アルメイスの学園生活の思い出に上げられる様々な行事。 その中でも、修学旅行と並んでメインイベントに挙げられる、ある祭り。
それは、蒼雪の月に行われるので『蒼雪祭』と呼ばれていた。
「今年の蒼雪祭の予定が発表されたぞ!」 生徒達の間を噂が駆け抜け、通達の張り出された掲示板に人が集まる。彼らの視線の先にある張り紙には、こう書かれていた。
・蒼雪祭は普段の学習の成果を発表する場である。生徒としての本分をわきまえ、行動する事。
・今年の蒼雪祭は3日間とする。 ・最初の2日間は成果発表。最終日は全ての成果発表を終えた後、後夜祭として親睦を深めるフォークダンスを行う。
・成果発表はグループもしくは生徒有志にて行う事とする。 ・成果発表で使用できる場所は、学園校舎施設全域・学園付属研究所・アリーナとする。 ・グループ発表を希望するグループは、代表者が発表の内容を双樹会に申請し、許可を得る事。内容が不適当な場合は、不許可になることもある。 ・生徒有志による発表は、双樹会側から提示するものの他に、自由発表も可。自由発表を行う有志は、代表者を選出の上グループ発表と同様に申請。許可を受ける事。 ・発表で模擬店を行う場合、売り上げは基本的に研究施設や孤児院等へ寄付するものとする。 ・双樹会からの有志発表は、演劇を予定。題目は追って発表する。
・蒼雪祭実行委員は即時募集。実行委員の中から委員長を選出する。
「生徒は全員、何らかの形で蒼雪祭を作り上げる事に関わって欲しいと願います」 双樹会会長マイヤは予定発表の最後をそう締めくくったと、通達は伝えていた。
「毎年恒例ではありますが、楽しみですねぇ」 掲示板に群がる生徒達に混じって通達を見ていたネイはそう呟くと、真っ先にキックスの所へ向かった。 「キックスキックス〜」 「やかましい! みんなが起きるだろうが!」 いつものやりとりを済ませると、珍しくキックスが先手を打って話し出す。 「先に言っとくが、蒼雪祭なら俺は忙しいからな」 「えー?!」 ネイがわざとらしく驚く。キックスはそれを見て、あきれた顔でネイに言った。 「毎年やってるだろ! 俺は天文部での発表があんだよ! ついでに言うと、今年は先輩から『お前が解説をやってみろ』って言われてるから、去年よりもっと忙しいんだよ」 天文部は、蒼雪祭にて『星空教室』という星空を解説する企画を毎年行っていた。よく、天文部部室で先輩が解説を暗記している姿が見られるのは有名である。今年はその役目をキックスが行うというのだ。心なしか、いつもは余り感情を出さないキックスも、緊張と楽しみの入り交じった顔をしてるのがわかる。 「しょうがないなぁ。語りで分からない事があったら、私に言ってよ?」 邪魔するのは流石に得策ではないと思ったネイは、素直に諦めて天文部部室を後にした。
「こんにちは〜。マリーいる〜?」 次にネイが向かったのは、蒸気研だった。ネイの呼びかけに、程なくマリーが姿を現す。 「……何? ネイ……」 だが、そう言うマリーの顔はやつれていた。目には隈が出来ている。 「ど、どうしたの? まさか、この前の……」 ネイが心配そうに尋ねると、マリーは力なく首を振る。 「違うよ〜……。この前の事件があったから、吹っ切れたの……。今は、夢に向かって頑張っているところ……」 と、そこへカマー教授が姿を見せ、話に要領を得ないマリーの代わりに説明をした。 「この子、以前から作る作るって言ってた飛行機械を、ついに作り始めたのよぉ」 飛行機械と言った瞬間、やつれていたマリーの顔が引き締まる。 「設計図を見せて貰ったけど、賭としては悪くないと思ったわ。だから、『危なくなったり問題が発生したら即中止』と言う条件で、蒸気研の研究発表の題材として、制作の許可を出したのよぉ。そしたら、張り切り過ぎちゃって、今から徹夜を始めてるの。まだ、材料も満足に揃ってないのにね」 説明を終えると、カマー教授はマリーに言った。 「マリエージュ! 少し休みなさい! 体をこわしたら元も子もないでしょ?! いくら人手が足りないからって、あなた1人で全部出来るわけないでしょう?」 マリーはその言葉に頷くと、部屋の奥に引っ込む。 「無理しちゃダメだよ〜。人手は他の人に声を掛けてみるから〜」 ネイはそう呼びかけると、蒸気研を後にした。
「うーん。みんな頑張ってるんだなぁ」 ネイは腕を組み、1人頷きながら寮に戻る。もちろん、その間にキックスやマリーの動向を噂で流す事は忘れない。 「あ、ネイだ。やっほ〜」 寮の入り口にはレダが居た。ただ、意外な事に、レダは机と椅子を持ち出し、大人しくそこにちょこんと座っている。 「何やってるの? レダ」 「うけつけ〜」 「受付って、何の?」 不思議そうに尋ねるネイに、レダは一生懸命説明を始めた。 「あのね〜。ちょっと前、アレフにあったの。アレフ、最近、いつもよりもっともっと忙しいんだって。『猫の手もかりたいくらいだよ』って言ってたから、ボクの手でもいい? ってきいたら、いいよ〜って言ったんだ。だから、ここでお手伝いをうけつけてるんだよ〜」 つまり、この時期、いつも以上に他の生徒から頼りにされる寮長の手伝いをするべく、レダはここで待ちかまえて、寮長の代わりに手伝うと言っているのだ。 「そうなの? アルファントゥ」 机の横に大人しく座っているアルファントゥにネイが尋ねると、そうだと言わんばかりにアルファントゥは小さく頷いた。 「レダも頑張ってるんだなぁ」 ネイはそう呟くと、レダの頭を撫でてその場を離れた。
「レダでさえ頑張ってるのに、私がこうしてふらふらしているのは由々しき問題ですね」 部屋でネイは腕を組み、考える。だが、そのポーズは5セグも経たずに解かれる事となった。 「考えていても仕方ありません。このネーティア・エル・ララティケッシュ。案ずるより産むが易しと悟りました」 そう思い直すと、ネイは話の種を探すべく、再び外へと向かう。
話の種はすぐに見つかった。蒼雪祭の通達に追加があったのだ。 「えーと。『双樹会の有志発表演劇は、脚本も公募とする。役者・脚本・裏方等募集』かぁ」 その時、ネイの中で何かがはじけた。 「私の橙色の脳細胞に、ピンと来ました。古今東西の話を元に斬新な脚本を書く事が、今の私に与えられた使命なのです!」 そう意気込むと、ネイは双樹会へと走っていく……前に、購買に寄った。 「『ドリーラ』1冊!」 勢いづいてティベロン札を出し、おつりと共に薄い本を1冊受け取ると、ネイはそれを抱きしめながら双樹会へと向かった。 (これを元にああしてこうして……)
こうして、2ヶ月後の夢舞台に向け、それぞれの準備は始まった。 |
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