扱って欲しいと、寮長に言ったのだ。
 寮長は彼らのそんな要望に、静かに答えた。
「想像しているような酷いことにはならないと思う」
 寮長の言葉に同調するように、リーヴァが続けた。
「そうだ。フューリアとして扱われなければ、レダ君の自我が揺らぎ、再び同様の事件が起こる可能性がある」
 寮長はその言葉に頷き、こう続けた。
「レダ君には、今までがそうであったように、まずは自存型リエラのアルファントゥのフューリアとしての協力をお願いすると思う」
 学園都市アルメイスにおいて、自存型リエラは研究対象である。研究員などの話を聞く限りでは、レダは自存型リエラの研究に協力を拒むことはしなかったという。
「エイムさんに聞いた話では、今の学園長は人道的な方のようですし、お願いすればレダさんが酷い実験の対象になることはなさそうですわね」
 話の流れが酷い方向に向かわなさそうだと思ったセラは、ほっと胸をなで下ろしながらそう言った。優真もそう思った時、リーヴァは寮長に更に尋ねる。
「もう少し確実な答えが欲しい所だ。はっきりと確約出来る権限を持っている者にも交渉をしたい」
 その問いに、寮長はこう答えた。
「……レダ君の保護に関しては、双樹会の名の下に私が任されている。アルフレッド・フォン・ライゼンバードの名において、責任を持って伝えよう。もっとも、さっきセラ君が言ったように、学園長はこの件に関して酷い実験を行う気はないだろう」
 この件に関しての最高責任は学園長にあると、寮長は暗に言った。そして、学園長にこの件で交渉は出来ないとも。
「……今回のレダ君の事件に関しては、私にも幾ばくかの責任があると思う。師匠エルリントの事に関してもう少しはっきりさせておけば、違った結果になったかも知れない。だから、この件に関しては悪い方向に行かないようにしたいと、私も思っているよ」
 寮長がそうまとめ、レダの処遇に関しては話が終わった。
「ところで、アルフレッド様……。協力して頂けませんか……?」
 そう言ってセラがアレフの両手を握る。
「……な、何かな? 改まって」
 セラの様子に驚くアレフ。セラはその状態のまま、アレフにこう告げる。
「実は、レダさんが帰ってきた時に、お迎えの準備をしたいと思ってますの。既に、何人かは協力して下さると言ってますわ」
「それは、どういう事かな?」
 アレフが尋ねると、セラは笑顔で答えた。
「パーティをやり直そうと思うのですわ……アルフレッド様」
 そう言ってアレフを見つめるセラ。良い雰囲気のまま進むかと思ったその時、リーヴァが軽く咳払いをする。アレフは優しくセラの手を解くと、こう言った。
「とにかく、パーティを行うにしてもまずはレダ君を保護しないと始まらない。そろそろ最後の会議が始まるので、私は失礼するよ」
 寮長がそう言って部屋を出たので、そこにいた他の者達も部屋を出ることにした。

 寮長の言う最後の会議とは、リエラ対策班のアルメイスでの最後の会議である。リエラ対策班のリットランド行きは既に決定事項であり、この会議が終了し、3日間の準備期間の後にリットランドへと向かうことになっていた。
(何事も起こらなければ良いが……)
 行くことが適わぬもどかしさを振り払いつつ、寮長は会議の場へと向かう。と、その反対側から“ぐうたら”ナギリエッタとエリスが歩いてきた。
「ゴメンね。エリス〜。付き合わせちゃって」
「……そんなことはないわ。私も少し行き詰まっていたから、気晴らしにはなったわ」
 2人はそんなことを話している。大したことでは無さそうだと寮長が先を急ごうとした時、ナギリエッタのこんな言葉が耳に入ってきた。
「レダの保護指示の書類には、ちゃんとマイヤ会長の印が押してあったよ」
 どうやら、ナギリエッタは今回のレダ保護に関して、幾ばくかの疑問を持っていたようだ。だが、彼女の疑問はあっさりと否定されていた。
「……じゃ、そろそろ行くわ。早く見つけないと」
 エリスはナギリエッタにそう言うと、どこかへと行った。聞く所によると、エリスはフランを探していたという。フランに関しては他にも何人か生徒達が探していたが、手掛かりなどは一切無く、捜索は難航しているらしい。
 ナギリエッタはそれ以上は尋ねず、エリスの後ろ姿を見送る。寮長もふと足を止め、エリスの後ろ姿を見た。
(……私だけは、貫こう。自らの……大地の理を守ることを)
 先日立てた誓いを思い出し、寮長は再び会議の場へと急ぐことにした。


■捕らえる者■
 対策班に寮長が付いた時、他の者は既に相談を始めていた。それと言うのも、先日“鍛冶職人”サワノバがこんな提案をしていたのだ。
「戦闘時の指揮権を譲渡してくれるかの?」
 サワノバの言い分はこうである。
「リットランド方面では対リエラ戦を想定しておく必要があろう。その際、個人が勝手に行動すると、要らぬ被害を招き兼ねん」
「それはそうね」
「それに、マリー嬢ちゃんは1人じゃ。ハーフリエラ捕獲指揮と戦闘指揮を一緒に行えというのもちと酷な話。そこでじゃ、柄ではないがわしが出しゃばろうと思ったのじゃよ」
 マリーは考えた結果、その申し出を受けることにした。サワノバ以下至高倶楽部の面々に関しては、修学旅行時の紅白戦や公式団体戦での優勝経験回数などから、個々の能力の高さと連携に関しては既に実証済みである。
「それじゃ、お願いしていいかな。私は捕獲部隊の方の指揮をするから」
「承知したのじゃ。特に危険なエルランド戦は任せておくのじゃ」
 こうして、対策班に「対リエラ戦部隊」が出来ており、彼らが対リエラ戦に向けて相談を行っていたのだ。
 と、寮長が入ってきたのを見て、その部隊に所属になっていた“幼き魔女”アナスタシアが早速尋ねる。
「念のため聞いておきたいのじゃが、エルランドが出た時には『技』の使用が認められるんじゃろうな?」
 寮長はその問いにとまどう事無くこう答えた。
「対エルランド戦に関しては、かつての学徒動員に準ずると言う指示が出ている」
 アナスタシアにとっては、その答えで十分だった。彼女はかつての学徒動員に関して調べており、そこではある『技』が有効に活用されていた事までは突き止めていたのだ。
「認められないなら、参加はやめようと思っておったよ。我に自殺願望はないでの」
 そう言って、アナスタシアは部隊での相談へ戻る。それと入れ替わるように、“不完全な心”クレイが寮長の元へと来た。
「教えて下さい。6年前の事件について」
 6年前の事件。とあるはぐれリエラが森の中に逃げ込んだ事件。森の中を探していると、1人の女の子と黒い狼のリエラが発見された事件。女の子の名前はレティー・ダーク。黒い狼のリエラはアルファントゥ。
「その時の『とあるはぐれリエラ』とは、エルランドなのですか?」
 その問いにリエラ戦部隊で相談していた“闇司祭”アベルも顔を上げた。彼はレダの母親エルリントとリエラ・エルランドの類似した名前に疑問を抱いていたのだ。
(時間軸を付き合わせる必要があるな……。2人が同一人物の可能性もある)
 他の者も、この類似に幾ばくかの疑問を持っていた。そんな注目を浴びる中、寮長はゆっくりと頷く。大方の予想通り、6年前からエルランドはこの付近にいるのだ。
「では、6年前にエルランドが出た時の状況を教えて頂けませんか」
 クレイが続けてそう尋ねると、“蒼盾”エドウィンや“銀晶”ランドもまた寮長へと尋ねた。
「結局、レダの母親エルリントは、エルランドに倒されたのか?」
「そうでなければ、レダの母親は『誰に』やられたんだ?」
 だが、意外なことに寮長は首を振った。
「……はっきりしたことは、わからない」
「どうしてですか? その時寮長はそこにいたのでは?」
 クレイが尋ねると、寮長は再び首を振った。
「前に話したことがあるかも知れないが、私は師匠エルリントが森を守って命を落とされた瞬間を見ていない。その時私は師匠から用事を仰せつかって、森を離れていたんだ。そして、私が森に戻りそこに行った時は、何もかもが遅かったのだ……。師匠は既に命を落とされ、私は側にいたティベロンの声を聞いた……。森の中に逃げ込んだリエラがエルランドというのは、後から聞いた話なのだ……」
 寮長はそう言うと、目を伏せた。
「……色々聞いて申し訳ありません」
 クレイは頭を下げ、寮長に謝る。寮長も気を取り直し、顔を上げた。
「では、エルランドとエルリントの関係もわからないと言うことだな?」
 アベルが尋ねると、寮長は静かに首を振った。
「私も、師匠の死に関して、何も調べなかったわけではない。他の者が思うように、エルランドが師匠エルリントの命を奪ったものと考えて調査を進めたことはある」
 対策班は、寮長の話に耳を傾ける。
「残念ながらエルランドが師匠エルリントの命を奪ったかどうかの確証は持てなかったが、様々な報告を調べる限りでは、エルランドも師匠と同じダーク家の一員であったのではないかと思える。関係を問うのなら、何らかの血縁関係だったのではと言う答えを、私は出すだろう」
「それはどういう事です?」
 アベルが尋ねると、寮長はこう答えた。
「容姿が似ているのだ。同一人物と言う程ではないが、相通ずるものを感じる。それに……」
 寮長はそこで言葉を一度切り、思い出すようにこう続けた。
「……師匠から、こんな話を聞いたことがある。ダーク家を継ぐ者には、名前に『エル』という言葉を入れる習わしがあるのだ、と」
 『エル』という言葉は、古エルダン語で『真の』という意味がある。丁度、ララティケッシュ家の次期当主であるネイのミドルネームが『エル』であったように、エルの言葉を背負ったエルリント・ダークもダーク家を継ぐように言われていたと、寮長は語った。
「これは余談だが、師匠エルリントはその運命に逆らい、自由を求めて家を出たというのを聞いたことがあるのだ」
 それは、四つの理を代弁する者に襲いかかる『反逆の呪い』のせいもあったのだろう。地は自由を欲していたのだ。
「同じ『エル』を持ち、師匠と似た雰囲気を持ったエルランドもまた、かつてはダーク家を継ぐ者だったのではないかと思うのだ。ただ、そこで私は寮長という役目を任せられた為、実際にダーク家に行って確証を取ることは適わなかった」
「結局、血縁者と言う可能性は否定出来ないのか……。名前が似ているとは思っていたが」
 寮長の言葉を聞いたエドウィンがそう述べると、寮長は頷いた。
「……では、それは私が調べてみましょう。エルランドがあの森に現れる原因もわかるかもしれません。幸いに、丁度エルランドに関しては調べている最中でございます」
 “闘う執事”セバスチャンがそう申し出る。
「では、その件はそのままお願いすることにしよう」
 寮長が答え、セバスチャンは頷いた。
(結局、レダとエルランドが接触する可能性は、否定出来ないどころか高まったと言うことか……?)
 ランドは寮長の答えを聞いて、懸念を強めた。


