最後の夜に
 今年も終わろうかという慧老の月。街には、1つの噂が流れていた。

「……おい! 聞いてるのか?!」
 ここは学生食堂。いつものようにネイとキックスが街に流れる噂について話している。
 ただ、2人にはいつもと違っていた点が1つだけあった。今回、話題を提供しているのは、意外にもキックスなのだ。
「ん〜。何の話だっけ?」
 逆に、ネイはと言うと、やる気なさそうに生返事をしている。噂が大好きなネイにしては考えられない話だ。
 だが、キックスはそんなネイの様子を知ってか知らずか、噂話の続きを始める。
「また、暴走リエラが出てるんだって。聞いてねぇか?」
 そう。街に流れている噂とは、暴走リエラの噂なのだ。と、言っても、今回は以前までの話とは少し毛色が違う。
「何が違うの?」
「ああ。まず、形と色が違う。確かに人型なんだが、もっとはっきりと人間の形をしている。色は全身金色。背の高さは俺より高い。マリエージュ先輩くらいかな。んで、大きなふさふさの尻尾が生えてた」
 普段より興奮しているキックスに、ネイの冷静な相づちが入る。
「それから?」
「出るのは夜だけ。で、出る範囲は結構狭い」
「それで?」
「姿を現すと、ものすごい速さで走り去っていくんだ。で、路地裏に消えていく」
「目的とかは判ってないの?」
 ようやく、ネイも興味を示したのか、質問を始めた。キックスも少しほっとした顔を見せ、いつもの口調でネイに話し続ける。
「……目的ははっきりしないらしいぜ。ただ、夜中に微風通りの店に体当たりをかましているらしい音を、リムが何回か聞いてる」
「なるほど……」
 ネイは腰に手を当て考えを巡らせる。が、すぐに顔を上げ、キックスに尋ねた。
「ところでキックス〜。なんで、そんなに詳しいの? いつもなら、興味ねぇとか言いそうなのに」
 すると、キックスはいつものふてくされた顔になって答える。
「……俺も見たからだよ。この前、夜中の買い出しに行った時にその暴走リエラをな。それに……」
「それに?」
 ネイが尋ねると、キックスは言葉をそこで一度切った。そして、ゆっくりとこう告げる。
「俺が見かけた時、その暴走リエラは止まって俺の方を見たんだ。鼻とか口とかは見えなかったけど、あの目だけはどこかで見たことがある。あいつは、俺に何か言いたそうだった……」


 食事を終え、ネイはキックスと別々に食堂を出る。すると、物陰から誰かが彼女に話しかけてきた。
――どういたしましょうか? ネーティア様。早く手を打たないと、完全に……
「わかってる。やっと見つけたんだから、このまま崩壊させるわけにはいかないよ。でも……」
――どうするか……ですわね。
「フューリアとリエラのバランスが崩れてきているんだから、それを元に戻せば良いのはわかるんだけど……。とにかく、そっちは今度出来るって噂の、暴走リエラ対策班の状況を調べてくれる? これ以上バランスを崩されるわけにはいかないから」
――解りました。お気を付けて。ネーティア様。
 ネイの言葉に、声はそう答えて闇に消えていった。


 暴走リエラの噂はネイの手を借りるまでもなく、あっという間に広まった。そして、今回は夢工房に被害が出ていることも手伝って、双樹会でも早々に対策を練ろうと言うことになった。
「そんなわけで、今回は私が陣頭指揮を執ることになりました。皆さん、この暴走リエラを頑張ってつかまえて、良い年を越しましょう!」
 そう言うのは、マリー。彼女はクラス委員長を務めていることもあって、この手の事件で指揮を任されることもよくある。ただ、結果が必ずしも最良とは限らなかったわけだが……
「私も、今までの事件から何も学ばなかったわけじゃないわ」
 マリーは今までの経験から、こう宣言した。
「今回、発明は使わない」
「……そういう問題なのかしら?」
 対策班に早々に参加していたリッチェルが、そうつぶやく。
 だが、マリーにはその言葉は聞こえなかった。話を進めるべく、マリーは今まで判っていることをまとめて、黒板に書き出す。
「金色リエラが目撃されたのは、蒼雪祭が終わった辺りだから、先月の終わり頃からね。ただ、今月に入ってから目撃例は増えているわ」
 手元のメモ帳を見ながら、地図にいくつか点を打っていくマリー。
「今回のリエラの行動範囲は狭いわ。時計塔広場を中心にしたこの範囲内ね。行動パターンもある程度固まっているから、適当な路地を使って待ち伏せするのが良いとは思うんだけど……」
 そこで、マリーは大げさにため息をつく。
「目撃例から計算してみると、リエラのスピードが普通じゃないわけよ。数あるリエラの中でも速い部類に入ると言って良いわ。投げ網とかじゃ、その動きについていけるかどうかは疑問ね。ましてや今は冬だし道は凍っているから、こっちの動きはいつも通りとはいかないし」
 マリーはそう言うと、黒板に「投げ網」と書いて、その上に×印を付ける。
「反対に、相手は身体能力も抜群。目撃例のいくつかで、冬道にも関わらず驚異的な反応速度とジャンプ力を見せているの。だから、トリモチとかの定置型の罠はかわされる可能性があるわ。リエラだから、餌を使っておびき寄せるわけにも行かないし……」
 そして、マリーは「トリモチ」に×印を付け、最後にこうまとめる。
「場所は判っているけど、上手い策がないのよ。どうしたら良いと思う?」


 1回目の会議を終えたマリーの元に、レダがやってきた。
「マリー〜。暇?」
 暇じゃないのは明らかだが、そこでマリーはレダをむげにはしなかった。
「なーに? レダ。ちょっとだけ忙しいけど、話は聞けるよ」
 すると、レダはいつもの笑顔でマリーに言う。
「ぷらんたーるのらんつふぇーるに、パーティしよ〜よ」
 銀嶺(プランタール)の聖碑(ランツフェール)とは、平たく言うと年の初めの日である。
「時計塔広場で、年こしのパーティするんだ〜。今、トモダチ誘ってまわってるの〜。みんなで楽しくわいわいしながら、時計塔のかねが年明けを教えてくれるのを待つんだよ〜」
「あら。面白そうね」
 マリーがレダの提案にそう答えると、レダはにゅふふと笑いながらこう続ける。
「それにね〜。ぷらんたーるのらんつふぇーるって、ボクの誕生日なんだよ〜。だから、誕生日のパーティも一緒にするんだ〜」
 レダの笑顔に負け、マリーはこう答える。
「今のお仕事が終わったら、私も行くわ」
 レダはその答えに満足したのか、手を振って帰っていく。マリーも仕事を終えるべく、ある人物の元へ協力を要請しに行った。


「……と言うわけで、キミに協力して欲しいんだけど。ロイズ・フォックナーも、こう言う時に役に立つと思うし」
 マリーが向かったのは、キックスのいる天文台だった。先程彼自身が言っていた通り、キックスは暴走リエラが止まっている姿をはっきりと見ている。暴走リエラの目撃例はいくつかあるが、完全に静止した姿を見ているのはキックスだけだった。
 だが、マリーは次にキックスがどう返答するか、予想は付いていた。果たして、キックスはその予想通りこう答える。
「マリエージュ先輩の頼みでも、これは聞けません。計画とか組織とか、俺は……」
「あー、最後まで言わなくてもいいわ。まぁ、暴走リエラの話は聞いたし……」
 マリーはキックスから聞いたリエラの姿形を手帳に書き留めると、礼を言って天文台を後にする。キックスも、買い出しに向かうからとマリーと一緒に天文台を出た。


 時計塔の蒸気式エレベーターを降りて外に出た2人は、そこに意外な光景を見た。
「そうか! それは良いアイディアですよ! これならバランスをとれるかも!」
 それは、ネイがそう言ってレダの両手を取っている姿だった。
「……なにやってんだ?」
 思わずキックスが尋ねると、ネイがいつものにひっとした笑顔で答える。
「パーティなのですよ。パーティ! 年越しパーティ! 誕生日パーティ!」
 学食にいた時の無気力ぶりからは考えられないほどのネイの明るさに、キックスは引き気味である。反対に、レダは協力者が出来てうれしそうだ。
「やった〜! パーティだよ〜!」
「あ、そうだ。レダ。良いことを教えますよ」
 うれしそうなレダに、ネイがそう話しかける。レダがネイの方を不思議そうに見ると、ネイはえへんと胸を張ってこう言った。
「故郷イミールでは、年越しの鐘が鳴っている間に大切な人へプレゼントを贈ると、その年はお互いに幸せになると言われています。今回の年越しパーティでも、プレゼント交換会を作りませんか?」
「さんせ〜!」
 2人が勝手に話を進めているのを見て、マリーが尋ねた。
「キックス。キミはどうするの?」
 だが、キックスは答えなかった。答えるまでもなかったのだろう。
(パーティに参加するのね。きっと)

 もちろん、その後、パーティの噂が大々的に広まったのは言うまでもない。それこそ、暴走リエラの噂がかすむほど。
 更に、ネイは今回、噂を流すだけではなく招待状も作成していた。それを、レダの知り合いやらそうでない人達やら、とにかく配れるだけ配ったのだ。
 招待状の内容は次の通りである。

「慧老の月・章下の31から銀嶺の月・聖碑にかけて、時計塔広場で年越しパーティ&レティー・ダークの誕生パーティを行います。今年最後の夜と来年最初の夜を、みんなで楽しみましょう。なお、当日はプレゼント交換会がありますので、各自プレゼントを持ち寄ってください」


――ネーティア様。これで、バランスは元通りになるのでしょうか……?
 パーティの準備で夜遅くまで東奔西走していたネイに、物陰から誰かがそう問いかける。
「大丈夫だよ。次の指示がこっちに来るまでには、きっと元に戻っている。ううん。元に戻す」
 ネイは視線を地面に落として、そう呟く。
――ずいぶんと自信があるのですね。
「うん。私は信じてるから。人の繋がりと……思いの強さを」
 ネイはそう言うと、空を見上げた。

■誘い■
 ネイが配ったパーティの招待状は、多方面に渡っていた。レダやネイと普段面識のない者まで、その招待状を受け取っていたと言うもっぱらの噂だった。
「招待状を持っていない方でも、来て頂いて構いません」
 ネイ自身も、ことある事にそう語っていた。そんなネイの言葉を信じ、今年最後の夜を自分の大切な人と過ごそうと働きかける者達がいたのは、当然のことだったのだろう。


