夢舞台・蒼雪祭【1】
 アルメイスの学園生活の思い出に上げられる様々な行事。
 その中でも、修学旅行と並んでメインイベントに挙げられる、ある祭り。

 それは、蒼雪の月に行われるので『蒼雪祭』と呼ばれていた。


「今年の蒼雪祭の予定が発表されたぞ!」
 生徒達の間を噂が駆け抜け、通達の張り出された掲示板に人が集まる。彼らの視線の先にある張り紙には、こう書かれていた。


 ・蒼雪祭は普段の学習の成果を発表する場である。生徒としての本分をわきまえ、行動する事。

 ・今年の蒼雪祭は3日間とする。
 ・最初の2日間は成果発表。最終日は全ての成果発表を終えた後、後夜祭として親睦を深めるフォークダンスを行う。

 ・成果発表はグループもしくは生徒有志にて行う事とする。
 ・成果発表で使用できる場所は、学園校舎施設全域・学園付属研究所・アリーナとする。
 ・グループ発表を希望するグループは、代表者が発表の内容を双樹会に申請し、許可を得る事。内容が不適当な場合は、不許可になることもある。
 ・生徒有志による発表は、双樹会側から提示するものの他に、自由発表も可。自由発表を行う有志は、代表者を選出の上グループ発表と同様に申請。許可を受ける事。
 ・発表で模擬店を行う場合、売り上げは基本的に研究施設や孤児院等へ寄付するものとする。
 ・双樹会からの有志発表は、演劇を予定。題目は追って発表する。

 ・蒼雪祭実行委員は即時募集。実行委員の中から委員長を選出する。


「生徒は全員、何らかの形で蒼雪祭を作り上げる事に関わって欲しいと願います」
 双樹会会長マイヤは予定発表の最後をそう締めくくったと、通達は伝えていた。


「毎年恒例ではありますが、楽しみですねぇ」
 掲示板に群がる生徒達に混じって通達を見ていたネイはそう呟くと、真っ先にキックスの所へ向かった。
「キックスキックス〜」
「やかましい! みんなが起きるだろうが!」
 いつものやりとりを済ませると、珍しくキックスが先手を打って話し出す。
「先に言っとくが、蒼雪祭なら俺は忙しいからな」
「えー?!」
 ネイがわざとらしく驚く。キックスはそれを見て、あきれた顔でネイに言った。
「毎年やってるだろ! 俺は天文部での発表があんだよ! ついでに言うと、今年は先輩から『お前が解説をやってみろ』って言われてるから、去年よりもっと忙しいんだよ」
 天文部は、蒼雪祭にて『星空教室』という星空を解説する企画を毎年行っていた。よく、天文部部室で先輩が解説を暗記している姿が見られるのは有名である。今年はその役目をキックスが行うというのだ。心なしか、いつもは余り感情を出さないキックスも、緊張と楽しみの入り交じった顔をしてるのがわかる。
「しょうがないなぁ。語りで分からない事があったら、私に言ってよ?」
 邪魔するのは流石に得策ではないと思ったネイは、素直に諦めて天文部部室を後にした。


「こんにちは〜。マリーいる〜?」
 次にネイが向かったのは、蒸気研だった。ネイの呼びかけに、程なくマリーが姿を現す。
「……何? ネイ……」
 だが、そう言うマリーの顔はやつれていた。目には隈が出来ている。
「ど、どうしたの? まさか、この前の……」
 ネイが心配そうに尋ねると、マリーは力なく首を振る。
「違うよ〜……。この前の事件があったから、吹っ切れたの……。今は、夢に向かって頑張っているところ……」
 と、そこへカマー教授が姿を見せ、話に要領を得ないマリーの代わりに説明をした。
「この子、以前から作る作るって言ってた飛行機械を、ついに作り始めたのよぉ」
 飛行機械と言った瞬間、やつれていたマリーの顔が引き締まる。
「設計図を見せて貰ったけど、賭としては悪くないと思ったわ。だから、『危なくなったり問題が発生したら即中止』と言う条件で、蒸気研の研究発表の題材として、制作の許可を出したのよぉ。そしたら、張り切り過ぎちゃって、今から徹夜を始めてるの。まだ、材料も満足に揃ってないのにね」
 説明を終えると、カマー教授はマリーに言った。
「マリエージュ! 少し休みなさい! 体をこわしたら元も子もないでしょ?! いくら人手が足りないからって、あなた1人で全部出来るわけないでしょう?」
 マリーはその言葉に頷くと、部屋の奥に引っ込む。
「無理しちゃダメだよ〜。人手は他の人に声を掛けてみるから〜」
 ネイはそう呼びかけると、蒸気研を後にした。


「うーん。みんな頑張ってるんだなぁ」
 ネイは腕を組み、1人頷きながら寮に戻る。もちろん、その間にキックスやマリーの動向を噂で流す事は忘れない。
「あ、ネイだ。やっほ〜」
 寮の入り口にはレダが居た。ただ、意外な事に、レダは机と椅子を持ち出し、大人しくそこにちょこんと座っている。
「何やってるの? レダ」
「うけつけ〜」
「受付って、何の?」
 不思議そうに尋ねるネイに、レダは一生懸命説明を始めた。
「あのね〜。ちょっと前、アレフにあったの。アレフ、最近、いつもよりもっともっと忙しいんだって。『猫の手もかりたいくらいだよ』って言ってたから、ボクの手でもいい? ってきいたら、いいよ〜って言ったんだ。だから、ここでお手伝いをうけつけてるんだよ〜」
 つまり、この時期、いつも以上に他の生徒から頼りにされる寮長の手伝いをするべく、レダはここで待ちかまえて、寮長の代わりに手伝うと言っているのだ。
「そうなの? アルファントゥ」
 机の横に大人しく座っているアルファントゥにネイが尋ねると、そうだと言わんばかりにアルファントゥは小さく頷いた。
「レダも頑張ってるんだなぁ」
 ネイはそう呟くと、レダの頭を撫でてその場を離れた。


「レダでさえ頑張ってるのに、私がこうしてふらふらしているのは由々しき問題ですね」
 部屋でネイは腕を組み、考える。だが、そのポーズは5セグも経たずに解かれる事となった。
「考えていても仕方ありません。このネーティア・エル・ララティケッシュ。案ずるより産むが易しと悟りました」
 そう思い直すと、ネイは話の種を探すべく、再び外へと向かう。