「ところで、双樹会に確認したいことがあるのだが」
 エルランドの正体に関しての話題が一段落した時、“光炎の使い手”ノイマンが寮長へと尋ねる。
「前回の捕獲作戦の時、一部の生徒の妨害があった。彼らなりの譲れない思いと覚悟があってのことだろうが、それ故に言葉で解決を図っても無駄だろう」
「ふむ。報告を聞く限りではそうだろうね」
 寮長が同意すると、ノイマンは本題に入る。
「現場で危険な状態の時に妨害を受ければ、思わぬ大事に至る畏れもある。だから、こちらからの警告に応じない生徒達が居た場合、実力で排除する許可をお願いしたい」
「……ふむ。それはやむを得ないな。但し、排除までだ。過剰な攻撃は謹んで欲しい」
 寮長は暗にノイマンの確認に許可を出す。すると、それを聞いていたアベルがこんな提案を出した。
「この事件に深く関与していたネイとその仲間が、我々と別行動しているのは気になりますね。ノイマンの言う通り、我々の保護活動を妨害する可能性もありますので、一度その真意を確認し、協力する意図無き場合は、自由に活動させるべきではないと思いますが?」
 寮長は、ふむと頷いた。
「真意の確認は必要かもしれないな。場合によっては、確かに活動制限も必要だろう」
「では、私が聞いてくるです」
 “深緑の泉”円が、伝令役を買って出る。と言うのも、円にもネイに会う理由があったからだ。寮長が頷き、早速、円はネイの所へと向かった。アベルは円の出て行った後を見据えて考える。
(……情報の漏洩にも注意しておく必要があるな)


 程なく会議は終了し、リエラ対策班は準備を始めた。
「頼まれていた物資、これから配るわよ〜」
 マリーはそう言うと、ワゴンを押して物資を配り始める。

 “飄然たる”ロイドは、自らが改良を加えた「ランカーク・ザ・ガーディアンアロー零型カスタム」(以下、LtGアローカスタム)を運ぶべく準備をする。と、そこへマリーがワゴンを押しながらやってきた。
「頼まれていた砲弾、持ってきたよ」
 そう言って、マリーはワゴンの中から弾丸を取り出す。これはかつて、ペガサス捕獲の時に使用された高速広域展開型ネット弾と同じ物であった。但し、中身のネットはロイドの希望により、鋼糸製の物に変えられていた。
「ありがとうございます」
 そう言うロイドにマリーはネット弾を渡しながら、こう言った。
「まさか、こんな風に改造されるとはねぇ」
 ロイドが改良した部分は、主に弾丸を撃ち出す部分である。照準を動かす為に使っていた蒸気機関で砲身の後ろに配置されたタンクに空気を圧縮して充填し、空気銃と同じ要領で弾丸を撃ち出すようにしたのだ。その仕掛けに、マリーは素直に感嘆の声を上げた。
「大変だと思うけど、頑張って」
 マリーはそう言うと、ワゴンを押して他の人の所に向かった。ロイドもネット弾を自分の荷物に収め、準備を完了する。

 マリーが次に向かったのは、“闇の輝星”ジークのところだった。
「えーと、屑鉄、だったよね」
「ああ。そうだ」
 ジークが言うと、マリーはワゴンからいくつかの屑鉄を取り出す。ジークは、エイムがまだ銀色のはぐれリエラだった時に使った策を、今回レダにも使うつもりだった。屑鉄を使い、リエラ能力の磁場と屑鉄自体の重さで拘束するつもりなのだ。
「こう言うのでいい? こういうのなら蒸気研にごろごろあるんだけど」
「構わない。だが、もう少し数が欲しい」
 ジークがそう要望を出すと、マリーは頷いた。
「わかったわ。飛行機械の残骸がまだあるから、用意しとく〜」
 マリーがそう言った時、そこへエドウィンが来た。
「飛行機械の残骸があるなら、用意して欲しい物があるんだが」
「何? 必要なら、改めて作るけど」
 マリーはそう言ったが、エドウィンは首を振った。
「いや。蒼雪祭で実際に飛ばした飛行機械の操縦桿が欲しい」
 エドウィンはそう言うと、マリーに理由を耳打ちした。
「なるほど。そんなわけなら、探しておくね〜」
 マリーは笑顔でそう答えた。