「暴走リエラも気になるけど、やっぱりパーティよね♪」
 “緑の涼風”シーナがパーティと聞いて真っ先に向かったのは、やはりクレアの所だった。
 そして、クレアの元に向かっていた生徒がもう1人。“怠惰な隠士”ジェダイト。
(クレア、ここんとこ余裕無さそうだが……)
 ジェダイトは、シーナよりもやや状況を深刻に受け取っていた。
 クレアの余裕が無いのは、ひとえに「力」を求めているからだ。下火となっているラウラ・ア・イスファル探しを未だに継続しているのは、クレアとランカークくらいなのだ。
(息抜きが必要だな……。クレア、こういうお祭り事は好きだしな。丁度良いだろう)
 ジェダイトはクレアの身を案じつつ、クレアの元へと向かう。
 2人がクレアの元へ着いた時、そこにはいつもの面々がいた。クレアとルー。そして“天津風”リーヴァ。どうやら、彼もまたルー(とクレア)をパーティに誘いに来たらしい。
 だが、リーヴァとルーの間は、いつもと違う雰囲気が流れていた。いや、正確に言えば、リーヴァはいつもと変わる所はない。ルーの雰囲気が微かに違うのだ。
 シーナ達が来る少し前、リーヴァはルーをパーティに誘っていた。
(先日の件でルー君はこちらが警戒するか何かするかと思っているかも知れないが……知ったことか)
 リーヴァは、先日ルーと二人きりになった時に、ルーが四大リエラ「彷徨う風のクロンドル」の使い手であることを知った。
(だが、はっきり言ってしまえば、四大リエラの使い手だからといって、ルー君がクレア君を思い遣っている健気な女の子だという事実に何の変わりもない)
 リーヴァはそう思いつつ、先日ルーに言われた事を自ら証明するべく、いつも通りにルーへと向かう。
「年越しのパーティに行かないか?」
 だが、ルーはいつものように首を振る。もちろん、リーヴァはそこで諦めるつもりなど更々無い。少々強引にルーを誘い続ける。
「他の生徒と触れ合うのは嫌かね? 嫌でなければ、たまにはこういうパーティにでも……」
 リーヴァがそう言った時、ルーは再び首を振った。
「……パーティに行く余裕は無いわ」
 ルーはクレアを見ながら、そう言った。クレアの周りには先日からずっと張り巡らされていた緊張感が未だにあったのだ。それを見た時、リーヴァは自分が言った言葉を思い出さざるを得なかった。
「ルー君は、理由はともあれ、クレア君を止めていたと思う。クレア君が聞き入れなかっただけだ。好きにしろと言うのでなければ、付いて回るしかないだろう? それ以外の選択肢があったというのなら、教えてほしいところだ」
(……難儀なことだ……)
 リーヴァは理解した。今のままではクレアはパーティに行くとは言わないだろう。だから、ルーもパーティには行くと言わないだろうと。
 そこまでリーヴァとルーが話し終わった時に、ジェダイトとシーナが来た。すぐに2人はクレアをパーティに誘う。
「クレアさん! 年越しのパーティ行こうよ!」
「そうだ。たまには息抜きも必要だろう?」
 クレアは少し考えていたが、シーナやジェダイトの思いが伝わったのか、ふっと笑顔を見せる。
「うーん。そうだね。ちょっとだけならいいかな?」
 クレアの言葉に喜ぶ2人。結局、パーティにはみんなで行こうと言うことになり、リーヴァもほっと胸をなで下ろした。


 “紫紺の騎士”エグザスは、先日の事件以降余裕がなかった。
(まさか、レディフランがパティアの存在を知っていたとは……)
 エグザスの余裕が無い理由は、フランの為だ。フランの状態を知るエグザスには、時間がなかった。
(取り急ぎ、出来ることと言えば……)
 エグザスはフランの元へ向かった。と、その途中で見慣れた顔を見つける。
「ルビィ殿……。もしや……?」
「ああ。フランの所に行く」
 エグザスに呼び止められた“自称天才”ルビィは、当然のようにそう答えた。エグザスもそれ以上は聞かず、フランの元へと急ぐ。
(こちらの身の振り方を間違えたら……失敗……そして死、だろうな。もちろん、引き下がる気はないが)
 エグザスの普段とは違う険しい表情を見て、ルビィもこれからの事を考えていた。
(フランと姫っちの件は今すぐ行動を起こしたいが……今はダメだ)
 程なく、2人はフランの所へと着いた。早速、ルビィがフランを呼び出す。
「……何でしょうか」
 顔を見せたのは、フランだった。まずはほっと胸をなで下ろす2人。と、ルビィが自分の用件を早速伝える。
「年越しのパーティに行かないか? みんなで雪像作りとかして、冬の一日を楽しもうぜ」
 エグザスはルビィのその誘いを止めなかった。フランに内なる彼女の事を一時でも忘れてもらう為にパーティに参加してもらうのは、エグザス自身も考えていたことだからだ。
 だが、フランは至極単純且つ重大な理由でその誘いを断った。
「体調がすぐれなくて……すみません」
 そう言うフランの顔は、明らかにやつれて来ていた。それに、元々フランは寒いのが苦手である。この状態では、長時間冬空の下にいるのは無理であろう。
 そして……2人はフランが何故やつれているか、わかっていた。
「用事が無ければ、私はこれで……」
 フランがそう言うので、エグザスは慌てて、且つ慎重に自分の用件に入る。
「これを……受け取ってくれ」
 いつもの紳士の口調ではなくはっきりとした強い口調で、エグザスは御守りをフランに渡した。フランは不思議そうな顔で尋ねる。
「これは?」
「私が貴女の味方である事の、証だ」
 エグザスは慎重に言葉を選び、そう答えた。
「……ありがとうございます。それでは……」
 これ以上は玄関口でも寒いと告げて、フランは戻っていく。
「これからどうするんだ?」
 当てが外れたルビィは、エグザスにそう尋ねる。
「……ラザルスが呼んでいるから、パーティの方に顔を出すつもりだ」
「んじゃ、俺様はネイの所へ行ってくるわ」
 2人はフランの身を案じながら、フランの元を離れた。

 “貧乏学生”エンゲルスはランカークの元に来ていた。ただ、エンゲルスはランカークをパーティに誘いに来たのではない。
「では、何しに来たのだ」
 そう尋ねるランカークに、エンゲルスは一つの箱を取り出した。
「フランさんへ贈るプレゼントに付いて、ご相談に参りました」
 そう言って、エンゲルスは箱をランカークに渡す。ランカークは早速その箱を開け、次の瞬間エンゲルスに怒鳴りつけた。
「空っぽではないか!」
「はい」
 エンゲルスはひるむでもなく、自分のアイディアを説明する。
「冬と言うことで、この寒さを利用した直径1アー程の氷の結晶を作り、それを花のように細工するのです」
「だが、氷なら溶けるではないか」
「それは計算の上です。その為に、この箱をカマー教授からお借りしてきました」
 エンゲルスが改めて空の箱を指し示す。
「この箱は氷が溶けにくくなる仕掛けをしてある箱です」
「ふむ……だが、箱から出したら氷はやはり溶けるだろう」
 ランカークの言葉に、エンゲルスはぬかりないと頷く。
「フランさんが氷の花を受け取って、溶けた時にこう言うんです。『この花は氷で出来ているが故に、儚く消えてしまうでしょう。ですが……花は消えても、人の心は誰かがその人のことを想っている限り消えることはありません』と」
「ふむ」
「そこで俺が『フランさんには貴方を想って下さる方が……ランカーク様を始め、他にも沢山居られます。フランさんは独りぼっちではないのですよ』と言って援護します」
「なるほど……。それは良いかもしれん」
 ランカークはエンゲルスのアイディアを採用することにした。早速、従者に氷を用意するように指示を出す。だが、従者はランカークにこう告げた。
「……フラン様は体調が思わしくないとのことで、パーティは辞退されるという話でございます」
 それを聞いたエンゲルスは、がっくりと膝を突いたという。


「年越しパーティにエリスと一緒に行こぅ、っと♪」
 “ぐうたら”ナギリエッタは、パーティの噂を聞いた時、至極当然にそう思っていた。
 早速、ナギリエッタはエリスの元へと向かう。もちろん、エリスをパーティに誘う為である。だが、ナギリエッタがそこに着いた時、意外なことに先客がいたのだ。
「エリス。年越しパーティには参加するのか?」
 それは“黒き疾風の”ウォルガだった。
「……参加しないわ」
 エリスがそう答えると、ウォルガは引き下がるどころか、逆に食い下がってきた。
「折角の一年に一回こっきりのパーティなのだから、祝い祝われる方が楽しいはずだ。参加してはどうだ?」
 すると、エリスはこう告げる。
「それは……あなたの都合ね」
 その言葉に、ウォルガははっとした。確かに、ウォルガはエリスらと楽しい思い出を築き上げたかった。それが焦りを生んだのか、エリス本人の意志を考えるのを忘れていたのだ。
 端からそれを見ていたナギリエッタは、改めてエリスに尋ねる。
「エリス……ホントにパーティには参加しなぃの?」
「ええ。ちょっと……用事があるの」
 エリスの言葉に、ナギリエッタは考えた。
(それじゃ、作りかけのマフラーは……別の機会に渡そぅっと)
 ナギリエッタは日頃の感謝を込めて、白いマフラーを編んでいた。パーティの時に渡すつもりだったが、用事があるなら仕方がないと、ナギリエッタはプレゼントを贈るのを諦めかけていた。
 エリスはそんなナギリエッタの様子を知ってか知らずか、こう続ける。
「……多分、その時は微風通りにいるから」
 ナギリエッタはその言葉に感謝した。
(これなら、パーティは参加出来ないけど、プレゼントは渡せそぅ。微風通りなら、時計塔の鐘もばっちり聞こえるょ)
 俄然やる気の出てきたナギリエッタ。エリスは話が終わったので、席を立つ。
「じゃ……行くわ」
 ナギリエッタは頷くと、自分もマフラー編みに精を出そうと、そこを後にする。
(エリス、喜んでくれると嬉しいなぁ……)


 今回のパーティは、冬の夜に屋外で行われる。内容は楽しげだが、参加をするには想像以上に過酷だ。
 “猫忍”スルーティアと“轟々たる爆轟”ルオーがラジェッタをパーティに誘いに行った所、エイムが難色を示したのもその点だった。
「ラジェッタに風邪を引かせるわけには行きませんから……」
「ううむ。確かにそうやな……」
 ルオーはその時決意した。ルオーは、ラジェッタの為なら何でも調達するつもりだった。ならば、このパーティにて彼が真っ先に調達すべき物は1つしかない。
「よっしゃ。俺が寒くなくて可愛い服、用意したる。だから、ラジェッタちゃん。パーティいかへん? プレゼント交換とかするんやで? お兄ちゃん、ラジェッタちゃんの為にすっごいプレゼント用意してみせるで!」
 ラジェッタは流石にまだ子供だった。「プレゼント」の言葉に即座に反応する。
「行く!」
 その言葉に、スルーティアもほっと胸をなで下ろす。ここでラジェッタが参加を断っては、自分たちの計画もまた練り直しなのだ。
「ほな、年末に迎えにくるで」
 ルオーが手を振ると、ラジェッタは無邪気に手を振り返した。

 放課後。“のんびりや”キーウィは、天文部部室から下を覗き込みつつ、今夜の星空観察の準備をしているキックスに尋ねた。
「キックスはん……。ちょっと……エエ?」
「……何だ?」
 いつものようにぶっきらぼうな口調で、キックスはキーウィに言った。キーウィは意を決し、キックスへこう告げる。
「キックスはん、年越しパーティに一緒にいかへん?」
 そして、祈る気持ちでキックスの返事を待つ。しかし、キックスは答えを返さなかった。
しばらくの沈黙の後、キーウィは恐る恐るキックスへ聞く。
「そ、その……。やっぱり……忙しいん? それとも……」
 キーウィがそう言いながらキックスの方を見ると、キックスは作業の手を止めていた。
「……ぶっちゃけ、悩んでる」
 ようやくキックスが言葉を発する。
「ネイの様子もおかしいし……最初はパーティに行くつもりだった。けど、今じゃ人が多すぎる。気がのらねぇ」
 と、キックスが突然笑顔を見せた。奇怪な行動に、キーウィが驚く。
「ど、どないしたん?」
「……いいこと思いついた。つーか、パーティは時計塔広場でやるんだから、上から見てりゃいいんじゃん」
 つまり、キックスはこの天文部部室で年を越すと言ったのだ。
「付き合うか?」
 子供のように悪戯っぽく笑うキックスの問いに、キーウィは頷いた。
(場所はちょっと違うけど、一応パーティには参加なんやし……)
 キーウィはそう思い直すと、計画を実行に移す事にした。
(やっぱり、冬のプレゼントといえば手編みの手袋やね。夜なべして、パーティまでに間に合わせへんと……)