 話の種はすぐに見つかった。蒼雪祭の通達に追加があったのだ。
「えーと。『双樹会の有志発表演劇は、脚本も公募とする。役者・脚本・裏方等募集』かぁ」
 その時、ネイの中で何かがはじけた。
「私の橙色の脳細胞に、ピンと来ました。古今東西の話を元に斬新な脚本を書く事が、今の私に与えられた使命なのです!」
 そう意気込むと、ネイは双樹会へと走っていく……前に、購買に寄った。
「『ドリーラ』1冊!」
 勢いづいてティベロン札を出し、おつりと共に薄い本を1冊受け取ると、ネイはそれを抱きしめながら双樹会へと向かった。
(これを元にああしてこうして……)


 こうして、2ヶ月後の夢舞台に向け、それぞれの準備は始まった。

■委員会始動■
「今年も蒼雪祭の季節がやって参りましたわね。楽しみですわ」
 蒼雪祭の発表を見た“風曲の紡ぎ手”セラは、早速実行委員へ参加すべく、準備を整えて受付会場へと向かっていた。
「あら。結構人が集まっておりますのね」
 セラは準備に手間取っていたからか、やや出遅れた感があった。双樹会側で用意した受付には、既に実行委員の希望者や成果発表の申請に来た学生達、そして演劇に参加しようという人達が集まっている。その中で、双樹会会長のマイヤと、受付の手伝いを頼まれたらしいアルフレッド寮長が人員整理をしていた。
「実行委員の希望者はこっちに並んで。成果発表申請はこっち。演劇の参加はこっちだ」
 寮長の指示で、生徒達は3つに分かれる。実行委員希望者以外の生徒達は待機となり、まずは実行委員の参加受付が行われた。
 受付が済んだ生徒達は早速別室に移動し、執行部の選出を行う事となる。
「では、まずは実行委員長を決めたいと思います。立候補される方は挙手を」
 マイヤの言葉に、挙がった手は……2。
「では、セラ君。プラチナム君。こちらへ」
 マイヤが手を挙げた2人を呼んだ。1人はセラ。もう1人は“旋律の”プラチナム。
「では、2人のうちどちらかに……」
 マイヤがそう言いかけた所で、セラは1束の書類を提出する。セラはこの書類を作っていた為に出遅れたのだ。
「予め、実行委員活動計画書を作っておきましたわ」
 マイヤはその書類に目を通した。そして、すぐに頷く。
「良く出来ていますね。さすがです」
 この時、プラチナムは敗北を認めざるを得なかった。彼は自分が使える所をアピールしようとしていたが、セラの行動の方がアピールとしては1枚上手だったのだ。ここで彼が自分の事をいくら口で説明しても、既に1つの実績を上げたセラにはかなわないだろう。
 程なく、セラは委員長に選出された。マイヤはセラに後の事を任せ、横で事の成り行きを見守る。セラは他の実行委員にこう挨拶した。
「少しでも皆様のお手伝いが出来るとうれしいですわ。よろしくお願いしますの」
 セラはぺこりと頭を下げると、早速他の執行部の面々を決める作業にかかる。
「では、副委員長の立候補を受け付けますわ」
 セラの言葉に手を挙げたのは、“六翼の”セラスだった。意外な人物の立候補に、セラも驚く。
「……こう言っては失礼だとは思いますけど、大丈夫ですの?」
 思わず尋ねたセラに、セラスはこう答えた。
「まぁ、私がまとめ役に適してないのは解ってるの。でも、お祭りと言ったら、雰囲気を盛り上げる人とかも必要でしょ?」
 確かにそう言う人材も必要かも知れないと他の生徒達が思い始めた時、セラスはこう言葉を続ける。
「ほら、こう……なんだっけ? グルーメルメーカー?」
「……それを言うなら、ムードメーカーですわ」
 セラが冷静にツッコむ。結局、セラス1人では頼りないという事で、プラチナムと2人で副委員長という所に落ち着いた。

「執行部も決まりましたし、早速仕事に入りますわ」
 セラが先程マイヤに提出した計画書を元に、仕事を書き出して行く。本部受付の設置。各成果発表の調整。演劇の準備。フォークダンスの準備。そして、会場などの警備・見回り。しなければならない事はたくさんある。
「では、お願いしますね」
 マイヤは実行委員の執行部にそう言うと、執務に戻ろうとした。だが、それをプラチナムが引き留める。
「少し良いでしょうか?」
「はい。何ですか?」
 マイヤが向き直ると、プラチナムは丁寧にこう提案をする。
「マイヤさん。運営は我々実行委員に任せて、たまにはご自分の学生生活を楽しまれては如何ですか?」
「と、言いますと?」
 少し不思議そうに尋ねるマイヤに、プラチナムは穏やかに微笑みながらこう説明する。
「『生徒は全員、何らかの形で蒼雪祭を作り上げる事に関わって欲しいと願います』とご自身で仰ってましたが、そう言うあなた自身が何も参加されないのでは、人の上に立つ者として示しが付かないと思いますよ」
「確かに、そうかもしれませんね」
 マイヤも穏やかにそう答えると、プラチナムは本題に入った。
「細雪殿と一緒に、双樹会有志の演劇に参加されては如何でしょう?」
 すると、その言葉に反応したかのように、今まで静かに話を聞いていた“深藍の冬凪”柊 細雪も尋ねた。
「それは拙者も尋ねようと思って候。演劇は如何なされるのでございますか?」
 プラチナムの言う通り、演劇は名目上『双樹会有志』によるものである。故に、双樹会会長のマイヤが何らかの形で関わるべきではないのかと、2人は静かに主張したのだ。
「マイヤ殿。お忙しいのは重々承知しておりまする。僭越ながら、拙者、お手伝いさせていただくことのお許しを。判ぐらいであれば、マイヤ殿の認可の後に拙者でも押せます故」
「気持ちはありがたく受け取りますが、大丈夫ですよ。蒼雪祭の運営を実行委員に任せると、僕がしなくてはいけないのはいつもの仕事だけですから」
 細雪にそう応えると、マイヤはプラチナムに言った。
「演劇の方は、顔を出してみましょう。運営の方、しっかり頼みます」
 プラチナムはその言葉に頷いた。