■悩む者■
 リエラ対策班が着々と準備を進めている頃、ネイ達のグループにはちょっとした問題が起こっていた。
 事の始まりは“眠気覚ましに”まどかのこんな一言であった。
「無理に探し出したりしないで、レダの好きなようにさせて上げた方が良いんじゃないかしらねぇ……。学園にはレダを殺したことにして、うやむやにしちゃうのが良いんじゃないかしらね」
 その言葉には、当然のようにネイが反発……しようとした。
「レダを放っておけって言うのですか?! 私たちの都合でレダをあんな姿にしてしまって、そのままにしておけるわけないでしょう!」
「でも、レダを上手く捕まえられたとしても、学園に戻ってきたら研究対象にされてしまうんでしょ?」
 しかし、まどかがそう尋ねると、ネイは黙ってしまった。それを見た“銀の飛跡”シルフィスは、更に追い打ちを掛ける。
「レダは、人間側に戻れたとしても私たち以上に貴重な実験体になるわ。はぐれリエラのままなら、エリアにしてみれば驚異。誰かと契約を結んでも、やっぱり実験体。この状態で、何故人間側に戻すのか、理由を聞きたいわ」
「ですから、先程言ったように、レダがあんな姿になってるのは私たちのせいです。私はそれを元に戻す責任がある……」
 ネイがそこまで言いかけた時、シルフィスは横やりを入れた。
「それはどうなのかしら。レダが自ら望んでリエラ側にシフトしたかもしれないじゃない。それにね。ネイ」
 シルフィスはネイを見つめ、ゆっくりとこう告げる。
「結局、対策班の邪魔をしようとしてるくせに、あなたは帝国の手伝いをしていることになるのよ?」
 レダを元に戻し、学園に連れ帰る。そうなれば、まどかやシルフィスの言う通り実験体となり、帝国の目的は結局果たされる。それで良いのかと、シルフィスは問いただしたのだ。
 シルフィスの言葉に、ネイはこう答えるのが精一杯だった。
「レダを……放ってはおけません……。もしレダを自由にさせたとして、そのあとで何か起こったら、私は……」
 シルフィスは頷いて、こう告げる。
「だったら、まずレダの意志を尊重しましょう。探して、真実を伝えて、その上で帝国に戻ってくるか、リエラの世界に還るか、それとも他の案があるかを聞くの」
「それが……よさそうですね」
 ネイはシルフィスの言葉に納得し、頷いた。他の者も、大部分が「レダの意志を尊重すべきである」と言う話になり、話は丸く収まる。1人を除いて。
「気にくわねぇ」
 そう呟いたのは、キックスだった。ネイが尋ねると、キックスは苦々しくこう答える。
「……あんたらが言ってることは正しいと思う。だが、俺はフューリアのレダと別れたくねぇ。リエラになったレダは、レダじゃねぇだろ」
 キックスも、自分の言っている事がわがままだと思っているのだろう。言葉に勢いはなかった。
「……あいつが帰る所は、ここにしかないんだ。俺と同じで」
 キックスは、独り言のように呟く。その姿を、側にいた“のんびりや”キーウィは心配そうに見ていた。
(うちかて、レダがリエラになったら悲しいねん。レダと仲良かったキックスはんがもっと悲しいと思うのもわかるわ)
 キックスの言葉で、部屋に重い空気が流れる。それを打ち払ったのは、“抗う者”アルスキールだった。
「彼女の未来とか考えるのは後です。今は、自分を見失い、行方をくらました友人を捜すだけのことだから」
 先のことはどうであれ、レダを探しに行くことは変わらないだろうとアルスキールは諭した。無理に探し出すべきではないと主張したまどかも、レダの意志を確認することには反対していなかったのでもう少し付き合うことにし、ようやくこの場は丸く収まることになった。

 その頃、リッチェルは別の所へ呼び出されていた。呼び出したのは“憂鬱な策士”フィリップ。
「口説かないし、不意打ちを掛けるつもりもない。ただ、聞きたいことがあってね。他人に影響を与えたくないから、出来れば二人きりで話がしたいんだが」
 とのことで、2人は時計塔を降り、建物の影で話をすることにした。辺りに人が居ないのを確認し、フィリップは早速尋ねる。
「彼女を……レダをフューリアに戻すことは、正しいことなのか?」
「どういう事ですの?」
 フィリップの質問の意図が分からず、リッチェルはそう尋ね返す。フィリップは改めてこう説明した。
「彼女がリエラになったのは、彼女の意志ではなかっただろう。しかし、彼女がフューリアに戻りたいと思っているかは解らない。それでも、フューリアに戻そうとするのは何故? それは独善だと思わないのか?」
 リッチェルは、フィリップの最後の単語にはっとした表情を見せる。
「……独善だ……と言われれば、そうなのかも知れませんわ」
 そして、リッチェルはしばらく黙りこむ。その様子を、フィリップはずっと見つめていた。
「……結局の所、これが正しいことなのかどうかは……わかりませんわ」
 ようやく口を開いたリッチェルは、フィリップの問いに答える。
「レティー・ダークがリエラになったのは、彼女の意志ではありませんわ。もしかしたら、わたくし達が動かなければ、レティー・ダークは普通の生活を営んでいたかもしれませんの。ですから、わたくし達は、彼女を出来る限り元の生活に戻せたらと思って、行動しているのですわ。それは独善かと言われればそうとも言えますけど、かと言って何も行動しないのは無責任な卑怯者のすることだと思いますの」
 そこまでリッチェルが言った時、彼女の背後から別の声が聞こえてきた。
「レダが元の生活に戻っても、今度は実験対象と見られる生活が待っているだけかも知れない。それでも、元の生活に戻したいのかな? 姫君」
 それは、“翔ける者”アトリーズだった。彼は、リッチェルと一緒に動こうと心に決めていた。だから、リッチェルが呼び出された時も、その後を追ってきていたのだ。
「改めて尋ねるよ。姫君は、何故レダを助けるメンバーに参加しているんだ? 他人の、いや、人ですらないレダの為に」
「答えは変わりませんわ。レティー・ダークを元の生活に戻してあげたいからですの」
 リッチェルの2度目の答えは、自分に改めて言い聞かせるように発せられた。それを見たアトリーズは、こっくりと頷く。
「そう言うことなら、俺も手伝わせてもらう。すまない……姫君を試したかったんだ」
 試すと言う言葉を聞いた時、今度はフィリップが言った。
「私も協力しよう。リッチェルの答えに自分の行動を委ねようとした私も、人のことはいえんしな」
 結局の所、2人は2人とも、リッチェルの答え次第で協力するかどうかを決めようとしていたのだ。それを知ったリッチェルは、やれやれと息をついた。
「……本来なら、アトリーズもフィリップさんも、わたくしに怒られても仕方ないと思いません事? わたくし次第で行動を決めるなんて……。ですが」
 リッチェルはそこで改めて2人を見た。
「今回はお二人のお陰で、自分の目的を再認識出来ましたわ。感謝致しますの」
 そう言うリッチェルを見て、改めて2人も頷いた。
「そろそろ戻りませんこと?」
 リッチェルがそう促し、3人は天文部部室へと戻る。


 3人が部室に戻った時、そこには今まで居なかった生徒が1人いた。円である。円は、アベルの提案も含めて、対策班の方の動きをネイ達に伝えに来たのだ。
「……なので、ネイさん達の動き次第では、強権発動されて行動に制限が掛かるかも知れないです」
 円の言葉に怒ったのは、“蒼空の黔鎧”ソウマである。
「くそ! 対策班はレダをなんだと思ってるんだ! 双樹会のお達しだの、実験材料だの! レダは物じゃねぇんだぞ!」
 その言葉に、珍しくキックスが反応する。
「……全くだ。このままじゃ、レダが危ねぇ」
 すると、それを聞いたソウマが、キックスにこう持ちかける。
「俺は正義をしに行くぜ! 来るか?!」
「……あんたの言う正義が何かはわからねぇが、行かせてもらうぜ。レダをあいつらには渡さねぇ!」
 2人は意気投合し、正義を燃やして部屋を飛び出していった。その後ろを慌ててキーウィが追いかける。
「……俺もキックスに協力させてもらう」
 さらに、“黒き疾風の”ウォルガもそう言って、キックス達の後を追った。あっという間の出来事に、ネイは思わず頭を抱える。
「……もう……」
 困った顔を見せるネイに、“炎華の奏者”グリンダが話しかけた。
「今の話とちょっと違うんだけど、気になることがあるの。耳を貸してくれる?」
 グリンダはそう言うと、ネイに自分が気になっていたことをこっそりと話した。
「……ネイ達が失敗した事で、別の帝国機関のエージェントが派遣されてくる可能性、あるわよね? 私達自体が既に監視されている可能性も」
 事の重大さを理解したネイは、グリンダに耳打ちで答えた。
「……何とも言えません。帝国諜報機関のエージェントが派遣されてくる可能性は無いとは断言出来ませんが、双樹会として公に学園都市アルメイスと言う帝国研究機関が動いている以上、帝国諜報機関としてはひとまず様子を見るものと思います。反対に、帝国研究機関としては、先程のアベルさんの提案をそのまま受け入れ、公的に私達を監視するかもしれません」
 帝国機関と言っても、内部事情は複雑なようである。先日サウルの屋敷で話を聞いたグリンダにとっては尚更であった。その言葉を受け、グリンダは考えた。
(……ともあれ、こっそりと妨害がよさそうね)
 その横で、ネイもまたグリンダや円の言葉を受けて考えていた。現状では、何処に向かっても、歪みが出る。ならば……
「キックスの後を追いかけましょう。対策班より先に、リットランドへ向かいましょう!」
 ネイは最終的にこう決断した。
「じゃ、6年前の事件が起こった場所に急ごぅ。ァリシァも協力するよ」
 “夢の罪人”アリシアが言う。他の協力者も、急いで支度を始めた。