■リエラ対策会議■
 街がパーティの噂で持ちきりになっている頃、暴走リエラ対策班も少しずつ動き出していた。今は、2回目の会議を始めようという所である。
「暴走リエラ捕獲のアイディア、何かある?」
 黒板の前で、マリーが尋ねる。そこで真っ先に発言したのは“飄然たる”ロイドだった。
「提案というか、これは申請なのですが」
 マリーがロイドの方に視線を向けると、ロイドは申請内容を説明する。
「修学旅行にて使われた、携行式ランカーク砲の貸与と改造の許可を頂きたいのですが」
 その申請を聞いたマリーは、困惑した表情を見せる。
「あれは……ちょっとねぇ……どうかなぁ」
 しかし、ロイドはマリーを説得しようとこう続けた。
「貴女には関係ないことかも知れませんが、私の実家は科学技術の効果的殺傷利用を目的としている銃器メーカー……。私もいずれ、技術者としてそこの当事者になる身。だからこそ、私は技術の持つ正の側面を強く信じたい。技術で解決出来る事があるなら、可能性を手放したくありません」
 と、マリーがため息をつく。
「ご高説はもっともかも知れないけど、先に私の話を聞いてくれる?」
「なんでしょう?」
 ロイドが尋ねると、マリーは困惑した表情のまま、こう説明を始めた。
「キミの言っている携行式ランカーク砲……。つまり、ランカーク・ザ・ガーディアンアロー零型の事だよね。あれ、単に普通の金属の筒に箱をくっつけただけなんだけど。蒸気で動かしているのは照準だけ。何かを打ち出す仕組みすらないんだよ。箱の中に私のリエラ入れて、照準合わせてリエラの電撃を撃ってるだけ。そんなんでもいいの?」
 マリーは言葉をそこで一度切ると、真顔でこう続けた。
「実家が銃器メーカーなら、照準については私たちより高い技術を持っているんじゃない? それにね……あれ、携行するには不向きだよ? 重いし、バランス悪いし。それでもいいんなら、金属筒と箱はすぐに用意出来るから、作るのは構わないけどね」
 ロイドは悩んだ。ランカーク・ザ・ガーディアンアロー零型は元々試作零号型だけあって、予想以上に科学技術を使っていなかったのだ。調整するにしても、改良するにしても、これでは1から全部作るのと手間はさほど変わりない。
 ロイドが悩んでいる間に、マリーは会議を進めることにした。
「他に、アイディアある人、いる?」
 次に手を挙げたのは、“修羅の魔王”ボイドだった。彼のアイディアはこうである。
「話を聞くと、暴走リエラは街の壁に体当たりしながら、文字通り街中を暴走している様だな。だが、人に発見されると、暴走ではなくもっと綺麗に素早く走っている。人に見つかると、自我を取り戻しているのかも知れない」
「ふむ。なるほどね〜」
「だから、住宅の外側にトリモチを仕掛けてはどうだ? 我を忘れて暴走している時に、壁にぶつかってトリモチに引っ掛かるだろう」
 このアイディアは秀逸だったと言えよう。実際、「暴走リエラは何故、壁に体当たりをしているのか?」と言う点を調べている者も何人かいる。その結果と合わせれば、効果的にトリモチを配置出来るかも知れないという事になった。
 続いてアイディアを出してきたのは、ユリシア=コールハート。
「私が考えた暴走リエラ用の罠は、『網』です」
「網? 見つかったらかわされない?」
「だから、ある程度細く、剛性を持った網を仕掛けるの。暴走リエラは高速で動いているから、網に気づいて回避する前に引っ掛かると思うのですよ。この網は捕獲用じゃなくて時間を稼ぐ為のもの。引っ掛かったら、脱出が出来ない内にみんなで取り押さえるんですよ」
 そのアイディアを聞いて、一人の男が立ち上がった。
「策士の力が必要かい?」
 それは“熱血策士”コタンクルであった。
「網で引っかけるというなら、より効果が望める方法がある。幻覚能力で粘性を持ったリエラを隠して、そこに突っ込んでもらうんだ」
「む。粘性を持ったリエラなら、拙者の何とか丸が使えると思うでござるよ。雪を模した薄い膜の様な姿になれば、包み込んでつかまえられると思うでござる」
 “爆裂忍者”忍火丸がコタンクルの案に乗ってくる。が、マリーは鋭くこう突っ込んだ。
「さっきのユリシアの案もそうなんだけど、網とかリエラとかを、何処に配置するつもりなのかな? そもそも、仕掛けている場所を暴走リエラが通らなければ、意味がないんだけど」
 ユリシアは、その問いに一応答えを持っていた。
「キックスとリムの目撃情報を聞いて、私の勘で判断するです」
 他の2人はというと、答えを持っていなかった。
「……不確実そうだなぁ……」
 マリーは心配そうにそう評価する。

 会議は進み、アイディアは大方出尽くす。と、言うよりも、会議に参加した者の話題は「暴走リエラの正体」へと移っていた。そして、正体に関しては参加者の大半が似た推測を持っていた。
「経緯を見るに、今回の暴走リエラもフューリアとの間で迷っている者の可能性が高いな」
 “銀晶”ランドが話をそう切り出すと、“銀の飛跡”シルフィスも同意する。
「エイムの件の結末から考えると、そう考えるのが筋ってものね」
 エイム。ラジェッタの父親にして、自存型リエラ。ラジェッタのリエラになる前は、銀色の暴走リエラだった。
「今回の暴走リエラの出現時間は夜だけらしいですから、普段は以前のエイムさんの時のように、日常の中にとけ込んでいるのだと思います」
 そんな“抗う者”アルスキールの見解に異論を挟む者がいなかったので、アルスキールは続けて意見を述べる。
「以前のように最後は消えてしまうのなら無理かも知れませんが、消えないのでしたら正体を突きとめる事は出来ませんか?」
「不可能……では無いだろう」
 ランドがそう相槌を打つ。と、“光炎の使い手”ノイマンが話に入ってきた。
「暴走リエラの正体に関して、思う所があるのだが」
 会議に参加している者の目が彼に向けられる中、ノイマンは自分の考えを述べた。
「今回は、学園内の生徒の自存型リエラが夜間、生徒が眠りに就いた時に制御を離れ、暴走していると推理する。そして、暴走リエラの目を見たキックスが、その目に見覚えがあると証言している。自存型。尻尾。高速移動。そして、キックスが知っている……。以上のキーワードから考えられるのは……」
「考えられるのは?」
「アルファントゥだ。無論、姿は違うが、アルファントゥには身体の大きさを自由に変えられるという能力もある。姿を自在に変えられてもおかしくはない」
「なるほどね〜」
 ノイマンの意見に納得するマリー。と、シルフィスが自分の考えを述べ始めた。
「私の意見はちょっと違うわ。アルファントゥが完全に関係ないとは思わないけど……何というか、レダがもっと関わっている気がする。ほら。あの子って獣っぽいじゃない? 身体能力もあるし……話に聞くリエラの行動や能力と被るのよね」
 シルフィスははっきりと自分の意見の結論を述べなかった。だが、彼女の話を聞いていた“深緑の泉”円が、こう結論を引き出そうとする。
「今のお話からすると……暴走リエラはレダさん自身……と言うことなのです?」
「もしくは、レダとアルファントゥが融合している……って所かしら」
「ふむ。その可能性は私も考えておりました」
 “闘う執事”セバスチャンも、概ね同意であると告げて自分の意見を述べはじめた。
「あのリエラがレダ様やアルファントゥ様である可能性は私もあると思います。ですが、まだ可能性の段階。そのことを直接尋ねたりしては、彼女を傷つけてしまうことでしょう。ですので、今は本人に直接このことについて尋ねると言うのは、反対致します」
 確かに、とそこにいた者は大方納得して頷く。と、“蒼盾”エドウィンが一つのアイディアを出した。
「この暴走リエラがレダと親和性があるような気がするのは、俺も同じだ。だから、こう言うのはどうだろう?」
「どういうの?」
 マリーが尋ねると、エドウィンは真面目にこう答える。
「ぶっちゃけた話、暴走リエラに追いつけるリエラは、アルファントゥくらいしかいない気がする。だから、レダとアルファントゥに、暴走リエラの捕獲を手伝わせたい」
「それは、リエラ対策班でレダを監視すると言うことですか?!」
 セバスチャンがそう言うと、エドウィンは首を振る。
「そうは言ってないだろう。正直、俺は新年までリエラと追いかけっこするのは勘弁して欲しい。だから、少しでも『捕まえる』可能性を上げるためにレダへ協力を頼むんだ。そもそも、暴走リエラの正体がレダ達じゃなかったら、アルファントゥのスピードは立派な戦力だと思わないか?」
「でしたら、早速呼んできます。レダ自身に話したいこともありますし」
 アルスキールがそう言って、会議室から出て行く。
「では、俺は聞き込みに行ってこよう」
 ランドがそう言って会議室を出て行くと、“影使い”ティルもやはり聞き込みへと向かうべく会議室を後にした。
「では、私はちょっと準備をして参りますわ」
 今まで黙って事の成り行きを見守っていたリッチェルも、そう言うと続いて会議室を出て行く。それを見て、マリーは会議の閉会を告げる。
「今日の会議はここまで」

 蒸気研に戻りやれやれとため息をつくマリーの元へ、“不完全な心”クレイがやってくる。
「マリーさん。ぷ、ぷ……」
「プールサイド?」
「そうじゃなくて……ぷ、プレ……」
「プレーンオムレツ?」
 いつものやりとりの後、マリーは笑いながら言った。
「プレゼントがどうしたの?」
 その言葉にようやく落ち着いたクレイが、こう尋ねる。
「あ。あの。レダへプレゼントを贈ろうと思うんです。レダは、『無駄且つ非生産的ギミックが好き』だそうで……」
「そうだね〜。何か持ってく? この折りたたみ式半自動暦とか……」
 マリーが怪しげな発明品を取り出そうとするのを、クレイは手を振って否定した。
「あ、いえ、規格外の寸法のネジがあれば、それを欲しいんですけど……」
「ネジ? あるけど……。そんなのでいいの?」
「はい。規格外の寸法のネジは、一見役に立たなさそうですが、人の心と心をつなぐ役目を持った、大切なものです」
 真顔でそう言うクレイ。だが、次の瞬間マリーは思い切り声を上げて笑った。
「わ、笑っちゃってごめんね……。でも、すごく面白い……。キミ、レダの事が好きなんだね……アハハ」
(いや……本当に好きなのは……)
 クレイがしょんぼりとうなだれるのを見て、流石に悪いと思ったのか、マリーは何とか笑いをこらえ、ポケットから大きなナットを取り出す。
「これはどう? この前の飛行機械を組み立てるのに、特注で作ったものなんだけど。他のにはちょっと合わないから、記念に持ってたんだ」
「あ、ありがとうございます! では……!」
 クレイは照れ隠しもあってか、自分の親指ほどの穴の開いたナットを受け取ると、脱兎のようにそこから走り去った。