■受付にて■
「何か妙に浮かれていると思ったら、蒼雪祭の予定が発表されたのか」
 蒼雪祭の予定が発表されて数日。“相克螺旋”サイレントはこのところのそんな校内の様子を見て、一つの心配事があった。
(この浮かれようでは、何が起こるか分からんな)
 サイレントは早速その足で本部受付に向かった。
「はい。次の方どうぞ」
 受付をしていたセラの言葉に、サイレントはこう提案した。
「有志を集めて会場のパトロール等警備をしたいのだが」
「あら。それは実行委員の仕事になりますわね。では、実行委員に参加されるという事でよろしいでしょうか?」
 サイレントのプランでは、けが人の治療などにリエラ能力を使うつもりだった。有志でそれを行うには申請が必要だが、実行委員で行うのならより申請が通りやすいだろう。
「了解だ」
 サイレントは考えた末にそう答えた。

 実行委員の執行部が決まった所で、成果発表の申し込みも本格化していた。セラは様々な申請をてきぱきと捌いていく。
「魔女のお茶会ですわね。内容は、中庭での野外喫茶店。衣装は……女性はゴスロリエプロンドレス猫耳。男性は猫尻尾ウェイター……」
 申請の中には、このように少し変わった物もあった。セラは猫耳ウェイトレスと猫尻尾ウェイターの様子を想像し一瞬めまいを起こしたが、申請そのものに問題はなかったので受理となる。
「お主の人柄故か、すんなり承認して貰えたの。これなら我が付いてくる必要もなかったか」
 代表の“春の魔女”織原 優真の事が心配で付いてきていた“幼き魔女”アナスタシアがそう言うと、優真もほっと胸をなで下ろしながら頷く。
「はい。よかったです。でも、これからが大変ですね」
 優真はそう言うと、早速グループの所に戻る事にする。

 受付はまだ続いていた。
「次の方、どうぞ」
 その言葉に、受付所の前に立ったのは、“深緑の泉”円と“熱血策士”コタンクルだった。円は早速申請の書類を提出する。
「茶屋『山茶花』ですわね。テーマは【幻想的な桜吹雪を楽しめる、落ち着いた茶屋】……」
 セラは確認をしながら、書類に目を通す。と、ある1点で視線が止まった。
「この『投影機』と言うのは?」
 セラの問いに、円が答えた。
「カマー教授のです〜。桜吹雪を映し出して、幻想的な雰囲気を作り出すです」
「あら。それは困るわね」
 突然、2人の後ろから声が上がった。それは、後ろで申請の順番を待っていた“泡沫の夢”マーティである。
「私たちミステリー研究会も投影機を借りようと思って、クレイちゃんに直接教授の所へ行って貰ってるのよ」
 その言葉に困る円。想定していた事態とは少し違ったが、コタンクルはここが自分の出番だと認識した。
「それは不公平じゃないか? どちらが借りるかは、申請した上で公平に『くじ引き』で決めるべきだと思うが」
 コタンクルの言葉に、セラが同意した。
「確かに、この場はそれが公平そうですわね。では、他に投影機を借りる所が出てくるかも知れませんし、山茶花さんとミステリー研究会さんはしばらく待っていて貰えますか?」
 セラがそう裁定を下し、この場はひとまず休戦となる。その他に山茶花の申請に問題はなく、希望の場所も無事確保出来た。
 円達は申請を終え、マーティの順番となる。マーティは円達と同じように書類を提出し、セラがそれに目を通す。
「ミステリー研究会。内容は占いの館……」
「ところで、リエラの能力行使ってどうなのかしら。出来れば過去見による失せ物探しをしたいのよ」
 マーティがセラにそう問いかけた。
「内容によると思いますわ。内容がここに書いてある通りなのでしたら、後ほど審査の結果をお知らせ致しますわ」
 セラがそう答える。他は問題が無く、ミステリー研の申請も受理された。マーティも円達と一緒に横で待つ事となる。

 受付はスムーズに進んだかというと、そんな事は決してない。申請内容に問題がある場合もあった。
「隠密同好会。内容、『隠密☆おばけ屋敷』……」
 隠密同好会代表の“風天の”サックマンから出された申請書に、セラが疑問を挟んだ。
「『煙』を使うのは危険ではありません?」
「大丈夫だ。火気を伴うものじゃない。使うとしても少々だし」
 隠密同好会の発表内容は、『忍者屋敷をモチーフとしたお化け屋敷』であった。忍者がモチーフになっているので、煙玉などを使いたいという事なのだろうとは判断されるが、詳しい内容が無ければ判断は出来ない。
「煙の使用法や発生手段など、細かい所の再申請をお願い致しますわ」
 結局、隠密同好会の申請は一部受理・一部再申請という事になり、サックマンに申請用紙が返される事となる。

 こうして受付は次々と進んでいった。最後まで申請を受け付けた後、セラが待っていた円達に告げる。
「投影機を借りたいという方達は、他には居られませんでしたわ」
 よって、くじ引きはこの2グループでと言う事になる。早速、公平を期す為にセラがこよりを作り、どちらが当たりか判らないように握って、マーティ達の前に出す。
「コタンクルさん……」
 不安そうな円に、コタンクルは自信ありげに言った。
「大丈夫だ。どう転んでも、俺には幸運がある」
 そして、マーティとは別のこよりを掴む。2人がこよりを掴んだのを確認して、セラは手を放した。その結果は……
「ほらな?」
 当たりを引いたのはコタンクルだった。
「では、カマー教授に伝えておきますわ」
 セラの言葉に、円達は頷いて戻っていく。