■黒き者■
 夕暮れ時。“演奏家”エリオは、時計塔広場に来ていた。目的はもちろん、噂になっている黒ずくめの男に会う為である。
(最近噂の黒ずくめ。アレはアルファントゥなんだろうなぁ)
 エリオは漠然とそう考えていた。その上で、彼には気になることがあった。
(遠回しに学生にヒントを与えているようだが……。アイツ、自分で動く気は無いのか?)
 その辺をはっきりさせようと、エリオはここへ来たのだ。
(特別親しいってわけじゃないが、レダとは友達だしな)

 同じ頃、“猫忍”スルーティアも時計塔広場に来ていた。
(夕暮れ時、黒ずくめ。気になるね。それに……)
 彼女はあることを確かめたかった。その為には、まずその男に会わなければならないのだ。
(出来れば話したいけど、最低でも見れればいいな)

 そして、時計塔広場にはもう1人。“白衣の悪魔”カズヤの姿もあった。
(俺の勘が正しけりゃ……)
 果たして、彼らの前に黒ずくめの男が現れる。
「来た!」
 3人はその男へと近づいた。男は3人を見渡し、噂通りこう尋ねる。
「思い出は……どこにあるのだ?」
 カズヤはその声を聞いた瞬間、自分の勘が当たったことを悟った。
「やっぱり、アルファントゥか」
 カズヤは、アルファントゥと交信したことがある。その時の声と、この男の声は同じだった。
「アルファントゥ。レダと一緒じゃねぇのか? そもそもその姿はどうしたんだ?」
 相手がアルファントゥだと確信し、カズヤは質問を浴びせる。エリオも漠然と考えていた事が当たったので、気になっていたことを尋ねることにした。
「アンタ。レダの事で、自分で能動的に動く気は無いのか?」
 すると、黒ずくめの男は、ようやく違う言葉を発する。
「……私は、レティーの為に思い出を探している……」
 すると、カズヤは突然アルファントゥを怒鳴りつけた。
「思い出? 何言ってんだ! レダがフューリアでいた頃の思い出は、アルファントゥ! お前だろ?!」
「……いや。私ではない。私は……」
 アルファントゥがそう言いかけるのを、カズヤは勢いで圧倒する。
「確かに、今のレダには自分がリエラである証拠としても映るかもしれない。でも、あいつはあんたの、アルファントゥのフューリアとして今まで生きてきたんだぜ? 前の姿のあんたが、レダが人であった時間の何よりも大きい思い出だろ!」
 カズヤがそこまで言った時、アルファントゥはこう呟いた。
「……レティーの一番の思い出が私……なら、私の父親としての方針は間違っていたのかも知れないな……」
「そう思うなら、せめて父親として、そして最も近しいパートナーとして、レダに声を掛けてやって欲しい。今思う事を伝えるとかな」
 エリオもそうアルファントゥに促す。と、カズヤがアルファントゥの手を掴んだ。
「こんなところにいないで、早くレダに会いに行こうぜ?!」
 そして、あれよあれよという間に2人は夕暮れの闇へと消えていく。エリオはアルメイスに残るつもりだったので、そんな2人を見送った。

 スルーティアは、結局他の2人に圧倒されてアルファントゥとは話せなかった。ただ、最低限の目的は果たしたので、次の行動に移ることにする。
(正体がアルファントゥなのはわかったけど、一応、ね)
 彼女が向かったのは、寮長の所である。彼女は、セラと同じようにパーティのやり直しを寮長に提案しており、セラ達と協力してパーティの準備に当たっていたのだ。
 スルーティアはパーティ用の資材を準備していた寮長を見つけ、早速尋ねる。
「寮長さん。噂の黒ずくめの男に、心当たりない?」
 スルーティアはそう言うと、リエラ能力で自分が見た黒ずくめの男の姿に変化した。すると、寮長は驚いた顔を見せる。
「この人は……見たことがある。私が森で修行をしていた時に、何度か師匠エルリントと話していた事があるね」
(そう言うことだったんだ……)
 スルーティアは、黒ずくめの男……アルファントゥの事情を察した。

 アルファントゥを連れて行きながら、カズヤはふと尋ねる。
「なぁ。アルファントゥ。聞いて良いか?」
「……余り長くは語れぬ。手短に願おう」
 そう言うアルファントゥの声は、以前に聞いた時よりか細くなっていた。
(……調子悪いのか?)
 そう感じながらも、カズヤは質問の続きを言う。
「今の姿って、人に近いよな。もしかしてさ、お前、エルリントと交わった時は、まだ半分は人だったんじゃないのか?」
 アルファントゥは、カズヤの問いにぽつりと答えた。
「……違う」
「でも、あんたは昔、人だったんだよな?」
「……そうだ」
「だったら、その辺の事、しっかり話してやれよ。少なくとも、アルファントゥが昔、人だったんだって解れば、レダもフューリアとして落ち着くんじゃないのか?」
「……考えておこう」
 アルファントゥはそう言うと、黙ってしまった。その後、2人は中央駅へと向かう。
「乗せて走ることが出来れば良いのだが……」
 今のアルファントゥには余力は無かった。結局、2人は汽車に乗ってリットランドを目指す事にしたのだ。
「お。あれは……クレアじゃないのか」
 と、カズヤが駅のホームで、クレアと“緑の涼風”シーナの姿を見つける。珍しいことに、彼女は2人きりだ。どうやら、2人はカズヤと同じように、リットランド行きの汽車を待っているようだった。
「レダさん、どこか行っちゃうし、結構大変な事になってるみたい……」
 シーナがそう言うと、クレアも黙って頷く。どうやら、2人は対策班とは別行動で、レダを探しに行くつもりのようだ。
 シーナの言葉を聞いたアルファントゥは、ぽつりと一言だけこう言った。
「……そうか……レダのことを思ってくれるものは、他にも居るのだな……」
 その顔には、どこかほっとした表情が見て取れた。


■白き者■
 ネイ達と対策班は、それぞれリットランドの森へと向かう。
 一番最初に問題の森にたどり着いたのは、キックスとソウマのグループだった。だが、彼らには1つ、重要な情報が足りなかった。
「……レダは何処にいるんだ?」
 そう。彼らはレダが居るであろう場所の詳しい情報も、レダを探す為の準備も無かったのだ。運に任せて森を動くにしても、森は予想以上に深過ぎた。
「……ちっ! ここまで来て、レダに会えねぇのか!」
 キックスが状況を理解しどうしようかと考えていた所へ、ネイ達が追いつく。
「……ようやく追いつきましたわ」
「キックス! 勝手に飛び出しちゃだめだよ!」
「てめぇらこそ、遅ぇんだよ! ……早く行くぞ」
 キックスは珍しく、ネイ達の後ろにいる沢山の協力者達を見ても嫌な顔を見せなかった。どうやら、流石に自分たちだけではレダを助けられないと悟ったのだろうか。
「じゃ、早速だけど、お願いします」
 そう言うと、2人の生徒が同時にショートケーキを取り出す。一人は“暇人”カルロ。もう一人はフィリップ。2人とも、どうやらケーキで自分たちのリエラ能力を使うように頼むつもりらしい。
「セシル。頼む」
 まずは、フィリップの言葉にパートナーのリエラ『セシル』が頷いた。セシルの過去見は植物に依存している。森の中の過去視は、最も得意とするところだ。
「……見つけた!」
 程なく、フィリップの過去に向けた視線に、金色のリエラの姿が引っ掛かる。フィリップは出来る限り詳細に、レダの移動経路を伝えた。
「森の中心へ向かっている。だが、まっすぐに向かっているわけじゃない。……まるで、観光しているようだ。あっちへふらふら、こっちへふらふら……」
 続いて、カルロがパートナーのリエラ『ロザリア』へ頼む。
「ロザリア、お願いしても良いかな?」
 ロザリアは頷くと、フィリップが説明した方向へと『遠隔視聴』を掛けた。あちこちをきょろきょろと見回した結果……
「あっちの方にいるわ」
 ロザリアは森の中の1点を指す。それを待ちかまえていたかのように、キックス達が森の中へと入っていった。
「あ! ちょっと待ってよ!」
 ネイが止めるが、既に時遅し。このままではまたキックス達は迷ってしまうだろう。
「カルロさん! 道案内をお願いします!」
 ネイがそう言うと、カルロはこう答えた。
「……ごめんよ。僕、ロザリアが能力を使うと、完全に動けなくなるんだ。道案内はロザリア任せになるよ」
 そう。彼のリエラに伴うデメリットは『行動不能』なのだ。最低で1日、カルロは動けなくなる。
「じゃ、後はみんなに任せたよ〜。さて、今回は何日動けなくなるかなぁ……」
 そう言うと、カルロはそこにばったりと倒れた。彼をここに放っておくわけにもいかず、みんなでカルロを抱きかかえてキックス達を追うことにする。肝心のロザリアはと言うと、そんなカルロの肩に乗って、道案内を務めることになった。