 無我夢中で走るクレイ。ふと気づくと、彼は学校を飛び出し、時計塔広場まで来ていた。
(良い機会ですし、マリーさんのプレゼントについてリムさんに相談しに行きましょう。このままでは誤解をされたままですし)
 クレイは当然のように、マリーに対してのプレゼントも考えていた。何かというと、新しい眼鏡。なので、同じく眼鏡を掛けているリムに相談するつもりだったのだ。
 早速、クレイが『アッタとリムの夢工房』に行くと、そこには丁度ランドとティルがいた。
「では、『蒼月の都』の方を調べてきます」
 ティルはそう言ってランドと別れる。ランドはそのまま夢工房へ入っていった。クレイもその後を追うように、夢工房へと入ることにした。
 夢工房の中では、既に“笑う道化”ラックがリムと話していた所だった。その横には、プレゼントの材料を買いに来たという“憂鬱な策士”フィリップや“六翼”セラスの姿もあった。
「毎度〜。で、何が聞きたいんや?」
 リムはラックに買った品物を渡しながら、そう尋ねる。ラックは早速、尋ねたいことを話し始めた。
「最近、暴走リエラが出て、あちこちの店の壁に体当たりしてるって話やけど、一番体当たりされてるのって、何処の店なん?」
 すると、リムは間髪入れずに、怒った口調でこう言った。
「ウチや! いったい、ウチらの店に何の恨みがあるっちゅうねん!」
 それを聞いたランドが尋ねる。
「何か、最近変わった物を仕入れたとか、そう言うのは無いのか?」
「うーん。ウチの所は危険物とか扱ってるし、変わった物は日常茶飯事やわ〜」
 確かに、夢工房自体は変わった物も多々売っているのが売りだ。
「それなら、取り置きしたまま客が取りに来ない品物は無いかな?」
 フィリップが尋ねるが、リムは首を振る。そこで、今度はラックが尋ねた。
「話は変わるけど、最近、レダがこの店に来いへんかった?」
 レダの名前が出た時、ランドの顔が引き締まる。彼の勘が、今回の事件に関わる手掛かりがあると告げているのだ。果たして、リムはこう言った。
「レダ? 来とったよ」
「ホンマ?! で、何か欲しそうな物とかあったん?」
「ああ。それなら、アレやわ〜」
 リムはそう言うと、店の隅にある小さな木箱の元へと向かった。
「レダ、これに興味津々だったんよ」
「それは何なんだ?」
 ランドが尋ねると、リムはそれに答える代わりに木箱の蓋を開ける。すると、箱の中から何かの音楽が聞こえてきた。
「オルゴールや。見よう見まねでお父が作ったんやけど、良い音するやろ?」
 店にいた者は、しばしオルゴールの澄んだ音色に耳を傾ける。だが、その音楽はだんだんと速度を落とし、ついには止まってしまった。
「ああ。ネジを巻きなおさへんと」
 リムは慣れた手つきで箱の中からハンドルを取りだし、ギコギコとネジを巻く。これぞまさしく、レダの好きそうな『無駄且つ非生産的なギミック』だ。
「それ、欲しいんやけど」
 ラックの言葉に、リムは笑顔で言った。
「毎度あり〜」
 笑顔でオルゴールを包装するリムとは反対に、セラスはちょっと困った顔を見せていた。
「さっきのオルゴール、アッタさんが作ったって言ってたよね?」
「そうや〜」
(帝国最高水準の技術力を持つアッタさんでも、オルゴールを作るのにこの大きさじゃないと出来なかったんだよね……)
 セラスは、鉛筆に付けるキャップ大の大きさのオルゴールを作ろうと考えていた。だが、これでは自分に作るのはかなり難しいと言っても良いだろう。
(他のプレゼントを考えようっと)

 話をずっと聞いていたランドは、リム達の話題がパーティへと移行してきたので、リムに礼を言ってから、ティルと合流すべく『蒼月の都』へと向かう。
 彼が店に着いた時、ティルは丁度話を終えたところであった。そこには、何故か“闇の輝星”ジークの姿もある。
「どうだった?」
 ランドの問いに、ティルは無言で首を振る。どうやら、特に手掛かりになりそうなことは無かったらしい。ランド達2人が店から出ようとすると、店の中からカレンの声が響く。
「ありがとうございました」
 ティル達はリエラ対策班へ戻ろうと、そこを後にする。それを見送りながら、ジークは本題に入った。まずは『ガーネットの夕日』を買い求め、カレンに尋ねる。
「カレン。キミは年越しパーティに参加するのか?」
 すると、カレンは首を振った。
「しないわ」
「そうか……。君に渡したい物があるから、顔を見せるだけでも出てこれないか?」
 ジークはカレンにそう頼んだ。しかし、カレンは更に首を振る。
「……話は聞いているわ。年越しの鐘が鳴っている間に大切な人へプレゼントを贈ると、その年はお互いに幸せになるって話。でも、その時間は……忙しいの」
「そうか……」
 ジークは仕方ないと思いつつ、カレンからガーネットの夕日を受け取る。


 対策班へ戻ったランドは、話のまとめ役を買って出ていた円に調査内容を話す。そこへ、アルスキールも丁度戻ってきた。その後ろにはレダとアルファントゥの姿。それを見たエドウィンは、提案者として改めて説明をする。
「金色の暴走リエラの捕獲が終われば、マリーもパーティに参加してくれるそうだ。手伝ってくれないか?」
「いいよ〜」
 レダは即答した。思わず、アルスキールが尋ねる。
「大丈夫ですか? 気をつけて下さいね」
「大丈夫だよ〜。ありがとう〜」
 レダは笑顔でそう返す。そんなレダを、対策班の面々は複雑な思いで見ていた。


■破られていく殻
 会議室を出たリッチェルの元に、“翔ける者”アトリーズが近づいてくる。
「姫君。ちょっと良いかな」
 そう言うアトリーズを、リッチェルは恨めしそうな目で見つめながら応えた。
「何ですの?」
 あからさまに機嫌の悪そうな声を浴びせられるが、アトリーズは意に介さず本題に入る。
「単刀直入に聞きたい。君とネイとレダ、あるいはアルファントゥはどんな関係があるんだ?」
 質問を受けたリッチェルは更に機嫌の悪そうな声で、こう答える。
「前にも言った通り、ネーティアさんは従姉妹。そして、レティー・ダークはネーティアさんと仲の良い友達と聞いていましてよ」
 だが、次の瞬間、予想外の所から声が響いた。
「それは嘘だ!」
 振り返る2人。すると、そこには何と“蒼空の黔鎧”ソウマが花束を持って立っていた。
「……何事ですの? それに、突然現れて嘘つき呼ばわりとは……」
 リッチェルがそう言いかけた所で、ソウマは何と花束をリッチェルへと渡した。
「リッチェル! 今のことで話がある! 2人きりで晩飯でもどうだ?!」
「……それは、デートということですの?!」
 男性が女性に花束を贈って、食事に誘えば普通はデートと考えるだろう。だが、ソウマは素直にこう答える。
「俺の正義が何かを告げている! だからこうして誘っている!」
 不意を突かれたリッチェルはクスリと笑いながら、1つの条件を出した。
「……二度手間は取りたくありませんの。アトリーズさんも一緒でよろしいかしら?」
(と言うことは、姫君は本当のことを話してくれる気になったって事か……?)
 自分の名を出されたアトリーズは、そう考えた。ソウマはその条件提示にこう答える。
「リッチェルが問題ないなら、問題ない!」
「では、行きませんこと?」
 リッチェルの言葉で、3人はソウマの予約していた店に行く。席に着き、注文を済ませると、リッチェルが切り出した。
「説明して下さいます? わたくしを嘘つき呼ばわりした理由を」
 ソウマは食事が終わってから話を進めるつもりだったが、先に理由を聞きたいと言うことで、「これは俺の予想だ!」と前置きして話を始める。
「2回目のリッチェル襲撃事件の事だ! 過去視はネイがラケットでリッチェルを殴った場面を見せていた! だが、ネイ本人は俺達が凶器のことを話す前に、凶器がラケットだと知っていた! これは引っかけなのか?! 慌てた上のミスか?!」
「……ネーティアさんの情報網が、先に情報を得ていたのではなくて?」
 リッチェルがそう突っ込むと、ソウマは話を続ける。
「そうかもしれない! だが、本当にネイが犯人かもしれない! もし、ネイが犯人だったら、ネイとリッチェルは対等ではない! 恐らく主従だろう! 対等ならリッチェルが殴られるはずはないからな! だから、俺はさっき『嘘だ!』と言った!」
 ソウマは正義の言葉で次々と切り込んでいく。
「1回目の襲撃事件の時は犯人が別にいたな! 2回目はその時に思いついたか?! 何かを捜す為に、2人で一芝居打ったんだろう! そこまでして、何を捜しているんだ?! 人を騙してまで、必要だったのか?! おとぼけは無しだ!」
 もし、普通の人がリッチェルに向かって同じ論理を展開したら、一蹴されたことだろう。だが、ソウマの正義はリッチェルに激しいプレッシャーを掛けていた。
「2回目の襲撃事件は、俺ですら疑問に思ったんだ。下手に隠しても、誰かが真相に迫ろうとするのは、蒼雪祭の時に判ったはずだよ。他の人だって感づいているだろう?」
 さらに、アトリーズがそんな援護攻撃をリッチェルに放つ。援護を受け、ソウマは決め技の言葉を発した。
「そこに正義はあるんだな?! 真実を話すなら、俺は協力するぜ!」
 リッチェルはしばらく黙っていたが、こう話し始める。
「……確かに、わたくし達は芝居を打ちましたわ。ソウマの予想に、間違っている所は1つもありませんの」
 その言葉に、アトリーズは驚きを隠せない。リッチェルはソウマの方を見ながら、話を続ける。
「ただ、わたくし達が行っているのは、ソウマの言う正義なのかどうかはわかりませんわ……。今の時点では人助けだと思っていますけど」
「どういう事だ?!」
 ソウマが叫ぶと、リッチェルは真剣な表情で2人に言う。
「人一人の人生が続くかどうか……と言う話ですわ。聞くからには、貴方達にもその重さを背負って頂きますことよ」


 “炎華の奏者”グリンダは、パーティの噂が流れるとすぐに、時計塔付近でパーティの準備をしているネイの元に行った。もちろん、パーティの手伝いをすると言うのもあるのだが、彼女には1つ気になることがあったのだ。
(……今回のパーティに妙に乗り気で、暴走リエラの噂を消そうというのが見え見えなのよね……)
 噂というのは、時に故意に流されることがある。丁度、ラウラ・ア・イスファルの噂がそうであったように。
(正直、なんの目的なのかは微妙に見当が付かないんだけど、蒼雪祭の前からネイの行動はかなり怪しかったわよね……)
 グリンダはネイの今までの行動を思い返してみる。怪しいと疑い始めると、確かにネイの行動には奇妙なものが多かった。つい先程も、パーティの手伝いに来た“陽気な隠者”ラザルスと奇妙な言い争いを行っていたくらいである。
(さっきの喧嘩は、ラザルスの提案から始まったのよね……)
 グリンダはさっき自分の目の前で起こった言い争いを思い出す。