■思い出への誘い■
 蒼雪祭は、学校行事の中でも思い出に残るイベントである。だから、親しい人や気になる人を誘い、一緒に参加しようと考えるのはごく自然な事と言えるだろう。
 だが、ラシーネは少し違った。話は実行委員長が決まる前まで遡る。
「実行委員長に立候補して欲しいの。ランカークさん」
 そう。彼女はランカークを誘ったのだ。話だけは聞くと告げていたランカークは、疑念のまなざしをラシーネに向ける。
「何故だ?」
「私は、蒼雪祭の運営は生徒主体で行うべきだと思うの。だから、実行委員長には影響力がある生徒がなるべきだと思うわ。その意味で、適切なのはあなただと思ったからよ」
 ラシーネは自分の考えを素直に述べた。だが、ランカークは首を振る。
「この高貴で多忙な私が、何故お前に頼まれて実行委員長をしなければならないのだ? と聞いている。私はお前の手駒か?」
 ラシーネはその言葉に、こう答えるしかなかった。
「……実行委員の仕事が面倒なら、名義だけで実際の仕事は自分に任せてもらえれば……」
「それならば、お前が実行委員長をすれば済む事ではないか。私の名前を借りて、何をしたいのだ?」
 その後もラシーネはランカークを説得するが、芳しくはなかった。どうやら、ランカークは人に良いように使われていると感じ、腹を立てたらしい。
「今すぐに帰れ。お前に頼まれる筋合いはない」
 ランカークの言葉に、従者が部屋の扉を開ける。ラシーネにその扉から部屋を出るしか残された道は無かった。ラシーネが帰ろうとすると、入れ替わりで“銀晶”ランドが入ってきた。
「何だ」
 不機嫌そうに言うランカークに、ランドは珍しく丁寧にこう告げた。
「宣伝です。ミステリー研究会では占いの館をすることにしましたので、ランカーク卿にも是非お越し頂きたく思いまして」
「占いなどに興味は……」
「いえいえ。フラウニー嬢をお誘いの上お越し頂ければ、きっと良い結果が出るに違いないと思います」
 ランドの言葉の意味をランカークは理解した。要は、八百長で良い結果を出そうとランドは告げたのだ。だが、帰りがけにランドの言葉を聞いていたラシーネと、扉の所に控えていた従者には、ランドがその後に囁いたこんな言葉もしっかりと聞こえていた。
「……多分、な」
 その言葉が聞こえなかったランカークは、ランドにこう伝える。
「期待しているぞ」
 ランドはその言葉に応えて一礼すると、扉から出て行った。ラシーネもこれ以上の長居は無駄であると感じ、その後に続いて部屋から出る。


 別の日、別の場所で。
(蒼雪祭か〜。うちのグループじゃ何もやらんみたいやなぁ)
 “轟轟たる爆轟”ルオーは、グループが蒼雪祭で何もしないのを念のため確かめ、いつもの所へ向かった。彼の『いつもの所』と言えば、間違いなくラジェッタの所である。
 だが、今回は少し出遅れていた。彼がラジェッタ達の所に着いた時、既に“爆裂忍者”忍火丸が来ていたのだ。
 忍火丸は水泳大会の失敗を反省し、今回を挽回の場と考えていた。
「水泳大会で失敗した分、ちゃんとラジェッタ殿を楽しませるでござるよ」
 エイムをそう説得し、ラジェッタを勧誘する。
「ところで、何をされるのですか?」
 エイムが忍火丸に尋ねると、彼女は胸を張って答えた。
「隠密同好会で『隠密お化け屋敷』をするでござるよ。仕掛けいっぱいの楽しい企画でござる」
 だが、ラジェッタはすぐに尋ねた。
「おばけやしきって、なーに?」
「え?」
 改めて問われて、忍火丸は少し考えた。
「楼国には『幽霊』とか『お化け』とか言うものがあるでござる……」
 忍火丸は何とかラジェッタにわかりやすく説明をしようと、身振りも交えて説明する。その結果はこうだった。
「こわいの?」
 説明を聞いたラジェッタの問いに、忍火丸は頷いた。実際の所、“猫忍”スルーティアなどは、隠密の技術を駆使し『如何に相手の不意と虚を突いて驚かせるか』が今回のお化け屋敷の趣旨だと語っている。怖くないお化け屋敷に意味はないのだ。
「……こわいの、いや……」
 結局、ラジェッタはお化け屋敷が怖いものと聞かされ、エイムの側に走っていった。ここに、忍火丸は見事に敗北する事となる。
 ライバルが敗れる所を一部始終見ていたルオーは、自分の番になった所で、まずはエイムに話しかけた。
「エイムはん。フォークダンスって知っとる?」
「知ってますけど、得意ではないですよ」
 エイムはそう言う。
「実は、俺はよう知らんのや。折角やし、一緒に練習してみぃへんか?」
 ルオーは3人で練習しようとエイムに持ちかけた。
「フォークダンスって楽しいの?」
 その問いに、ルオーは自信を持って答える。
「そりゃもう。楽しいで」
 その一言が決め手となった。結局、ラジェッタとエイムはルオーと一緒に、フォークダンスの練習にいそしむ事となる。