 ネイ達より遅れること数刻。対策班も問題の森に到着する。だが、マリー達対策班には寮長からもたらされた、「エルリントの眠る場所への近道」という重要な情報があった。
(この情報だけは、一部の者しか知らない。これさえあれば、対策班内にスパイが居ても、こちらが先んじることが出来る)
 情報規制の発案者であるアベルが見守る中、マリーが“冒険BOY”テムに尋ねる。彼は狩人の如く、目的地までの最短距離を駆け抜けるつもりだった。
「どう? 行けそう?」
「大丈夫だ。こう行って、こうだな……」
 テムは寮長からもたらされた情報を元に、コースを組み立てた。
「ところで、確認なんだけど」
 今度は、マリーがセバスチャンに尋ねた。
「エルランドの事は……どうしようもないのね?」
 セバスチャンは調査の結果をふまえて、残念そうに頷く。
「残念なことに、根本的な解決法は見つかりませんでした。確かにエルランド・ダークという方はダーク家の一員ではあったようですが、遙か昔に行方不明になったとのことでございました。また、それらしきリエラを持った人が過去にいなかったかも調べてみましたが、記録には残されておりませんでした。残念ながら、これ以上は……」
 打つ手がないから、エルランドは排除対象になっている。セバスチャンの調査は、その行動方針を更に裏付けすることしかできなかった。
「……わかったわ。では……対策班出発!」
 その言葉で、対策班は森の中へと入っていく。それと同時に、“風天の”サックマンとリエラ『リュン』は空へと偵察に向かった。

 2つのグループはそれぞれ森を進む。
「向こうに行ったわ……と、止まったみたいね」
 ネイ達の道案内役のロザリアは、最後にそう告げて自分の役目を果たした。と、その時、連理の勘が危険を告げる。
「……近づいてきておるの。これは……白きリエラか」
 白きリエラ、“白き大樹の”エルランド。だが、ロザリアの遠隔視聴は少し先にレダが居ることを告げている。どうしようかとそこにいた生徒達が躊躇したその時、グリンダが言った。
「キックス。みんなを連れて、レダの元に行ってくれる? 何か手があるんでしょ?」
 続いて、グリンダはネイに言った。
「ネイ。手伝ってくれる? 時間を稼ぎたいの」
 ネイは頷くと、リエラ『ウィル』を出す。
「ここは森の中。数多の木陰は、ウィルの得意とする場所だよ。だから、リッチェルはキックスに付いてって」
 ネイの言葉に、キックスとリッチェルが頷く。
「……わかった。気ぃつけろ」
「お気を付けてくださいな。ネーティア様」
 そう言って、キックス達は先に進んだ。他の生徒達もその後に続いて先を急ぐ。
「グリンダも行って」
 グリンダにも、ネイはそう言った。しかし、グリンダは首を振る。
「友達は助け合わないと、ね」
「グリンダ……。ありがとう」
 ネイは微笑んでそう言うと、表情を引き締めてこう続けた。
「エルランドが来るって事は……対策班もきっと来る」
「ええ。でも、まだ元に戻る可能性がある以上、チャンスは潰さないようにしないといけないわね」
 2人は顔を見合わせ、頷いた。
「行こう」


 その頃、対策班の方もエルランドの存在を確認していた。最初に見つけたのは、対リエラ戦部隊で見回りを行っていた“探求者”ミリーである。銀色の長髪をなびかせ、白き衣を纏うエルランドの姿は、おとぎ話に出てくる木の精ドリアッドを思わせる物だった。
(エルランドというリエラを見てみたいと思っておったが、こう言うものじゃったか)
 そう思いながら、ミリーは見回り担当に配られていた呼び子を吹く。すると、そこに
アナスタシアとランドが駆けつけてきた。
「来たか……」
「……まぁ、遭遇しないに越したことはなかったんじゃがの」
 ここに集まった3人の目的は1つである。エルランドをレダ捕獲部隊の作戦領域から出来る限り引き離すこと。
「では、鬼ごっこを始めるのじゃ!」
 ミリーが合図をし、まずはランドがエルランドの元に向かう。もちろん、普通にエルランドと闘う気は無い。それは別の部隊のすることだ。
「こっちだ! お前の相手は俺だ!」
 森の木陰を使い、姿を見え隠れさせながらエルランドに礫を投げる。すると、エルランドはその視線をランドに向けた。銀髪を振りかざし、ゆっくりとランドの方へ近づいてくる。だが、ランドは芸術なまでにエルランドから逃げ出し、代わりにミリーが姿を見せた。
(学徒動員まで行われて、それでもエルランドは生きておる。驚異的な再生能力と攻撃力を持っているという話じゃ。まともに倒すのは無理じゃろう。ならば、囮になって時間を稼ぐしかなかろうて)
 ミリーもランドと同じように、芸術的なまでの絶妙な距離感で、エルランドを少しずつ捕獲部隊の作業領域から離していく。それを見たマリーは捕獲部隊の方に言った。
「みんな急いで。ここで時間取られるわけにいかないから」
 その言葉に、捕獲部隊は先を急ぐ事にした。

 囮の3人は、エルランドを更に作業領域から引き離していった。だが、エルランドもただ黙って彼らを追っていたわけではない。突然、足を止めるエルランド。
「こちらに被害が出ては、話にならぬ……!」
 エルランドの動きを見たアナスタシアは、この状態を読んでいたかのように予め交信レベルを上げていた。さらに、『技』を使うべく更に交信レベルをあげ、自らのリエラ『アブソルートゼロ』に伝える。
(アブソルートゼロ! 『麗しの水月』じゃ!)
 アブソルートゼロの放った技が、エルランドの技を封じ、反射する!
(レダが保護されるまでの時間稼ぎだけで良いのじゃ!)
 アナスタシアの思いが通じたのか、エルランドは再びゆっくりとこちらへ向かってきた。そこで再びミリーが囮となり、更にエルランドを誘導する。と、上空から声が掛かった。
「もう少し先に、開けた場所がある! そこまで行くんだ!」
 それは、サックマンだった。サックマンは煙玉を投げ、その場所を示す。ミリーはその方向を確認し、慎重且つ華麗にエルランドを錯乱した。
「鬼ごっこもここらで終いのようじゃな……」
 そして、ついにエルランドは開けた場所までやってきた。そこにはサワノバ達が先回りし、既に戦闘準備を整えていた。
「では、さらばじゃ!」
 囮の役目を終えた3人は、後を託してその場から離れる。それと入れ替わるようにリエラと対峙したのは、“爆裂忍者”忍火丸のリエラ『何とか丸』だった。
「ふはははは! はぐれリエラよ! 貴様の狼藉もそこまででござる! 拙者のリエラによって、けちょんけちょんにされるといいでござるよ!」
 忍火丸は木の上からそう叫ぶと、何とか丸の能力を発動させた。エルランドの足下で地面の土を取り込みながら変化し、エルランドをひっくり返そうとする。だが、エルランドはそれを交わし、何とか丸を見えない力ではじき飛ばした。それを見たサワノバは、そこにいた者達に向かって叫んだ。
「エルランド戦は我々至高倶楽部に任せてもらおう! 腕に自信なき物は、後方に下がっておるのじゃ!」
 普通なら、その言葉は反感を買うものであっただろう。だが、何とか丸が為す術無くやられてしまった事実を見た後では、個々ではなく全員が指示の元に動かないと勝てないと
そこにいた者は強く感じていた。早速、サワノバを中心にノイマンや“自称天才”ルビィが前に出る。
 その様子を見ながら、セバスチャンは気になっていたことがあった。
(過去の記録を読む限り、エルランドはもっと早く動いていたとの事。それに、今のエルランドからは、過去に排除対象になった時ほどの凶悪さは感じられません……)
 エルランドは、今まで何度も討伐隊を退けてきた。まともに戦闘して倒すのは困難だとも言われていた。しかし、今のエルランドは何かが違っていた。
 セバスチャンは、エルランドへの交信を試みていた。
「エルランド! 弱っているあなたをこの世界につなぎ止めている鎖は何ですか? あなたのフューリアからの声は聞こえないのですか?」
 セバスチャンの交信は、エルランドに届いた。だが、エルランドは交信には返事することなく、こう繰り返すだけだった。
「……消えたく……ありません……」
 どうやら、エルランドの意識は既にかなり薄れているようだ。彼女に残っているのは、その身に刻まれた、自存型リエラとしての根本的な望み。
 と、そこへノイマンのリエラ『』が動いた。
(! 『麗しの水月』だ)
 先程のアナスタシアと同じように、ノイマンもまた『麗しの水月』を使った。これは、かつて学徒動員によってエルランド討伐が行われた時に良く用いられた戦法である。エルランドが得意とする技をこの技で反射し、エルランド自身を自滅に追い込むのだ。
 果たして、が放った技はエルランドの仕掛けた白き力場を反射した。だが、エルランドはそれを全く気にしないかのように、再び力場を放つ。
(そうはさせねぇ! 倍返しだ!)
 今度は、ルビィのリエラ『ワイン・グレイス』が力場を反射する。自らの放った衝撃がそのままエルランドを包み、彼女は後ずさりした。
 次の瞬間、地面が秘めた力を抑えきれずに振動する。サワノバのリエラ『ルニック』の設置した技が、エルランドに向けて一斉に牙をむいたのだ。その場に存在する地面が、エルランドと共に巨大な圧力を受け、一気に砕ける!
(仕留めたか?!)
 土埃の中、そこにいた者が目をこらす。だが、土埃が晴れた時彼らが目にしたのは、エルランドの砕けた身体が、急速に復活していく様だった。
 次の瞬間、エルランドの身体の周りに、3度白き力場が形成されていく。その力場は、全ての物を崩し滅する、エルランドの得意技。力場が完全に形成された瞬間、霞となりて全てを無へと返す。
 しかし、そこにいた者は動じることなくエルランドに攻撃を仕掛ける。
(あと少しだ! ここをしのげば……)
 彼らは解っていた。エルランドは既に2度この力場を形成していることを。そして、その力場は2度とも『麗しの水月』によって反射されていることを。
(そこだ!)
 ルビィの勝負勘が、タイミングを告げた。ワイン・グレイスが技を叩き込むと同時に、の反射した白き力場がエルランドを包む。
(復活はさせねぇ!)
 更に、ワイン・グレイスの反射した力場が、更にエルランドを包んだ。そこにルニックも加わって、エルランドを更に打ち据える!
 再生が追いつかず、エルランドは完全に動きを止めた。その時、ずっと交信を試みていたセバスチャンの元にも、エルランドの声は聞こえなくなっていた。
「……誰か……助けて下さいませ……」
 それが、エルランドの最後の言葉だったという。
 次の瞬間、エルランドは白き光となって、木漏れ日に溶けていく。それは、今までのエルランドとの交戦記録には無かった情景だった。
(エルランド様……安らかにお休み下さいませ……)
 セバスチャンは木漏れ日を見つめながら、そう祈りを捧げる。
「……では、捕獲部隊に合流するのじゃ……」
 サワノバは最後にそう指示を出した。