「ネイ君。ちょっと良いかの? 提案があるんじゃが」
 ラザルスは、今回のパーティの責任者であるネイに、こんな提案をした。
「今回のパーティは、年の終わりと始めに誕生日が来る者をまとめて祝う、合同誕生会にせぬか?」
 その時、パーティの手伝いに来ていた者は、ネイの答えをこう予想していた。
『それは面白そうですね。人が多ければ、賑やかになるでしょう。早速、手配しましょう』
 だが、実際のネイの答えは違っていた。
「……お断りします。今回のパーティは、合同誕生会では意味がないのです」
 もちろん、ラザルスはその答えに納得は出来なかった。
「何故じゃ?! 年越し会も兼ねるのじゃから、レダ君1人だけ祝うのは変な話じゃろう」
 しかし、ネイは一歩も引かない。
「レダ1人だけ祝う事の、どこがおかしいのですか?! むしろ、レダの誕生会に他の人の誕生日も一緒に祝おうと思うのがおかしいでしょう。このパーティは、最初にレダが発案したのですよ? あくまで、この誕生会の主役はレダなのです」
 その後、ネイとラザルスはしばらく言い争っていたが、ネイは一歩も引かなかった。
「私は合同誕生会には反対です。他の人の誕生日をわざわざ調べて祝う気は、今の私にはありません。勝手に祝うのは構いませんが、レダの誕生会の邪魔はしないで下さい」
 そう言って、最後までネイはこの提案に反対したという。

(ネイは妙にレダにこだわっている……。でも……ネイが悪いことをしているとも思えないし……)
 だから、はっきりさせようとグリンダは考えた。それにはネイに聞くのが一番であろう。グリンダは、パーティの手伝いの合間を縫ってネイに色々尋ねるつもりだった。
 だが、グリンダがネイに話す機会は、意外な形で訪れた。
「ネイさん。ちょっと、お話を伺いたいのですが」
 それは“春の魔女”織原 優真と“真白の闇姫”連理であった。
「なんでしょう?」
 ネイが作業の手を止めて話を聞くと、優真は単刀直入にこう尋ねた。
「暴走リエラの噂をかき消すみたいに、パーティの噂を広げているネイさんの行動を見ていると、あのリエラを捕まえて欲しくないんじゃないかって気がするんです」
 驚いたのはグリンダである。流石に、グリンダはここまで直接的にネイに尋ねることは出来なかっただろう。
「事情は分かりませんけど、お話を聞いてみて、もしも捕まえない方がその子にとって良いことなら、捕まえようと言う人達を止めたいと思います」
 優真がそう訴えると、連理も助け船を出す。
「もし、優真の考えがあっておるのなら、お主は暴走リエラの正体を知っておろう。ならば、そのリエラに関係するような物を借りて予知をすれば、どの辺りに出てくるかの予想は付く」
 すると、ネイは首を振った。
「実際にそうだったとして……ここでそうですかって言って、話せると思いますか?」
「でも、何か心配事があるなら、友達にちょっとぐらい言ってくれても良いじゃない」
 それは、グリンダだった。
「ちゃんと話してくれれば、友達として手伝うわ」
「ですが……」
 ネイが言葉を濁すと、グリンダはネイの肩に手を載せながら、こう畳み掛ける。
「……話せないなら、せめて『みんなにとって悪い事かどうか』は教えて。もし悪い事じゃないなら、それ以上は詮索しないで協力できるところはするから」
 グリンダの言葉に、ネイは黙ってしまった。他の者も何も言えず、沈黙が流れる。だが、その沈黙に一番早く負けたのはネイだった。かすかに震える声でこう呟く。
「……駄目ですね。私、この仕事には向いていないみたいです……。仕事で友情を失いたくないって思ってしまうなんて……」
「どういう事?」
 グリンダが尋ねると、ネイは話し始める前に念を押した。。
「私の詳しいことは、また後ほど話します。先に質問に答えますが、これから話すことは、慎重に取り扱って下さい。扱い方によっては、全てが水泡に帰してしまいます」
 頷くグリンダ達を確認し、ネイは小声でこう告げた。
「これは、現段階では推測の域を出ませんが、あの暴走リエラを捕まえると、その子の運命はきっとそこで決定してしまうでしょう。私達がその子の運命を、勝手に決めるわけにはいかないと思いませんか?」
 いきなりそう聞かれて、グリンダは面食らう。
「……全然判らないんだけど……」
「では、掻い摘んで説明します。向こうへ行きましょう」
 ネイはそう言うと、物陰へと3人を連れて行った。

 そんなネイ達の様子を、姿を消して見ていた者がいた。“闇司祭”アベルである。
(金色リエラの噂を、パーティで上書きか。明らかな情報操作だな。この手腕は正規の訓練を受けているとしか思えなかったが、やはり帝国機関の者か)
 アベルがそう思いながら話の続きを聞いていると、別の物陰から話を聞いている人影が目に入った。“黒い学生”ガッツである。ただ、ガッツはアベルと違い、普通に姿を隠してネイを見張っているだけである。
(邪魔されるとやっかいだな……。気をつけておくか)
 そうこうしているうちに、ネイの話は核心に入っていった。
「彼女は……正確にはリエラではありません」


 ネイがグリンダや優真達に暴走リエラの正体を話していた頃、リッチェルもアトリーズとソウマに暴走リエラの正体を話していた。
「……そう言うことがあり得るのか?!」
「さすがに……にわかには信じがたい話じゃの……」
 2人の話を聞いた者は、一様にそう口にする。
「でも、彼女は実際にそういう存在だと、確信していますわ……」
「あらゆる状況が、彼女がそうなのだと告げているのです」
 2人がそうまとめると、ネイやリッチェルに話を聞きに来た者達は納得して帰っていった。
(……これが真実か……。興味深い話だが、どうしたものか……)
 話を全て聞いたアベルも、その真実の扱いに思案する。それは、離れていた所で話を聞いていたガッツも同じようだった。
「……これって、妨害に値する話なのか……?」
 そう呟くガッツ。どうやら、彼はネイの持っていた理由によっては、リエラ対策班の妨害を考えていたようだ。しばらく考えていたが彼は心を決めたらしく、ネイの見張りをやめてそこを去っていく。アベルも、これ以上の長居は無用と判断し、その場を離れることにした。


■捕り物■
 夜。準備の出来たリエラ対策班は暴走リエラを捕獲すべく、微風通りに向かった。ボイドのアイディアである『壁にトリモチ』は、“鍛冶職人”サワノバの強い意見もあり、リムの協力を得て夢工房の壁に仕掛けられることとなる。また、コタンクル・忍火丸やユリシアの仕掛けも、夢工房を中心に仕掛けられることになった。
 また、暴走リエラを追撃する為にレダとアルファントゥの他に、“桜花剣士”ファローゼとそのリエラ『八光』も一緒に向かうこととなっていた。
「今回の暴走リエラは、随分と速度が速いようですね。頑張って下さい。八光さん」
 気合いを入れて八光にそう話しかけるファローゼ。

 ランドは辺りを警戒していた。彼はこういう予想を立てていたのだ。
(何となくだが……妨害がありそうな気がする)
 そこで、ランドは目的の場所に着いた時、周辺を探索した。彼の予想は当たり、程なく、優真と連理が見つかる。
「何をしている?」
 念のためランドが尋ねると、優真は早いなと思いつつもこう訴えた。
「お願いです。暴走リエラを今捕まえるのは待って下さい」
「今? じゃ、いつなら良いんだ?」
 ランドが尋ねると、優真は一瞬躊躇しながらもこう答える。
「……せめて、パーティの次の日までは」
 だが、残念なことにその訴えは退けられた。
「悪いけど、こっちも動き始めた以上は、一刻も早く事件を解決する必要があるの。被害が出ている以上、それ以上被害を拡大させるわけにはいかないのよ」
 マリーの言葉に、優真達はその場での説得を諦めるしかなかった。後は、リエラが実際に出た時に、身をもって立ちはだかるしかないと思い、2人はその場から身を引く。
(妨害がこれだけとは思えないな。警戒しておくか……)
 やりとりを見ていたランドがそう考えていた時、リエラ対策班に別の問題が発生した。
「ねむ〜い〜……」
 それはレダの声だった。頑張って待機をしていたのだが、どうやら眠気で自分の身体を支えきれないのか、アルファントゥの上にもたれ込む。
「どうする? このままだと、戦力として期待出来なさそうなんだけど」
 マリーがはっきり言うと、沈黙がリエラ対策班の中に広がった。普段の状態なら、アルファントゥに頼んでレダを家に送ってもらうだろう。だが、今のレダもしくはアルファントゥは、暴走リエラと関わりを持っているかも知れないのだ。目を離した隙に暴走リエラになってしまったらどうするのか……。
 と、そこで意見を述べたのはセバスチャンだった。
「今夜は、家にお帰り頂くのが良いと思います」
 驚いたのは、レダに幾ばくかの疑いを抱いていた他の面々である。だが、セバスチャンは彼らをこう説得した。
「もし、金のリエラの正体がレダ様やアルファントゥ様なら、確実に遭遇する機会はあります。年越しパーティですよ」
 つまり、もしレダなりアルファントゥなりが暴走リエラなら、深夜まで確実に他の人と一緒にいるであろう。その時に対処するのが良いのではないかと、セバスチャンは主張したのだ。
「時間があれば、何か対策も見つかるかも知れません。レダ様は、今夜はこのまま家でお休み頂くのが良いと思います」
 他の者は、セバスチャンのこの意見に反対しなかった。そこで、セバスチャンが代表して、アルファントゥにレダを連れ帰ってもらうように告げる。アルファントゥは頷いて、レダを背中に乗せたまま帰っていった。


 夜は更けていく。街が寝静まり、今夜は来ないかもと思ったその時、エドウィンの感覚に何かが引っ掛かった。
「来るっ! そこだっ!」
 思わず叫ぶエドウィン。その次の瞬間、闇夜に金色の影が浮かび上がる。
「暴走リエラよ!」
 マリーの言葉で、対策班は動き出す。リエラはその間に、ものすごい速さで道を駆け抜けていった。
「……あの速さじゃ、交信は無理そうですね……」
 交信を試みるべく交信レベルを上げようとしていた“静なる護り手”リュートは、あっという間に駆け抜けていったリエラの後ろ姿を見送るしかなかった。

 金色のリエラは疾走する。その様子を影から見ていた者が1人。対策班の者ではない。
「来たよ。ヴェノム」
 彼女は“小さき暗黒”アミュ。暴走リエラが取り返しのない事件を起こす前に捕まえようと、単独で待ち伏せしていた。
 もちろん、ただ待ち伏せしていたわけではない。道には画鋲をまき、驚かせる為の爆竹を用意していた。
「それっ!」
 アミュが爆竹を放り投げる。すると、リエラはそれを避けようとジャンプする。ここまでは全て、アミュの計画通りだった。
 ジャンプしたリエラを上空で待ちかまえていたのは、フック付きロープを張り巡らせたトラップだった。リエラが驚異的な身体能力を持っているとは言え、飛行能力は報告されていない。ならば、ロープを幾重にも張っておけば、ジャンプ後の動きを妨害出来る。それがアミュの計画であった。動きが鈍った後で、彼女のリエラ『ヴェノム』の能力を使って、空間操作でリエラの背後に転移し、捕捉する。
 計画では、上手くいくはずだった……。計画では。
「勘違いかもしれんけど、強引なのは良くないってわかってるんや」
 突然、アミュの背後に人影が現れ、手刀でアミュの集中を妨げる。これでは、ヴェノムを呼び出すことが出来ない。
 その間に、空中でロープに行く手を阻まれていたリエラは、驚くべき方法でその罠から脱出をしていた。
「……あれは……やっぱりそうなんや……」
 何と、リエラは自らの髪の毛を鋭利な刃物と化して、ロープを切り裂いたのだ。
 アミュの背後に現れた人影……ラックは、その能力を見て自分の予想が当たっていたことを悟った。
(でも……ボクにとったら、どんな姿してても……)