(俺様とした事が迂闊だったぜ)
 “自称天才”ルビィは、自分の最近の活躍を振り返って反省していた。
(活躍して自己アピールをするばかりで、肝心のフランとのスキンシップが全然出来てない!)
 確かに、このところのルビィの活躍はめざましいものがある。水泳大会では堂々の優勝を飾り、フランから直々にタオルを貰ったりもした。
(この蒼雪祭で、距離を縮めなくては……)
 ルビィは次のステップに進む場として、蒼雪祭を重視していた。早速、ルビィはフランの元へと向かう。
「こんにちは。ルビィさん」
 フランはいつものように談話室にいた。穏やかそうに挨拶をするその表情は、いつもと変わりがない。それを確かめ、ルビィはフランに尋ねた。
「蒼雪祭、何に参加するか決まっているか?」
「いえ、今のところ、予定は特にありませんけど……」
 フランの答えにこれ幸いと、ルビィはフランを誘った。
「それなら、是非手伝って貰いたい事があるんだ」
「何でしょう? 私に出来る事でしょうか?」
 フランの問いに、ルビィが説明する。
「蒼雪祭に、おやっさんが店を出す予定なんだ。何でも、動くおもちゃ屋なんだと」
 おやっさん、とは“鍛冶職人”サワノバの事である。ルビィはサワノバの店を手伝って欲しいと、フランに言った。
「具体的には、何をするのでしょうか」
「ああ。大味なおやっさんには梱包や内装ってのは不向きだし、当日はどうしても売り子の手が足りないらしいんだ。だから、その辺りを手伝って欲しいんだけど」
 その言葉に、フランはイルズマリと相談する。しばらくの相談の後、フランはこう答えた。
「売り子はちょっと……。他の事ならお手伝い出来るとは思うのですが」
 フランの手先の器用さは、先日の水泳大会での副賞で既に証明済みである。だが、不特定多数の人達と話す必要があるであろう売り子には、フランは難色を示した。そう言われてはルビィも無理強いは出来ない。
「わかったぜ。それならそれで構わない」
 ルビィの言葉に、フランは微笑んで答えた。
「では、後でお伺いしますね」
(よし。これで蒼雪祭の期間中はフランと一緒だぜ!)
 ルビィがその言葉に安心して戻ろうとした時、横やりが入った。
「ちょっと待ってください〜」
 それは“七彩の奏咒”ルカだった。
「あら。ルカちゃん」
 フランがそう呼びかけると、ルカは紙包みをフランに渡す。
「蒼雪祭で、ルカ達はホラーハウスをやるんですよ。これは宣伝に作ったクッキーです」
 ルカはそう言うと、紙包みを開いた。その中には……
「これが……クッキー?」
「はい〜。指の形をした『フィンガークッキー』なんですよ〜。見た目はちょっと怖いけど、味は……」
 ルカはそう言うと、クッキーを一つ食べる。
「結構美味しいです。フランさんも是非どうぞ〜」
 そう言って出されたクッキーを、フランは恐る恐る手にした。だが、クッキーの香りが後押しし、フランはクッキーを口に運ぶ。
「あら。美味しいですね」
「でしょう〜? ところで、蒼雪祭当日はお暇ですか?」
 ルカの言葉に、ルビィは危機感を感じて言った。
「ちょっと待った。フランは既に……」
 そこまで言いかけて、ルビィは言葉を止めた。当日の売り子は、フランが難色を示していたのだ。
「もしお暇なら、一緒に遊びましょう?」
 ルカの言葉に、フランはこう応える。
「当日に予定がなければ、考えておきますね。ルカちゃんの所に、クッキーを食べに行くかもしれません」
「お待ちしてます〜」
 ルカはそう言うと、宣伝があるからとそこを後にした。ルビィはほっとしながらも、気を引き締める。
(何とかしないと、距離を縮めるどころじゃないぞ)


 気になる相手を誘おうとした人が、必ず相手を誘う事が出来たかと言うとそうではない。例えば、優真や“闇司祭”アベルなどは完全に門前払いを喰っていた。
 彼女たちが誰を誘おうとしたのかというと、他ならぬサウルである。
「そうですか……」
 失礼にならないよう、予め前日の時点で会う約束が出来ないか打診をしにきた優真に、現時点でサウルが住んでいるランカーク邸の使用人が、サウルは忙しい旨を告げて丁寧に断る。
(サウルさんとお友達になりたかったです……)
 優真は、サウルを気になる相手として捉えていた。先日の水泳大会でサウルが言ったこんな言葉が、心に引っ掛かっていたのだ。
『彼らはね、仕えることが運命なんだ。自分では選べないんだ。生まれも力も……主も、何一つ自分で選択はできないのさ』
 優真は、サウルの言葉に「優しさ」を感じていた。そして、サウル自身が「何かに仕える運命」に抗おうとしているとも感じた。だから、優真はサウルと話してみたかった。
 だが、忙しいのであれば仕方がない。そう思い直して帰っていく優真。それと入れ替わるように、アベルが使用人にサウルへ面会出来ないかと尋ねてきた。
「申し訳ありません。サウル様は只今多忙にて会う事は出来ないと……」
 答えは優真の時と変わらない。すると、アベルはサウルにこう伝えるように、使用人に頼んだ。
「普段裏方に回られている方や、一般生徒達との交流が薄い方にこそ、今回の蒼雪祭で親睦を深めて頂きたいのですよ。劇の鑑賞も良いですが、たまには客席以外でも楽しんでみませんか?」
 使用人は確かに伝えると告げ、奥へと下がる。
(……流石に、最大の狸だけあるな)
 アベルは、サウルには相当の裏があると感じていた。だからこそ、この場を使ってそれを少しでもあかそうと考えたのだ。
(サウルとマイヤを引き合わせるとどうなるか見てみたかったが、仕方がない)
 まだ機会はあるだろう。そう考えてアベルは帰っていく。


 こうして、生徒達は意中の相手を誘ったり、敗北して打ちひしがれたりしていく。そんな中、“怠惰な隠士”ジェダイトも意中の相手の所に向かっていた。
(双樹会では演劇をやるのか。クレアも演劇好きだし、誘ってみよう)
 そう考えたジェダイトがクレアの所に着いた時、そこには既にいつもの面々が集まっていた。“緑の涼風”シーナと“天津風”リーヴァである。ただ、今回は水泳大会とは違って、この面々は仲間ではなくライバルだ。
 そして、彼らの思惑は見事なまでに2つに分かれていた。シーナはクレアと蒼雪祭を回りたいと思い、ジェダイトとリーヴァはクレアやルーを演劇に誘いたいと考えていたのだ。
「クレアさん! 蒼雪祭はどうするの? もし用事がなかったら、一緒に見て回らない?」
 シーナの問いに、他の面々も固唾をのんでクレアが答えるのを待つ。今回は、流石のクレアも少し考えていた。
「シーナと一緒に回るのも楽しそうだけど、演劇も楽しそうなんだよね」
 クレアは伊達に演劇のビラ配りをしていない。大方の予想通り、双樹会の演劇にも興味を持っていたようだ。ジェダイトとリーヴァは、自分の思惑の為にもクレアを演劇に誘う。
「演劇は見るのも楽しいけど、実際に自分達で作るともっと楽しいぞ」
 ジェダイトの言葉に、クレアは心を決めたようだ。
「やっぱり、演劇に行くよ! でも、舞台の合間に時間があったら、一緒に回ろうね!」
 クレアはシーナにそう言った。
(さて、次だな……)
 シーナとジェダイトの今回の勝負はここで終わりだが、リーヴァにとってはこれからが勝負の本番だった。路地裏でひっそりとクレアの事を待っているルーに声を掛ける。
「演劇の裏方をしないか? 折角の機会だし、クレア君と一緒にいられた方がいいだろう」
 さらに、ジェダイトが援護射撃を試みる。
「クレアと一緒に何かやり遂げるってのも、良い思い出になると思うんだが」
 だが、ルーはふるふると首を振った。ただ、水泳大会の時のように、クレアが練習するなら見に行くと、ささやくように答える。
(やむを得ないか)
 その答えにリーヴァは考える。彼の勝負は、先が長くなりそうだった。