■告げる者■
 “紫紺の騎士”エグザスは、妹であるシルフィスの頼みを受け、ネイ達に同行していた。彼のリエラ『ディウム』は視線を空中に飛ばし、森の中を見渡す。と、彼の視線にネイ達とは別のグループが入ってきた。
(来たか……)
 エグザスはそれをシルフィスに伝える。その次の瞬間、彼の視線が更に別の影を捕らえた。
「レダだ……」
 カルロの言う通り、レダはふらふらとこちらに向かっていた。エグザスは別のグループとレダの位置を確認し、改めてシルフィスに伝える。
「ラザルス」
 シルフィスの言葉に“陽気な隠者”ラザルスは頷くと、レダが来る方向と反対側へ向かった。
「……何をしておりますの?」
 リッチェルの問いに、シルフィスは自分たちがしようと思ったことを手短に説明した。
「陽動よ。ラザルスには私のリエラ『めるちゃん』の特殊能力を付与したダーツを渡してあるわ」
 その次の瞬間、森の中に強い光が放たれ、爆音が響く。めるちゃんの特殊能力が発動したのだ。
「急ぎましょ。レダの所に」
 シルフィスの言葉に、リッチェル達は先を急ぐ。

 森の中を急ぐ対策班捕獲部隊。その耳にも、爆音が届く。だが、捕獲部隊はその音の出自を気にしている余裕はなかった。
「もう少しで作戦領域よ! 調査は後でも出来るわ」
 マリーが前進の指示を出す。その次の瞬間、彼女たちの前に“三色”アデルと“お気楽翻弄”ケイが姿を見せた。
「レダさんの捕獲部隊だね?」
 ケイが尋ねる。だが、ケイは尋ねなくてもマリー達がそうであることはうすうす感じていた。何しろ、マリーの後ろにはLtGアローカスタムを担いだロイドの姿があるのだ。
「レダさんは捕獲させないよ!」
 そう言うと、ケイはリエラ『ピュセル』の能力を発動させた。風が巻き起こり、そこにいた捕獲部隊はその風に動きを封じられる。そこへ、アデルが叫んだ。
「俺は友達を……レダを研究物の対象とするやつらになんか、絶対に渡さないからな!」
 すると、風に動きを封じられながら、マリーがケイ達に言う。
「私だって、友達を研究対象にはしたくないって! 君達よりも、私の方がレダとのつきあいは長いのよ?!」
「じゃあ、どうするんだ……? お前達はレダの捕獲部隊なんだろ……?」
 アデルが尋ねると、マリーは言った。
「レダが私達と一緒に学園に戻らなかったら、他の研究所でもっと酷い仕打ちが待っているかも知れない。リエラになったら、パートナーを見つけられないままはぐれリエラとして討伐されるかも知れない。私だって……レダに生きていて欲しいのよ。だから、レダを保護するこの作戦に参加している」
 その言葉に続けて、エドウィンがこうアデルに言う。
「俺とマリーは、レダをフューリアに戻したいと思っている。その為に、レダの思い出を持ってきた」
 その後ろにいた捕獲部隊のロイドとジークは、マリー達の言葉を否定も肯定もしなかった。ジークがこう告げる。
「俺は特に彼女と仲が良かったわけでも無いしな。身柄が確保出来たら、説得は他に任せるよ」
 結局の所、捕獲部隊の彼らもまた、レダのことを考えてそこにいるのだ。
「アルフレッド寮長もまた、レダの身を案じて上に働きかけると約束してくれているよ。だから、早くレダを保護しないと。手遅れになってレダが討伐されたり死んだりしたら、君達もきっと後悔すると思う」
 マリーの言葉に、アデルはもう一つの目的を思い出した。
(レダをフューリアにシフトさせる……)
 アデルには、捕獲部隊を止める理由は無くなっていた。そうなっては、ケイ1人が頑張っても多勢に無勢である。ケイだって、レダを守りたいと思う気持ちは同じなのだ。ここで争っていて、レダが死んでしまっては本末転倒である。
 ケイは呪縛を止めた。そして、アデルと共に、レダが来るであろう場所に向かう。その後ろから、マリー達捕獲部隊も同じ場所へと向かった。

 レダが来るであろう場所。捕獲部隊の作業領域。それは即ち、エルリントが悠久の眠りに就いている場所。そこへ最も早くたどり着いたのは、キックス達だった。
「……ここか……」
 キックスが墓標として立っている丸太を撫でる横で、キーウィはリュックから何かを取り出した。
「……何だ? それは」
 すると、キーウィは静かにこう答える。
「これはキノコのサンドイッチや。エルリントはんが得意な料理の一つなんやって、寮長はんから聞いてきて、作ってみたんよ」
 エルリントが得意である料理なら、レダにとっては母の手料理という思い出の品になるだろう。キーウィはそう考えて、苦手な料理を頑張ったのだ。
「……そうか」
 キックスがそう言う間に、リッチェル達がそこに到着する。
「何とか、間に合ったようやね」
 “笑う道化”ラックは対策班より先にそこに着いたのを確認し、準備を始める。と、辺りを警戒していたソウマが叫んだ。
「レダ!」
 その言葉に、他の者は一斉にそちらを向いた。そこには確かに、金色のリエラ……レダの姿があった。
「ここは見張っている! 早く、レダを!」
「左様。妾の勘が、捕獲しようとする輩が近づいていると告げておるのじゃ」
 ソウマと連理がそう言って、警戒に入る。