 罠から脱出したリエラは、微風通りを更に疾走する。そこへ、今度はノイマンが立ちはだかった。
「目を覚ませ! お前はここで何をやっている!」
 ノイマンがそう呼びかけると、リエラは一瞬動きを止めた。その隙を見逃さず、ノイマンは自らの拳でリエラへと殴りかかる。しかし、リエラはその攻撃を易々とかわすと、更に先へ進んだ。
「ここからは、私の勝負です!」
 八光に乗ったファローゼが、リエラを追撃せんと路地から飛び出す。
「私達の追走を邪魔する奴は、悪です! 悪!」
 ファローゼはそう叫びながら、リエラをひたすら追った。だが、その距離は一向に縮まらない。
「くっ……スピードは互角ですね。ならば、あの角で!」
 状況から、リエラは明らかに夢工房への道のりをたどっていた。ならば、リエラの通る道筋は自ずと限られてくる。ファローゼは、次の曲がり角でリエラがスピードを落とした時に、一気に距離を縮める作戦に出た。
 だが、次の瞬間、リエラは更に驚くべき行動に出た。
「そんなっ! 跳んだ?!」
 何と、スピードを全く落とさずに、リエラは壁に向かって低空ジャンプし、壁を蹴ることで方向転換したのだ。逆に、スピードを落としきれなかった八光とファローゼは、壁に激突する。
「最速への道は……まだまだ遠いのですね……」
 既に目的がすり替わっていたファローゼは、最後にそう呟いて気絶した。

 ついに、リエラは夢工房へとたどり着いた。早速、リエラは夢工房の壁に体当たりをしようとする。だが、そこへ別の人影が姿を現した。
「逃げろ!」
 それは、ガッツだった。悩んだ結果、彼はリエラ対策班の妨害を選んだのだ。ガッツが催涙爆弾を投げ込むと、暴走リエラはそれに気づいたのか、壁に体当たりする寸前で上空へジャンプする。
「甘いの。それは予測済みなのじゃ! フニクラ!」
 だが、リエラがジャンプで逃げるのは、“探求者”ミリーの予想通りだった。リエラの着地地点を予測してそこに移動していたミリーは、リエラ『フニクラ』を展開して暴走リエラを絡め取る。
「流石に飛行までは無理だったようじゃな……。その正体、確かめさせてもらうとするぞ」
 確かな手応えを感じていたミリーは、フニクラの触手をゆっくりと開き、捕らえたリエラを確認しようとした。だが、次の瞬間、ミリーは驚きの声を上げる。
「おぬし、何をやっておるのじゃ?!」
 触手の中にいたのは、身体を張って触手が暴走リエラに絡みつくのを阻止していた、鎧型のリエラ……ソウマだった。ソウマは先程暴走リエラがジャンプした時、身を挺して守る為に一緒にそこへ飛び込んだのだ。
「こいつを今捕まらせるわけにはいかないんだ! 正義の名の下に、俺はこいつを助ける!」
 ソウマに抱きしめられていた暴走リエラは、再びジャンプして夜の路地裏へと消えていった。そこに姿を見せた優真と連理はソウマを助けながら、改めて暴走リエラの捕獲を待ってもらうように訴える。
「お願いします!」
 優真の言葉に、マリーはこう言わざるを得なかった。
「このままリエラ捕獲を続けようとする限り、邪魔は入るんだね?」
「……入ると思って頂いて構いませんわ」
 マリーの問いに答えたのは、リッチェルだった。
「理由は説明してくれないんだね?」
「時が来たら説明致しますが、今はご容赦下さいな」
 それを聞いたマリーは、憮然としながらもこう宣告する。
「暴走リエラが次の被害を出すまで、リエラ対策班は暴走リエラの捕獲行動を中止。キミ達があのリエラを捕獲されたくなかったら、とにかく被害を出さないようにして」

 こうして、リエラ捕獲作戦はこの夜をもって一時中止となった。
 そして、不思議なことに、この夜を最後に暴走リエラの活動も見られなくなった。


■最後の夜に向けて■
 リエラ対策班の活動が開店休業状態になり、街の話題はパーティ一色となっていた。その影響か、手持ちぶさたなマリーの元にもパーティ関連の相談が持ち込まれる。
「マリー。お願いがあるんだけど」
 そう言うのは、“眠気覚ましに”まどか。マリーは最初こそ気のない返事をしたが、まどかの提案を聞くと、まさに眠気が覚めたかのようにまどかの手を取ったという。
「すっごい良いアイディア! 早速取りかかるわ!」
 マリーの目を覚まさせた提案とは、こんなものだった。
「時計塔の時計って、セグ単位でのカウントダウンは出来ないわ。だから、球技大会の時に使った『EXカウンター』を改造して、セグ単位でのカウントが出来るようにして欲しいの」
 その提案を聞いて早速部屋に籠もろうと思ったマリーを、サワノバが呼び止める。
「嬢ちゃん。ちょっと良いかの」
「何? 急いで作業に掛かりたいから、出来れば手短にね」
 マリーの言葉に、サワノバは用件を述べた。
「パーティを盛り上げる為に、ランカーク砲を使って花火を上げたいんじゃ。何とかならんかの?」
 すると、マリーは首を振って、机の上にあった紙を取った。
「セラちゃんから、こんな注意が来ているのよ」
 その紙には、“風曲の紡ぎ手”セラの字で「パーティは深夜に行われます。ご近所の迷惑になるので、火薬や危険物を安易に使うのはやめましょう」との注意書きが書かれていた。
「そんなわけで、ランカーク砲は貸せないのよ。ゴメンね」
 マリーはそう言うと、奥の部屋に籠もっていった。
「それじゃ、私は作業に入るから〜」

 ルビィは、以前に話していたように、パーティの準備で忙しそうに動いているネイの元に来ていた。
「何でしょう?」
 話しかけられたネイがルビィの方を見ると、ルビィは問答無用でネイにデコピンを喰らわせる。
「痛い! 何するんですか!」
「それはこっちの言葉だ。前回の騒ぎは自作自演だったって、アベルから聞いてるぜ?」
 ネイがその言葉を否定出来なかったのを見て、ルビィは笑顔のまま更にこう脅迫する。
「素直な良い子は、2度と俺様達を騙したりしないよな?」
「……善処しましょう」
 ネイは苦笑いしながらそう返すと、反対にルビィに尋ねた。
「まさか、用事はこれだけですか?」
「そんなわけないだろ。パーティ会場が折角時計塔広場なんだから、雪を使って石像を作らないか?」
 ルビィは雪像でパーティ会場を飾ろうと提案したのだ。
「面白そうですね。お願いしても良いですか?」
 ネイが尋ねると、ルビィは笑顔のままこう言う。
「ネイが素直にしているならな」


 ラザルスは、合同誕生会に関して「勝手に祝うのは構わない」と言われていたので、その言葉を信じて、パーティの警備として動いていた。彼には彼なりに、パーティに参加する理由があったのだ。それは、レダの為でもネイの為でもない。
(全く、あの2人は……)
 あの2人とは、エグザスとシルフィスである。シルフィスはパーティに全面的な協力をすると言っていたので、ラザルスもパーティの手伝いを続ける。
 いざ、警備の計画をと思ったラザルスは、あることに気づいた。
(念のため、双樹会の許可を取らないといけないかの)
 早速、ラザルスはマイヤの所に出向く。が、マイヤの部屋の入り口に奇妙な飾りが置いてあるのを見て、ラザルスは思わずこう尋ねた。
「……入り口に置いてあるあれは、何じゃの?」
 それに答えたのは、マイヤの側にいた“深藍の冬凪”柊 細雪であった。
「それは、拙者の故郷楼国にて新年を迎える為の縁起物、『門松』にて候」
「では、おぬしの格好はいったい何じゃ?」
 怪訝そうな顔で細雪に尋ねるラザルス。
「これは、楼国の年越し行事、『なまはげ』にて候。楼国では年越しのおりになまはげが『悪ぃ子は居ねが〜』と叫び……」
 細雪はそう言いながら、手に持った包丁を振り回す。すると、黙ってその様子を見ていたマイヤが、流石にこう水を差した。
「包丁を振り回すのは危険ですね。楼国の年越し行事かも知れませんが、危ないのでその格好はやめてもらえますか?」
 マイヤの言葉に、細雪は仕方なくなまはげの衣装を脱ぎ始める。
「ところで、用事は何でしょうか?」
 唖然としているラザルスにマイヤが尋ねると、ようやくラザルスは本題であるパーティ警備について相談した。その結果。
「それで良いでしょう。私はパーティには行きませんが、何かありましたら報告をお願いします」
 ラザルスは許可が取れたので、挨拶をして会長の部屋を後にする。それを見送りながら、マイヤはこう言った。
「細雪君も、先程の格好でなければパーティに出ても良いと思いますよ」
 細雪はその言葉に黙って頭を垂れた。


 “冒険BOY”テムは、ラザルスが提案していた合同誕生会に参加したいと考えていた。彼の誕生日もまた、銀嶺聖碑であったのだ。
 だが、結局のところ、ラザルスの計画はうやむやのまま進んでいた。テム自身も参加するかどうかうやむやな状態のまま、パーティの手伝いを続ける。
 今は、パーティに寮の椅子などを使えないかどうか、アルフレッド寮長へと確認を取りに来ていた所だった。しかし、寮長はエドウィンやセラと話していたので、テムは終わるまで待つことにする。
 寮長はそんなテムの様子をちらとみながら、エドウィンとの話を続ける。
「……で、レダの母親と言うか、師匠って言うのはどんな人だったんだ?」
 エドウィンは寮長にそう尋ねた。彼は、暴走リエラとレダの関係について、更に調べていたのだ。
「どんな人か……と言うのは少し難しい質問だな。聡明で誇り高く、誰にでも優しい方だったと言うのが適切だろうか……と。そうだ」
 そこまで話した寮長は、自分の机に向かう。引き出しを開けて暫く何かを捜していたが、程なく一枚の紙を取り出した。
「写真があれば良かったのだが、こういうのしか見つからなくてね」
 それは、肖像画だった。絵の中の女性は森の中でしゃがみ込み、黒狼の頭を撫でている。と、テムの後ろから“旋律の”プラチナムが姿を見せ、こう言った。
「その絵を貸して欲しいのですが」
「構わないが、何の為かな?」
 寮長の問いに、プラチナムは自分の考えを説明し始めた。
「今回の暴走リエラの正体は、レダとアルファントゥが融合し、リエラ化したものであると考えられるからです。そして、解決策としてレダの失われた記憶を取り戻すことが重要と考えたからです」
「ふむ……。レダ君とアルファントゥが融合していると考える理由は?」
 寮長の問いで、プラチナムは話を続ける。
「最近のレダには不審な点が多すぎます。3日ほど食事をしなくても元気でしたし、飛行機械の事故でも怪我一つありませんでした。そもそも、飛行機械に乗る直前のレダの体重が5エルスと言うのは、どう考えても異常です」
 だが、寮長はそれはおかしいと指摘した。
「飛行機械の話は私も聞いたが、事故が起きた時には、アルファントゥは地上にいたのではないのかな? それに、レダ君の体重を量った時にも、アルファントゥは別の所にいたと聞いているよ。君の言い分なら、レダ君はアルファントゥと融合していなくても、不審な点があるのではないかな」
「そうかもしれません。何にしろ、レダは既に人としての状態ではなくなってきているのでしょう。だから、レダの状態を安定させる為に、記憶を取り戻させようと思います。そこで、その絵が必要なのです。エルリントの姿を幻覚でレダに見せたいのです」
 状況を聞いた寮長は、突拍子もない話だと思いながらも、絵を貸すことに関しては了承した。それを聞いたプラチナムは、最後にこう話をまとめた。
「出来れば、寮長もパーティに参加して欲しいのですが。ティベロンの姿も、レダの記憶を取り戻すのに必要だと思います」
 すると、それを聞いていたセラが、少し顔を赤らめながらこう告げる。
「……個人的にですが、私からもアルフレッド様には、パーティにご参加下さいますようにお願いしますわ」
 それを聞いた寮長は、こう答えた
「参加することにしよう。ただ、ティベロンを出すかどうかは、少し考えさせて欲しい」
 寮長の言葉に、プラチナムは礼を述べて去っていく。エドウィンとセラも目的は果たしたので、プラチナムの後に続いて部屋から出て行った。それを見送った後、ようやく自分の番になったテムが寮長に尋ねる。
「寮の椅子やテーブルを、パーティに貸して貰えないかな?」
「ああ。それ位なら構わないよ」
 あっさり了承が貰えたので、テムも礼を言って部屋から出て行った。部屋に残った寮長は、漠然とした不安を感じながら、外での作業準備を始める。