■演劇■
 クレア達4人は、クレアのバイトが終わるのを待って、演劇の参加者申し込みの所へ向かった。ルーを除く3人が参加希望の名簿に名前を書き込み、申し込みは無事完了する。
「希望者は集会室へ集まって下さい」
 演劇の参加者は早速一つ所に集められた。その中には、噂通りネイの姿もある。そして……
「なんでいるのよ?」
 そう言うネイの視線の先には、リッチェルが居た。
「……断り切れなかったのですわ」
 そう言うリッチェルの横には“翔ける者”アトリーズがいる。リッチェルの説明によると、アトリーズに「未来視の姫君の『本当の』芝居と言うのを見てみたい」と言われたのだそうだ。
 2人がそんな状態でにらみ合っていると、当のアトリーズが2人に尋ねた。
「君達って、幼なじみか何かなのかい?」
 すると、リッチェルがこう答える。
「……従姉妹同士なのですわ」
 一部の生徒には知られている所ではあるが、リッチェルのフルネームは『リッチェル・ララティケッシュ』である。
「ネーティア・エル・ララティケッシュの『エル』は、古エルダン語で『真の』という意味で、ララティケッシュ家本家にのみ許されるのですわ」
 リッチェルがそう補足説明をする。
「そうなのか」
 アトリーズは自分の好奇心が1つ満たされたので満足だったが、お互いをライバル視しているネイとリッチェルにとっては、御世辞にも気分が良いとは言えない。もし、“闇の輝星”ジークが次の話題を振らなかったら、気まずい雰囲気がずっと流れていた事だろう。
「ところで、演目はどうするか決めなくて良いのか?」
 その言葉に、ジェダイトが乗ってくる。
「蒼雪祭でやるものなんだし、悲劇じゃないと良いんだが」
「あら。演目って、ネイの書いている『ドリーラ』に決まってるんじゃないの?」
 それは“銀の飛跡”シルフィスだった。もちろん、これはネイの情報流布による思いこみなのだが、他にも何人か題目がドリーラだから参加したと言う人もいた。このまま、演目がドリーラに決まろうかと言ったその時、ジークが言う。
「まだ決まったわけではないだろう。個人的には、最近ルピニアン劇場で演じられている『朝焼けに立つユーレンドビッヒ』を推したいのだが」
 ジークの言葉に、ここにいた他の生徒達は一斉にクレアの方を見た。正直な所、ジークが提案した劇の内容は、あまり他の人に知られているとは言い難かったからだ。
「『朝焼けに立つユーレンドビッヒ』は、最近流行ってる歌劇だよ。レイドベック公国のスパイと帝国のフューリアが恋に墜ちる話なんだって。でも、それは報われぬ恋なんだ……」
 クレアの説明に、他の生徒達は真っ先にこう感じたという。
(どう転んでも、重い話になりそうだ……)
 「公国と帝国」と言うキーワードから想像される結末に、集会室は一時騒然となった。だが、そこに意外な人物が姿を見せる。
「その歌劇は、双樹会の発表としては流石に認められないですね」
 それはマイヤだった。プラチナムとの約束通り、様子を見に来たのだ。
「じゃあ、ドリーラで良いですか?」
 マイヤの言葉を受けたネイの言葉に、反対意見は出なかった。ジークも自分の提案が受け入れられなかった事を素直に認め、ここに演目はドリーラと決定される。
「では、早速配役を……」
 ネイの言葉に真っ先に手を挙げたのは、シルフィスだった。
「まだ台本を読んでないから何とも言えないけど、元々のあの雰囲気が残っているなら、主人公役をやりたいわ」
 それとほぼ同時に、リッチェルが手を挙げる。
「わたくしも、するならば主役ですわ」
 まだ他の配役も決まらないうちから主役争奪戦が始まろうとしたが、リーヴァがそこで提案した。
「公演は3日間行うのだろう? それならば、ダブルキャストやトリプルキャストにしてはどうかね」
「それは面白いかも知れません。キャストが変わると、がらりと雰囲気も変わりますしね」
 ネイはリーヴァの提案をあっさりと受け入れた。そして、改めて配役を決め……
「決める前に、台本を読んで貰わないと」
 とは言っても、ネイが書いてきた台本は1冊しかない。早速、演劇参加希望者の間で台本が回され、各人がざっと目を通す。
「……ふむ。ラストシーンが新解釈になっているのか」
 台本を念入りにチェックしていたジークが呟く。
「そうです。先程ジェダイトさんも言ってましたが、原作通りの悲劇だとあまりに重い上に画竜点睛を欠くと思いましたので、私なりの結論を加えてあります」
「だな。せめて救いのある内容じゃないと、折角のお祭りに暗い空気を漂わせちゃうからな」
 ジェダイトもこの改変には賛成のようだった。
「この方が王道だな。王道の展開は皆が望むからこそ、王道となっているわけだし」
 ジークもそう評価を述べて、この台本に賛成する。

 各人が台本を粗方読み終わった所で、改めて配役決めとなった。
 ネイ版ドリーラのメインキャストは4人。主役の『少女』。少女を踏みにじった『奴隷商』。少女を救う手になるはずだった『少女の母親』。そして……
「これが一番重要なのですが、少女の希望となる『少女の恋人』です」
 原作には登場しないこのキャラクターにより、少女は憎悪の中に隠れていた自らの希望を取り戻す、と言うのがネイ版のラストシーンである。
「では、希望者を」
 その結果、メインキャストは次のように決定する。

  少女:シルフィス クレア
  奴隷商:ファントム アトリーズ
  母親:リッチェル 細雪
  恋人:ジーク ジェダイト

 また、本人の希望もあってアベルが『演技指導』という事になり、その他の生徒はエキストラと裏方という所に落ち着いた。
 役が決まった“朧月”ファントムは、早速台本を読む。
(別の人間を演じるのは、普段からやっていますから……)
 そう思いながら台本を読み進めるが、ふとネイに尋ねた。
「そう言えば、この劇には音楽はないのですか?」
 すると、“静なる護り手”リュートもネイに尋ねる。
「楽器演奏が得意ですので……私も一応音楽担当になりたいのですが」
「うーん。その辺は考えていなかったので、お任せしたいのですが」
 ネイの言葉で2人は相談し、音楽はリュートがメインになってその場にあった曲を演奏という事になった。