 レダはゆっくりと墓標へ近づいてきた。だが、その足取りはどこか頼りなく、まっすぐでもない。
 そんなレダを見て、真っ先にレダに話しかけたのは“福音の姫巫女”神音だった。
「レダクン! レダクンは何をしたいの?! 何処へ行きたいの?!」
 だが、レダはそれには答えない。ただ、ひたすらに墓標へと向かう。
「……レダ! 俺の声が聞こえるか!」
 キックスがレダに向かって叫ぶ。だが、レダはその言葉にも応えない。
「……どうすりゃ良いんだ!」
 そうキックスが言った時、後ろでアリシアが言った。
「レダがああなったのは、ァリシァのせいだもん。ここはァリシァに話をさせて」
 罪滅ぼしをしたいと言って、アリシアはリエラ『アイシーラ』の中に入る。
「ァィシーラ。ェルリントさんの姿になって」
 アイシーラは、先日のパーティで見たエルリントの姿へと変化すると、ゆっくりとレダの元へと近づいた。
「レダ……。思い出して……」
 そう言うと、彼女はレダを抱きしめる。
「あなたは、アルファントゥとエルリントの子。あなたには人の血も流れているのよ……。自分を見失わないで……」
 彼女の腕の中で、レダはようやくぽつりと呟いた。
「ママ……?」
 だが、次の瞬間、レダは首を振った。
「でも、パパは……リエラだよ……」
 すると、アルスキールがレダにそっと語りかける。
「そう。アルファントゥが父だとしても、エルリントさんが母なのです。ですから、レダ。あなたは人かリエラかを選べるはず」
 その言葉に、レダはアイシーラの腕の中で暴れ始めた。
「……ボク……ボク……!」
「落ち着いて……」
 その言葉に、レダは暴れるのだけはやめた。だが、黙ったきり、何も話さない。そこで、神音が再び話しかける。
「レダ……ボクがお姉ちゃんになってあげるよ。空々しいかも知れないけど……ボクは、キミの味方だよ。お姉ちゃんに声を聞かせてくれないかな?」
 だが、レダは黙ったままだった。そこにいた者達の意見は、『レダの意志を尊重するべきだ』と言うものが大半だった。つまり、レダが意思表示をしない限りは、次の行動に移ることが出来ない。事態は膠着状態に陥った。
 悪戯に時間だけが過ぎていくのかと思ったその時、ソウマが叫ぶ。
「対策班か! お前ら、何を考えているんだ!」
 そう。そこにマリー達対策班捕獲部隊が到着したのだ。ソウマは彼女たちに向かって叫び続ける。
「数で追い立てて、何か解決するのか! 昨日友達だった者を実験材料とする奴を信じられるのか! そこに正義は無い! レダに対して乱暴をするなら、俺の正義の剣がお前達を打ち砕く!」
 そう言うと、ソウマはリエラ『シュバルツ』を呼び出そうとする。だが、マリーはそれにひるむことなく、後ろにいたジークとロイドにこう言った。
「レダは今、あの子の腕の中で大人しくしてる。折角来てもらって悪いけど、君達の出番は無いみたい。ロイド。武器を降ろして」
 ジーク達の目的は動き回るレダの動きを止めることだった。レダが一所にとどまっている今は、確かに彼らの出番はない。ロイドはやむなく、LtGアローカスタムを降ろす。
「私達だって、レダは友達よ」
 マリーがそう言うと、エドウィンが先程言った通り、思い出の品である飛行機械の操縦桿を取り出した。
「フューリアの方に引き戻すつもりなら、フューリアの事を『思い出させる』のが一番だろ。……エイムさんもそうだったし」
 そう言うと、エドウィンはレダに呼びかけ始めた。
「レダ。思い出してくれ。フューリアだった時のことを。あの飛行機械で大空を翔た時の、みんなの声を」
「レダ。隠れ家で、宝物達が君の帰りを待ってるよ。腕によりを掛けて、新発明も作ってる」
 マリーもそう呼びかける。それを見たキーウィは、先程取り出したキノコサンドを、笑顔でレダに差し出した。
「レダ。お腹減っとらへん? 一緒に、キノコサンド食べへんか?」
 少しずつレダへ思いが集まる。レダはその思いを受け止めようとしたが……受け止めきれなかった。
「うわああああああっ!」
「レティー・ダーク! ……一気に進みすぎましたの……?!」
 リッチェルが叫んだ時には、レダの姿は再び崩れていた。飴細工のように変化して、アイシーラの腕からすり抜けると、少し離れた所で元のフューリアの姿に戻る。
「……レダ……!」
 そこにいた者がほっとしたのもつかの間。レダは再び飴細工と化し、リエラの姿になった。くるくるとフューリアとリエラの姿を行ったり来たりするレダを見て、他の者達は為す術無く見守るばかりである。
 このままずっと永遠にこれを繰り返すのかと感じた時、男の声がレダを呼んだ。
「レティー……。落ち着くのだ……。そして……思い出すのだ……」
 振り返ると、そこにはカズヤに肩を貸されて立っている黒ずくめの男がいた。
「あ……アル……ファン……トゥ……?」
 レダはそう呟くと、リエラの姿に戻る。そして、力を使い果たしたのか、崩れるように地面に倒れ……ようとした。
「レダ! 駄目や! このままやったら、アルファントゥ……お父さんとの繋がりも切れちゃうんやで!」
 しかし、地面に倒れる前に、ラックが駆け寄ってレダを抱き留める。その手には、先日のパーティでレダに贈ったオルゴール。
「ボクは、レダに……ここにいてほしいんや! リエラになってどっか行ってしまうなんて嫌や!」
 ラックのその言葉を聞いたキックスやアルスキールも、レダに想いを伝えた。
「……俺もリエラのレダは嫌だ。また、あの隠れ家で遊ぼうぜ」
「僕も、あなたを人として助け、学園で一緒に学んでいきたい!」
 ……
 森の中に沈黙が流れるなか、ラックは側にいたアルスキールに言う。
「オルゴールの蓋、あけてくれへん……? レダが重くて……手が動かせへん」
「わかりました」
 アルスキールがオルゴールの蓋を開けると、メロディが流れ始める。そんな中、キックスはレダにこう言った。
「帰ってこい。レダ」
 すると、側でずっと見守っていた円が近づいてきて、そっとレダに語りかける。
「独りぼっちは寂しいですから……。私も、孤独の痛みは知っていますから……。だから、レダさんを絶対一人になんかさせないです。きっと、みんなも同じ気持ちです。レダさん。帰りましょう、ですよ。『家族』が待っています」
 その時、ラックはレダの鼓動を感じた。レダは小さくこっくりと頷いたのだ。すると、その後ろからカズヤが叫ぶ。
「おい! どうしたんだ! アルファントゥ!」
 アルファントゥはカズヤの隣で、先程のレダと同じように飴細工の様な姿で変化を始めていた。
「……カズヤ……。ここまで連れてきてくれたこと……感謝する……」
 アルファントゥはそう言うと、元の黒狼の姿に戻った。それに呼応するように、レダはラックの腕の中で、徐々にフューリアとしての姿を取り戻していく。
「……ラック……」
 元の姿に戻ったレダが、ラックの名を呼んだ。
「何〜? レダ」
「このオルゴール、何故欲しかったか、思い出したよ……。この曲、ボクが小さい頃、ママがよく歌ってた曲なんだ」
 そう言うと、レダはラックに預けていた重心を戻し、神音に視線を向けてこう言った。
「ボク、帰るよ。また、みんなと思い出を作っていきたい」
 それが、レダの意志だった。レダはアルメイスに戻ることを選んだのだ。それを聞いたアリシアは、変化を解くとレダに抱きついた。
「レダ! ぃっぱい辛ぃ思ぃをさせて、ゴメンね……!」
 アリシアは泣きながら謝る。レダはそんなアリシアを、そっと抱きしめた。
「もう、大丈夫だよ」
「ぅん……。これからもずっと友達でいてね」
 アリシアの言葉に頷くレダ。そこへ、マリーとエドウィンがやってくる。エドウィンは近くにあった丸太の墓標を見て、レダにこう言った。
「お母さんに報告しなよ。レダ。こんなに友達が出来ました、ってさ」
「わかった」
 レダはアリシアの手を引き、ラックやアルスキールや……そこにいたみんなを呼び集めると、墓標に向かった。
「ママ。ボク、こんなに素敵な友達が出来たよ。ママが居ないのは寂しいけど……パパもいるし……みんなもいるから、大丈夫だよ」
 そう言うレダの元へ、アルファントゥがやってくる。いつもと同じ立ち位置にアルファントゥが立ち、これでレダはすっかりと元通りになった。
「じゃ、帰ろう」
 レダのその言葉で、リエラ対策班捕獲部隊とキックス達は森を抜ける。グリンダ達に足止めを食わされていた対リエラ戦部隊とも森の外で無事合流し、一行はリットランド駅まで戻って行く。
 ここに、リエラハーフ事件はひとまずの解決をみた。