 そして、パーティの当日。
 “水の月を詠う者”セシアは喫茶『鳩時計』の部室で、部長の許可を得て料理と格闘していた。
(パーティ……多分、大勢の方が来られるのでしょうね。料理が大量に必要になりそうです。それに、レダの誕生日もあるのですし、バースデーケーキも作りましょう)
 そう考えていたセシアは、孤軍奮闘を繰り広げていた。だが、1人では出来る料理の量にも限界がある。
(この調子ですと、レダへのお祝いのケーキは無理でしょうか……)
 セシアがそう思いかけた時、部室の扉からノックの音が響く。
「どなたですか?」
 そう思いながら扉を開けると、そこには“待宵姫”シェラザードとセラス、そして優真の姿があった。
「パーティの料理を作りたいってネイに言ったら、ここに行くように指示を受けたんだけど?」
 シェラが言うと、セラスも腕をまくりながらこう言う。
「鶏の唐揚げとか、クッキーとか、簡単につまめるものも欲しいよね」
 そして、3人は早速料理に掛かる。セシアはそれに感謝しながら、ケーキ作りに取りかかることにした。

 会場となる時計塔広場でもパーティの準備は滞りなく進み、あとは本番を迎えるのみとなっていた。辺りはすっかり暗くなっており、まどかは雪像が建ち並ぶ会場に、照明として簡易ガス灯を設置していく。
 と、そこへマリーがやってきた。その後ろでは、まどかからの依頼で改造した『EXクロック』が、エドウィンとクレイの手によって運ばれていた。
「お待たせ〜。完成したわよ。ただ、結構燃料を食うから、動かすのはパーティ開始の5点鐘が鳴るのと同時と言うことで」
 マリーが説明していると、そこへ“白衣の悪魔”カズヤと“福音の姫巫女”神音がやってくる。2人は、今回のパーティの司会を買って出ていた。
「お。これか? セグ単位でカウントダウン出来る時計ってのは」
 カズヤが尋ねると、マリーが頷く。
「数字は左から順番にザーン・エスト・セグってなっているわ。だから、カウントダウンする時は、右端でパタパタめくれていく数字を見て」
「OK。任せとけって。じゃ、神音、向こうで最後の打ち合わせだ」
 カズヤの言葉に神音は頷くが、その表情は少し不安げだ。
「どうした?」
 カズヤが尋ねると、神音はこう呟く。
「ボクが横にいてもいいの……? ボク、無理は言わないよ。誰かの所に行くなら……」
 すると、カズヤはそんな神音の額を小突いた。
「俺が、司会は神音と2人でやるって決めたんだ。しっかりやろうぜ?」
 神音はその言葉に頷いた。そして、自らを奮い立たせるべく、拳を上げて叫ぶ。
「よし、張り切っていこ〜!」
 すると、まるでその言葉に応えるかのように、時計塔が5点鐘を鳴らす。
「って、もう時間じゃねぇか。行こうぜ」
 カズヤがそう言って、神音と一緒に司会用の台まで移動する。


■カウントダウン■
「みんな元気か?! パーティの司会は俺、カズヤと神音が担当するからな! よろしく頼むぜ! 今夜はみんなで楽しもうぜ!!」
 カズヤの司会で、ついにパーティが始まった。歓声の中、カズヤは参加者を宥めると、時計塔の方を向く。
「本日のメインゲスト! レダの登場だ! みんな、レダコールしっかり頼むぜ!」
 そう言うと、カズヤは時計塔に向かってレダの名を呼んだ。すると、アルファントゥに乗って、レダが姿を見せる。
「みんな〜。やっほ〜」
 手を振りながらお馴染みの挨拶で登場したレダに、カズヤが話しかけた。
「レダ。今の気分はどうだ? みんなお前を祝う為に集まってくれたんだぜ?」
「うん。みんな、ありがと〜!」
 レダは満面の笑みで、改めてみんなに向かって手を振る。

 レダの登場後、パーティはしばらく歓談の時間となっていた。その間、セラやリュート、“演奏家”エリオなどが交代でBGMを奏でている。
「……やはり、酒は旨いの」
 連理は折角のパーティだからと、酒を飲んでいた。アルメイスは、実は学校の購買でも年齢制限無く何種類か酒類を売っている。ましてや、今夜はパーティである。13歳の連理が米酒を飲んでいても、とがめる者はいなかった。
 優真はそんな連理の様子を見ながら、これからの事を考えていた。
(結局、暴走リエラの件はこのパーティの後、ですね……)
 ネイから暴走リエラの正体を聞いたあと、連理は念のためリエラに関して予知をしていた。だが、その結果は、「暴走リエラは時計塔広場に姿を現す」と言うものだけだった。
(いったい、どうなるのでしょう……)

 ラザルスに呼ばれてここに来ていたエグザスとシルフィスも、酒を酌み交わしていた。
「来年も一緒に飲むのじゃ」
 そう言って、ラザルスはこの日の為に用意した極上のヴィネを、2人のグラスへと注ぐ。エグザスとシルフィスは、注がれたヴィネを黙って飲みはじめた。
(全く、おぬし達は……わしの目は誤魔化せんのじゃよ)
 ラザルスはそう思いながら、自らのグラスにもヴィネを注ぐ。
(己の信念の為に命を懸ける気でいるようじゃな……。愚か者めが)
 そうは思っていたが、ラザルスはその言葉を口にはしなかった。
(それにしても、シルフィスは何を見ているのじゃ?)
 ふと、ラザルスがシルフィスの視線の先に気づいて、そんな疑問を抱く。シルフィスの視線は、ずっとレダに向けられていたのだ。
(レダの事が私の予想通りだと……。暴走する原因がわかりそうね)
 シルフィスは己の信念の為、暴走リエラ事件を解決するつもりだった。
(「せめて、パーティの次の日まで」と優真は言っていたわ。このパーティで何か起こるかも知れない)
 シルフィスはそんな思いで、レダを見つめる。

「大丈夫か? 寒ぅないか? ラジェッタちゃん」
 ルオーはラジェッタの身を案じながら、エイムと酒を飲んでいた。いや、実際の所、エイムは殆ど酒には口を付けていない。ルオーが1人で飲んでいるようなものだった。
 その横では、スルーティアが食事をがんがんと平らげていく。
「食べる時に食べるのが隠密!」
 もちろん、2人ともラジェッタに何かあったら、身をもって守るつもりだった。
「早よプレゼントタイムにならんかなぁ……。な、ラジェッタちゃん」
「うん……」
 そう言うラジェッタは、少し眠そうだった。と、そこへカズヤの声が響く。
「よーし、みんな! 年が明けるまであと3エストになったぜ! プレゼントの用意はいいか?!」
 その言葉に、待ってましたと参加者達は準備を始める。その間にも、EXクロックは時を刻み続けた。カズヤはそこへ移動し、司会を続ける。
「この時計を注目してくれ! さぁ! カウントダウンの始まりだ! 鐘が鳴っている間に、プレゼントを渡すんだぜ?」
 パタパタと変わっていくセグの数字を見て、カズヤと神音がカウントダウンを始めた。
「10! 9! 8!」
 それに合わせて、参加者達も一緒にカウントダウンを続ける。
「7! 6! 5!」
 レダも、アルファントゥに乗ったまま、みんなの声に合わせてカウントダウンをしていた。
「4! 3! 2! 1!」
 そして、セグの数字が0を指す。
「0! あけましておめでとう!!」
 その言葉と同時に、時計塔が6点鐘を打ち鳴らす。これが年越しの鐘なのだ。早速、参加者達はプレゼントを、想いを込めて渡した。
「いつもご苦労さん。頼りにしてるよ」
「ぷ、ぷ、プレ、プレ……」
「安物だけど、これでみんな幸せにね★」
「若い者は身体を鍛えんとの」
「俺からのプレゼントだ。ちょっと目を閉じてくれ」
 様々な歓声の上がる中、まどかが会場の明かりを消す。
「な、何だ?!」
 すると、“お気楽翻弄”ケイが言った。
「みんな、空を見て!」
 ケイの言葉に、参加者達は空を見上げる。すると、夜空に流星が滑っていくのがはっきりと見えた。
「あー! 流れ星〜!」
 レダが思わず天に向かって指をさす。

 その様子を上から見ていたキックスは、慌てて望遠鏡の所へと向かう。
「まさか、今日流星群が来るなんて……」
 だが、望遠鏡を覗いたキックスは、すぐに望遠鏡の元から戻ってくる。
「どうしたん?」
 キーウィが尋ねると、キックスはいつものぶっきらぼうな口調で言った。
「……あれは多分幻だ。あの位置から流星群が来るなんて聞いたことがない」
 確かに、この流星は“三色”アデルの見せた幻覚だった。
「きっと、誰かの贈り物なんよ」
 キーウィはそう言うと、ようやく編み上がった淡い赤の手袋をキックスに渡した。
「はい。これ」


■記憶■
 流星が流れ終わったのをみて、まどかが明かりを再び灯す。それをみて、カズヤは司会を続けた。
「ハプニングもあったけど、みんな! 今年も最高の年にしようぜ!」
 その言葉に、拍手と歓声が巻き起こる。
「それじゃ、引き続いて誕生パーティだ!」
 カズヤの声を待ちきれなかったかの様に、レダの所へ向かう生徒達。改めて、プレゼントを渡そうと、レダの前に並ぶ。なにしろ、先程のプレゼントタイムでは、短すぎる上に人が多すぎて、プレゼントが渡せなかった者も多かったのだ。
「幸運のペンダントや。これで今年もいい年間違い無しや!」
「はい。プレゼントが持ちきれなくなったら、このリュックに入れて」
 次々に渡されるプレゼント。次は、アルスキールの番である。
「レダ。誕生日おめでとうございます」
 そう言って彼が渡したのは、アルファントゥのぬいぐるみだった。
「うわ〜! アル〜。ほら、アルだよ〜」
 レダはアルファントゥにそのぬいぐるみを見せるが、ふとそのぬいぐるみに添えられた紅い宝石を見つける。
「これ、な〜に?」
「銀嶺の月の誕生石、『ガーネットの夕日』ですよ。指輪を少し細工して、ペンダント風にしてみました」
「きれいだね〜。ありがと〜!」
 レダは笑顔でそう言うと、アルファントゥの背中にそのぬいぐるみをちょこんと乗せた。
「うわ〜。めっちゃかわいい〜」
 そう言いながら、次に待っていたラックがレダの前に立つ。と、レダはラックより先にこう言ってきた。
「あ、待ってたよ〜。リムから聞いちゃったんだ〜」
 それを聞いたラックは、待たせるのも悪いと、早速プレゼントを渡す。
「誕生日、おめでとうや。レダ」
 そのプレゼントはもちろん、夢工房で手に入れたオルゴールである。
「鳴らしてみてもいい?」
「ええよ〜」
 ラックの言葉に、レダは早速ネジを巻き、蓋を開ける。すると、オルゴールは静かにメロディを奏で始めた。
「……綺麗な音やね……」
「うん……。それに……なんだか……なつかしい……」
 そう言うと、レダは暫くオルゴールの音に耳を傾けていた。良い雰囲気だったので、次に待っていたプラチナムは、オルゴールのメロディが流れるなかで、こうレダに告げた。
「レダ。あなたへの誕生日プレゼント、良ければ受け取って頂けませんか?」
 彼はリエラ『エタニティ−=クライン』の能力で、寮長から見せて貰ったエルリントの姿を、幻覚としてレダに見せる。
「これが、エルリント・ダークの姿です」
「……これが……ママ……」
 そう言うレダの顔は穏やかだった。レダは目を閉じ、アルファントゥにもたれかかる。
「アル……。ママってこんな人だったんだね……」
 レダがそう言った時、幻覚は儚く消えた。