 ようやく各人の役目が決まり、演劇は本格的に動き出した。まずは、これが無いと始まらないという『大道具』の制作が始まる。
 が、すぐに道具班の中から疑問が発生した。
「……ところで、この演劇はどこで行うのかね?」
 事実上道具班のまとめ役となっていたリーヴァが、ネイに尋ねに行く。だが、ネイは困った顔を見せた。
「……そう言えば、台本にばかり気を取られて、場所などは考えていませんでした。マイヤ会長に聞いてくる必要がありますね」
「それならば、予算がどれだけ取れるのかも聞いてほしいんだけど」
 “憂鬱な策士”フィリップがもう一つの重大な問題をネイに尋ねる。その2点はマイヤに尋ねるという事で、ネイはそこを後にした。

 “首輪使い”アウスレーゼは、道具班として演劇に参加していた。彼女には気になる事があったのだ。
(ネイさんが関わっていると……一波乱起きそうな予感がします)
 漠然とそう感じていたアウスレーゼは、ネイの動向に気を配っていた。だから、ネイが1人でマイヤの所に行く時に、彼女は自然とネイの後へ付いていく事にした。
 しばらくネイの後を付いていくアウスレーゼ。だが、突然背後に人の気配を感じ、振り返る。
「人の後ろに黙って付いていくのは、余り良い趣味とは言えませんわね」
 振り返ってみると、驚くべき事にそこにはリッチェルがいた。アウスレーゼは事情が飲み込めぬまま、ネイを見失ってしまう。仕方なく、アウスレーゼは道具班の元に戻る事にした。
 予算が下りず計画が立てられないからか、道具班は手持ちぶさただった。リーヴァに至っては、何か人形のようなものを作っている。とある生徒に似たその人形の手には、何故か刃物。
「それは、今回の舞台装置です?」
 アウスレーゼが尋ねると、リーヴァは首を振る。
「いや、時間が空いているようだから、自分の所属グループの出し物を作っている。良くできているだろう? 殺人人形『バックスタッブ君』だ。音もなく背後から追いかけてくるんだ」
 リーヴァの説明に、アウスレーゼは先程の出来事を思い返した。
(……リッチェルさんも、音もなく背後から忍び寄って来ました。もしかしたら……)
 アウスレーゼは、幸いにもリッチェルの手に刃物が握られていなかった事を感謝した。

 程なくネイが戻ってくる。予算も無事に下り、舞台は体育館に特設ステージを作る事となった。道具班も計画を立て、遅れていた分を取り戻すべく精力的に働く。


■予備調査■
 演劇以外の成果発表も、着々と準備が進められていく。中には、山岳同好会の“黒衣”エグザスの様に、学校を10日ほど休んで資料集めに近くの山まで行く者もいた。
 そんな中、“蒼盾”エドウィンと“貧乏学生”エンゲルスは成果発表を行うグループを一つ一つ回っていた。
「蒼雪祭マップを作って、そこに紹介記事を書きたいのですが」
 エンゲルスは各グループへ丁寧にそう挨拶をする。2人は成果発表に『蒼雪祭マップ』の制作を選んだのだ。もちろん、このマップは蒼雪祭実行委員会承認済みで、当日は来訪者に無料で配られる。
「そうしておけば、来場者も各発表を見て回りやすいだろう。これは来場者の為だ」
 エドウィンは申請時にそう説明していた。だが、彼らの真の目的は別にあった。
(下見で店を回れば、食べ物も出るかも!)
(紹介記事を書くか店で出すものを食べさせてくれと言えば、相手も断れまい)
 そう。彼らの真の目的は、「味を評価する為に(食べ物の類を出すと思われる)全ての喫茶店や出店を回る」事であったのだ。2人は貧乏コンビ。タダ飯ほどありがたいものはない。
(エドウィン君、グッドアイディア!)
 エンゲルスは心の中で発案者のエドウィンに感謝する。


 では、ここからは貧乏コンビ(以下、貧乏s)の2人と共に、成果発表の様子を見ていく事にしよう。

 2人がまず向かったのは、やはり「茶屋『山茶花』」の所だった。実行委員会から予め借りておいた成果発表の内容一覧表によると……
「『幻想的な桜吹雪を楽しめる落ち着いた茶屋』だそうですよ」
 早速、2人は山茶花の準備している場所へと向かう。
「こんにちは」
 エンゲルスが丁寧に挨拶をして中の様子を見ると、“闘う執事”セバスチャンがカマー教授から投影機の動かし方を聞いている所だった。
「このスイッチを押すと、ガス灯が点灯。こっちのスイッチは、映像の切り替えよ」
「なるほど。こちらを押してからこちらのスイッチで切り替え……」
 セバスチャンは熱心にカマー教授の説明を聞いていた。壊してしまっては困るからだ。
「ところで、教授。実験としてご自分で上映なさりたいと言う事はございませんか?」
 一通りの説明を受けたセバスチャンは、カマー教授に尋ねる。だが、教授は首を振った。
「したいのはやまやまだけど、当日はアタシも発表があるから。壊したら承知しないわよ? それが動かなくなったら、投影機は全滅なんだから」
 教授の念押しに、セバスチャンは確かにと頷く。
(全滅って、この前4台あった投影機のうち、3台は既に壊れてるという事なのでしょうか……?)
 エンゲルスはそんな事を思いながら、エドウィンと隣の部屋に向かった。そこからは良い匂いがしていたからだ。
「こんにちは」
 そこでは、円と“硝子の心”サリーが“抗う者”アルスキールの衣装を合わせていた所だった。その横には、メオティとお茶菓子。アルスキールは当日ウェイターをするとの事で、楼国風の着物を着付けられている。
「……と言うわけで、お話を伺いたいのですが」
 エンゲルスの説明に、円が手を止め真面目に説明しようとする。だが、その様子を見ていたコタンクルが円を止めた。
「ここは任せてくれ」
 円にそう言うと、コタンクルは調理手伝いの“竜使い”アーフィと共に、当日出すメニューのいくつかを持ってくると言った。
「お待たせ致しました」
 ウェイターの練習を兼ねて、アルスキールがコタンクル達からメオティとお茶菓子を受け取り、2人の元に出す。それを見ながら、コタンクルは2人に言った。
「これは取引だ。口コミでの宣伝よろしく」
 どうやら、コタンクルは貧乏sの意図をしっかりと読んでいたようだ。
(な、なるべく公平に評価しなくては……)
 エンゲルスはしばらく良心と戦っていたが、目の前の食べ物には勝てなかった。お茶菓子を食べ、一応取引成立となる。
 その後、円から説明を受け、山茶花での取材は終了となった。