■祝う者■
 アルメイスへ戻る汽車の中で、連理がレダの元へやってくる。
「落ち着いたかの? レダ」
「うん……。色々思い出したけど、みんなが居るから大丈夫」
 レダはしんみりとそう答える。どうやら、レダの記憶は、レダが暴走したエルランドに襲われている所をエルリントが身をもって護り、命を落とした時に封じられたらしく、レダはその時の様子もしっかりと思い出していた。
「……そうか。では、ちょっとおぬしのことを見てやろう」
 連理はそう言うとリエラ『闇主』を出し、予知をレダに掛ける。
「そなたの未来は……ふむ」
 そう言う連理は、次の瞬間、ほっと息をついた。
「そなたの未来は……笑顔に包まれておったよ。ただ、意外な物も見えたのじゃが……」
 連理の言葉に、他の者達は固唾をのんで注目した。
「もしかして……実験体になっているの?」
 神音が尋ねると、その言葉に引かれて、同じ車両に乗っていたクレアも思わずレダの方を見た。だが、連理は首をかしげる。
「そう……なのじゃろうか。レダは白衣を着ておったのじゃが……おお。そうか。あの男、どこかで見たことがあると思ったら」
 連理は一人納得して頷いた。だが、他の者は事情が分からず説明を求める。連理は微笑みながら、こう告げた。
「レダは、カマー教授の所におったのじゃよ。蒸気研におるのじゃろうな」
 言われてみれば、レダは機能的に意味がない非生産的なギミックを集めている。メカフェチの要素は十分に持ち合わせているのだ。
「じゃ、一緒なのね。改めてよろしくね。レダ」
 マリーが言うと、レダはいつもの笑顔を取り戻して頷いた。

 汽車は半日ほど掛けて、アルメイスへ戻ってきた。
 中央駅を降り、レダは久しぶりにアルメイスの地を踏む。中央駅から通りを北上し、レダはいつもの場所、時計塔前広場へと到着した。
 すると、そこへ1人の女生徒が近づいてきた。
「あら。お帰りなさい。レダ。ちょうど良かったわ」
 それはセラだった。その手には沢山のお菓子。
「それ、どうしたの? パーティでもするの?」
 レダが尋ねると、セラは笑顔で答える。
「ええ。改めて、誕生日パーティをしようと思いまして」
「誕生日……って、誰の?」
 レダが不思議そうに尋ねると、セラは当然のようにこう答えた。
「もちろん、レダさんのですわ」
 早速、レダ達はセラの案内で、校舎の集会室に連れられる。そこには、寮長やスルーティア、そして“貧乏学生”エンゲルスがパーティの支度をしていた所だった。
「パーティといえば料理ですよ。料理。これでまた食いつなぐことが出来そうです……」
 エンゲルスは別の意味で感激の涙を流しながら、料理を並べていく。その横でテーブルを運んでいた寮長を見つけ、マリーはそこに近づいた。
「リエラ対策班、只今戻りました。作戦は無事成功したことを報告します」
 マリーの言葉に、寮長は尋ねる。
「レダ君には全てを話したのかな?」
 つまり、レダがアルメイスの研究に協力するかどうかを尋ねたか? と寮長はマリーに問いかけた。すると、レダ自身が寮長の元にやってきて、その問いに答える。
「シルフィス達から聞いた。……それでも、ボクはみんなと居たい……」
 レダの言葉に寮長は頷いた。
「わかった。もし、何かあったら、遠慮無く言って欲しい」
 寮長の言葉に静かに頷くレダ。と、そこへスルーティアがやってくる。
「折角戻ってきたんだから、みんなで楽しく祝おうよ。早く始めないと、お料理冷めちゃうよ?」
「そうですわね。では、レダさん。こちらへどうぞ」
 セラはレダをテーブルの一番上座へと案内する。他の者も席に着き、パーティが始まった。
「揃った所で、皆様、グラスをお持ち下さいな」
 セラの言葉で、全員が飲み物を手に持つ。それを確認して、セラがグラスを掲げた。
「レダさん。改めて、お誕生日おめでとうございますわ!」
 その言葉に、パーティの参加者は1月半遅れのレダの誕生日を祝福した。
「では、お帰りなさいの気持ちを込め、一曲贈りますね」
 “静なる護り手”リュートはそう言うと、曲を奏で始める。

 パーティは穏やかに進み、エンゲルスは忙しく働いていた。
「おっと。ドリンクのお代わりですか? すぐにお持ちしますよ」
 精力的に働く彼の気力の元は、料理である。一息ついたエンゲルスは、とあるテーブルの元へと向かった。
(ようやく、食事にありつけます……あれ?)
 そこには、彼が後で食べようと思って取っておいた料理があった……筈だった。
(料理はどこへ……?)
 エンゲルスがそう思いながら辺りを見回すと……エンゲルスの料理はレダの所にあった。
「あ。ゴメン〜。何だかお腹すいたから、もらっちゃったよ〜」
 レダの屈託のない笑顔に、エンゲルスはいつもよりも激しくくずおれたと言う。


 パーティも無事終わり、レダ達はいつもの生活に戻る。
 ネイやキックスも普通の生活に戻り、いつものように学食で話していた。
「うー……」
 だが、ネイの表情は落ち込んでいた。キックスはため息をつくネイに言う。
「……どうした。まだ何か隠し事でもしてるのか?」
 すると、ネイの代わりにリッチェルが笑いながら答える。
「実は、研究への協力の一環として、本日レティーさんの身体測定があったのですわ」
「……それの何処が可笑しいんだ?」
 すると、リッチェルはキックスに耳打ちする。次の瞬間、キックスは爆笑した。
「……レダに身長も胸囲も抜かれたってか! そりゃいいや!」
 身体測定の結果、レダの身長は51アー、体重は26エルスになっていたという。これは16歳女子の平均身長および体重と大体同じであった。
「……これで、レダは完全にフューリアになった……ってとこか?」
 キックスの言葉に、ネイとリッチェルは頷いた。


 ある日、セバスチャンは授業の移動時に研究室へと向かうレダの姿を見かけた。その横にはアルスキール。後ろからアルファントゥが付いてきており、更にアルファントゥの横にはラックの姿も見える。レダの顔はいつもと同じだった。
 セバスチャンはそんなレダ達の様子を見ながら、こう呟いた。
「人の心とは、良くも悪くも強いものですね……」
 その心の強さがあれば、きっと大丈夫だろう。セバスチャンはそう確信した。

参加者

“福音の姫巫女”神音 “飄然たる”ロイド
“天津風”リーヴァ “蒼盾”エドウィン
“怠惰な隠士”ジェダイト “白衣の悪魔”カズヤ
“探求者”ミリー “光炎の使い手”ノイマン
“翔ける者”アトリーズ “静なる護り手”リュート
“笑う道化”ラック “風曲の紡ぎ手”セラ
“双面姫”サラ “ぐうたら”ナギリエッタ
“闇司祭”アベル “紫紺の騎士”エグザス
“風天の”サックマン “銀の飛跡”シルフィス
“黒き疾風の”ウォルガ “自称天才”ルビィ
“待宵姫”シェラザード “鍛冶職人”サワノバ
“幼き魔女”アナスタシア “六翼の”セラス
“闇の輝星”ジーク “銀晶”ランド
“深緑の泉”円 “餽餓者”クロウ
“闘う執事”セバスチャン “抗う者”アルスキール
“眠気覚ましに”まどか “陽気な隠者”ラザルス
“蒼空の黔鎧”ソウマ “炎華の奏者”グリンダ
“拙き風使い”風見来生 “緑の涼風”シーナ
“爆裂忍者”忍火丸 “貧乏学生”エンゲルス
“猫忍”スルーティア “のんびりや”キーウィ
“旋律の”プラチナム “影使い”ティル
“憂鬱な策士”フィリップ “黒い学生”ガッツ
“不完全な心”クレイ “三色”アデル
“夢の中の姫”アリシア “春の魔女”織原 優真
“冒険BOY”テム “小さき暗黒”アミュ
“暇人”カルロ “真白の闇姫”連理
“演奏家”エリオ “お気楽翻弄”ケイ
“縁側の姫君”橙子