 プレゼントを渡す列の最後にいたのは、“夢への誘人”アリシアだった。だが、彼女の手にはプレゼントは無い。
(人型に尻尾。高速移動と時計塔前広場……。間違いなぃ。暴走リエラはレダとアルファントゥだ……)
 そう考えていたアリシアは、まずレダの過去に疑問を持った。
(そもそも、レダのぉ母さんは何で死んじゃったの? その時レダは一緒に暮らしてたの? 何でその事忘れちゃってるの?)
 レダに対する疑問は尽きなかった。そして、色々調べていく内に、アリシアは一つの結論を出した。
(きっと、レダが今ぁぁぃぅ状態なのは、失われた記憶を取り戻して、レダが自分自身のことをしっかりと理解出来たら、解決出来ると思ぅ)
 そこで、アリシアは唯一の手掛かりである、寮長の言葉にあった事件を調べてみた。リットランドの森で起きたその事件……。
 そこから、アリシアはある1つの事実を突き止めた。アリシアは、その事実からレダが何を探しているのかを推理して導きだし、それをここで伝えるべく列に並んでいたのだ。
 そして、アリシアの順番が来た。アリシアは一呼吸置くと、レダにこう話し始める。
「レダ。6年前、リットランドの森で起きたことを覚えてる?」
 首を振るレダ。アリシアは話を続けた。
「ぁのね。6年前、リットランドの森で、一つの事件がぁったの。とぁるはぐれリエラが森の中に逃げ込んで、みんなで森の中を探していたら、1人の女の子と黒い狼のリエラが発見されたんだって」
「……何を言っているんですか?」
 アリシアの言葉に驚いたのは、意外にもネイだった。だが、アリシアは懸命に話を続ける。
「その女の子は、自分の名前しか覚ぇてなくて、お父さんとお母さんを探して、森をさまよってたんだって」
 そこまで聞いたネイは、思わず声を張り上げる。
「何を言っているんですか! プレゼントが無いのなら……」
 しかし、アリシアは話を止めなかった。止めてしまっては……レダの失われた記憶を取り戻す機会が無くなると思ったから。
「その女の子の名前は、レティー・ダーク。お母さんは、エルリント・ダーク。じゃ、お父さんはどぅしてるの? レダ。お母さんの事は思い出したょね。今度はお父さんの事を思ぃ出したら、自分の事もきっとわかるょ」
「リッチェル! その子を止めて! これ以上、レダに刺激を与えちゃ駄目だよ!」
 ネイが叫ぶと、リッチェルがアリシアに駆け寄る。だが、時は既に遅かった。レダはアリシアを見据え、絞り出すようにこう呟く。
「……アル……ファン……トゥ……」
 アリシアは、そんなレダの様子を見たことがあった。それは、レダが母親の名前を思い出した時のこと。
 そして、今回レダが思い出したのは……
「そうか……アルがパパなんだ……」
 レダの言葉は止まらない。
「パパはリエラ……。ボクは……人じゃない……!」
 それを聞いたネイが、思わず叫ぶ。
「駄目! レダ!」
 次の瞬間、レダの姿が崩れた。まるで、飴細工を見ているかのように、レダの姿は変わっていく。
「どうされたのですか?! レダ様!」
 この状況を、セバスチャンは予測していた。だが、それは当たって欲しくない予測だった。
(やはり、無理矢理でもマイヤ様を連れてくるべきでした……)
 セバスチャンはそう思いながら、レダへ交信を試みる。だが、交信は届かず、レダは金色のリエラへと完全に変化した。
(母親ではなくて、父親がアルファントゥでしたか……それにしても、これは予想以上です……)
 そんなことを考えていたティルの横を、暴走リエラが駆け抜けていく。その後ろには、アルファントゥの姿もあった。
「レティーは、リエラとしての道を選んだか……」
 その時、そこにいた者達はそんな声を聞いたという。
 そして、暴走リエラ……レダは闇夜に姿を消した。その後を追って、アルファントゥも闇夜へと走っていった。


 パーティ会場は騒然としていた。司会のカズヤも突然の事態に驚くばかりである。
 と、そこで司会の台に立った生徒が居た。マリーである。
「リッチェル・ララティケッシュ。全てを説明してくれる? これはどういう事なの?」
 すると、リッチェルの代わりにネイがマリーの所へ来た。
「マリー。私が話すよ」
 そう言うと、ネイはグリンダ達にしたのと同じ話を始めた。
「暴走リエラは……ううん。レダは、リエラとフューリアのハーフ。私たちもついさっきまでは推測の域を出なかったんだけど、レダの言葉ではっきりと確信できた」
「ちょっと待って。リエラとフューリアの間に、子供なんか生まれるの?」
 マリーが尋ねる。
「帝国の記録には、当然だけどそんなものは無いよ。これは、エルリントさんとアルファントゥの愛が生んだ奇跡なんだと思う」
 綺麗にまとめて語ってはいるが、これは大変なことである。フューリアとリエラの新たなる関係を示す、世紀の大発見なのだ。
「帝国機関に知れたら、大ごとになるわね。良くて研究対象、危険有りと判断されれば、全力を持って排除される」
 マリーがそう言うと、ネイが頷く。
「帝国機関は、リエラとフューリアのハーフについては、どこからか情報を手に入れてたみたい。ただ、それが具体的にどういうものなのか、そして誰がそうなのかは判らず、調査は難航してた。だから、私の所にも調査を進めるように話が来た。少しでも手掛かりが欲しかったんだよ」
「……ネイ。お前達、いったい何者なんだ?」
 ルビィが尋ねると、ネイは一呼吸置いてこう答えた。
「……帝国機関エージェントの候補生ですよ。ですが、候補生の資格はすぐに剥奪されると思います。それだけの秘密を喋ってますし、任務に失敗していますから」
 それでも、ネイは話すことを選んだ。ネイの説明は続く。
「レダの正体に疑いを持ったのは、飛行機械の実験の時。レダが普通の『人』としてはあり得ない重さまで自分の体重を落としていたと聞いた時、私の虹色の脳細胞が働いたのです」
 ネイはプラチナムが寮長に話した推理とほぼ同じ論理で、レダの正体を推測していた。
「私はリッチェルと芝居を打って、レダの身辺調査を行っていました。そこへ、金色の暴走リエラの騒ぎが起こりました。その身体的特徴がレダと重なるのを聞いて、私の推測は真実へとより近づいていったのです。レダこそが、リエラとフューリアのハーフなのだと」
「それで、ワザと噂に興味ない振りしてたってわけかよ」
 それはキックスだった。下の騒ぎを見て、慌てて降りてきたのだ。
「ゴメンね。……でも、言っても信じてくれないと思ったし、どうしてもキックスは巻き込みたくなかったから……」
 ネイはうなだれる。そこで、リッチェルが代わって説明を続ける。
「暴走リエラはレティーさんであると、わたくし達は考えていました。それは即ち、リエラとフューリアのハーフとして自分の存在のバランスを無意識に取っていたレティーさんが、リエラ寄りにシフトしてきたことを意味致します。理由は何故かは判りかねますが……」
「それは多分、精神不安定が引き金になってるんだと思うわ。己の存在が希薄になると言うべきかしら」
 シルフィスは、自分が今まで経験した事件からそう推測した。リッチェルも頷くと、説明を更に続ける。
「ここで、レティーさんが暴走リエラとして捕まってしまっては、彼女自身が自分をリエラと認識し、そちらへ完全にシフトしてしまう事でしょう。そうなれば、レティー・ダークはもう今までの彼女ではありません。ただのはぐれリエラになってしまうのです。そして、そうなった彼女の運命は1つです」
 リッチェルはそこで言葉を切る。すると、アベルがこう続けてきた。
「だから、暴走リエラの噂をパーティの噂で上書きし、パーティでレダをフューリア寄りにシフトさせようと目論んだ。だが、それは越権行為ではないのかね? ネイ」
「そうかもしれませんが、リエラとフューリアのハーフという状態を守ることは必要だと思っていました」
 ネイはアベルの言葉にそう答えると、最後に話をこうまとめた。
「ですが、結果は失敗に終わりました……。レダはフューリアである事を捨て……リエラにシフトした……。これは、私の責任です……」
 ネイはそう言うと、がっくりと膝をつく。真実を知ったマリーも、力なくこう言った。
「とにかく……明日から、リエラ対策班の活動を再開するわ……」
 そして、マリーはレダへのプレゼントを詰め込んだリュックを拾い上げる。

 パーティはここに終わりを告げた……。

参加者

“福音の姫巫女”神音 “飄然たる”ロイド
“天津風”リーヴァ “蒼盾”エドウィン
“怠惰な隠士”ジェダイト “白衣の悪魔”カズヤ
“探求者”ミリー “光炎の使い手”ノイマン
“翔ける者”アトリーズ 神楽
“静なる護り手”リュート “笑う道化”ラック
“風曲の紡ぎ手”セラ “双面姫”サラ
“ぐうたら”ナギリエッタ “闇司祭”アベル
“紫紺の騎士”エグザス “風天の”サックマン
“銀の飛跡”シルフィス “桜花剣士”ファローゼ
“黒き疾風の”ウォルガ “水の月を詠う者”セシア
“自称天才”ルビィ “待宵姫”シェラザード
“鍛冶職人”サワノバ “幼き魔女”アナスタシア
“六翼の”セラス “闇の輝星”ジーク
“銀晶”ランド “深緑の泉”円
“餽餓者”クロウ “闘う執事”セバスチャン
ユリシア=コールハート “熱血策士”コタンクル
“抗う者”アルスキール “眠気覚ましに”まどか
“陽気な隠者”ラザルス “蒼空の黔鎧”ソウマ
“炎華の奏者”グリンダ “拙き風使い”風見来生
“緑の涼風”シーナ “爆裂忍者”忍火丸
“貧乏学生”エンゲルス “猫忍”スルーティア
“のんびりや”キーウィ “深藍の冬凪”柊 細雪
“旋律の”プラチナム “轟轟たる爆轟”ルオー
“影使い”ティル “憂鬱な策士”フィリップ
“黒い学生”ガッツ “不完全な心”クレイ
“三色”アデル “夢の中の姫”アリシア
“春の魔女”織原 優真 “冒険BOY”テム
“小さき暗黒”アミュ “真白の闇姫”連理
“演奏家”エリオ “修羅の魔王”ボイド
“お気楽翻弄”ケイ “CreepingThing”宮凪