 続いて2人が向かったのは、「魔女のお茶会」の所だった。ここも、当日は野外で喫茶店を開くとの事。申請の時にも話題になっていたように、ここの特徴は「女性は黒のゴスロリ風エプロンドレスに猫耳。男性は猫尻尾付きウェイター」であった。
「我らのグループのシンボルは黒猫じゃし、それに沿ったコスチュームを身につけるのはおかしな事じゃ無かろうて」
 アナスタシアがそう説明をしている間、2人は装飾を見ていた。先程の山茶花が『楼国風』を前面に押し出していたのとは正反対に、こちらは『ゴシック風』の装飾でまとめられていた。これは“賢者”ラザルスの見立てによるものらしい。
 2人が衣装や装飾を見てメモを取っていると、そこへ“暇人”カルロと、荷物持ちとして駆り出されていたアウスレーゼ、そして“野心の昼傍観の夜”セロがやってきた。彼らの手には、抱えきれないほどの荷物。
「リーダー。食材を調達してきたよ」
 その言葉に、貧乏sの2人は「待ってました」と心の中で叫ぶ。
 程なく、2人の前にお茶とファンティーニが出された。これは出来合の物だが、当日は手作りのお菓子も予定しているとの事。
「他にも、先にご予約頂ければ、お目当ての方と一緒に来られた時にメッセージカード付きの花束をプレゼントするサービスを予定しています」
 優真がそう説明をする。と、そこへセロとアウスレーゼがやってきた。
「演劇の方の裏方もあるから、そっちに戻りますね」
 優真は頷いて、2人に言った。
「わかりました。念のため。他の所でも問題は起こさないで下さいね。グループ発表が出来なくなっては困りますから」
 優真の言葉に、セロ達は頷いた。貧乏sもお菓子を食べ終え、ここでの取材を終えた。

 貧乏sは3軒目に「喫茶『鳩時計』」へと向かった。だが……
「すみませーん! 店長はちょっと席を外しているでーす!」
 留守番の“燦々Gaogao”柚・Citronが明るくそう答える。仕方なく2人は先に他の所を回る事にした。


 その頃、鳩時計の店長“拙き風使い”風見来生はと言うと、意外な事に“ぐうたら”ナギリエッタの所に向かっていた。もっとも、特に他意があるわけではなく、
(エリスさんやナギリエッタさんとか、女子寮の人達に連絡しようっと♪)
 と言う事のようである。
 当のナギリエッタはと言うと、エリスと2人で学園付属研究所の外庭に屋台を設営しているところだった。
「あ、エリスさん。ナギリエッタさん!」
 来生が2人を見つけて、手を振りながら近づいてくる。屋台の所まで来た所で、ナギリエッタが来生に尋ねた。
「どぅしたの?」
「はい。喫茶『鳩時計』で蒼雪祭に喫茶店をすることになったので、女子寮の皆さんに連絡して回ってるんです。エリスさんは?」
 その問いに、エリスはぽつりと答えた。
「……ぬいぐるみ輪投げ屋、よ」
 エリスが言いにくそうにそう告げたので、後の説明はナギリエッタに引き継がれる。
「喫茶店以外の変わった店が出来ないかなぁと思って、輪投げの屋台をする事にしたんだょ」
 そう言うと、ナギリエッタは小さなぬいぐるみを屋台の中に並べた。よく見ると、屋台の横には大きな熊のぬいぐるみや、大きな虎のぬいぐるみなどが置いてある。
「こんな風にぬいぐるみを並べて、それに向かってこの輪を投げるんだょ。こうやって……」
 ナギリエッタは実演がてら輪を投げるが、さっぱり入らない。
「……貸してみて……」
 見かねたエリスが、そう言って輪をナギリエッタから受け取る。エリスは輪を構え、まるで獲物を狙う豹のような鋭い目つきでぬいぐるみを見据えると、輪を投げた。
 輪は低い弧を描き……小さな猫のぬいぐるみに掛かる。それを見た来生は素直に感嘆の声を上げた。
「凄いですね……あ!」
 来生は自分の用事を思い出した。他の所にも鳩時計の事を伝えなければならないのだ。
「もし来店されたら、お話を聞かせて貰うかも知れません♪」
「わかったょ♪」
 来生は次の所へと足早に向かう。その後ろ姿を見送りながら、ナギリエッタはエリスに言った。
「ねえエリス? 本番も……さっきの通りうまくいくと良いね」
 エリスは黙って小さく頷く。


 貧乏sは、4軒目に「トリック・オア・トリート」の所へと向かった。発表内容には「ホラーハウス」とあったが、2人の嗅覚はその後ろに別の物を嗅ぎ取っていたのだ。
「こんにちは〜」
 エンゲルスがそう言って教室の扉を開けると、中は暗幕で仕切られていて薄暗かった。仕切られた中では“待宵姫”シェラザードが、なにやら人面を模ったおどろおどろしいオブジェを作っている。その横ではルカが蝋人形に仕掛けを施していた。どうやら、かなり本格的なホラーハウスのようである。
「そ、それは?」
 エンゲルスがシェラザードに何を作っているか尋ねると、彼女はオブジェに色を塗りながら答える。
「これはデスマスクよ。こー言うのは、こんな風に生理的嫌悪感をもよおすものと、精神的な恐怖を感じさせるものを上手くミックスさせるのが肝要なのよ」
 シェラザードがそう解説をすると、エドウィンが尋ねた。
「精神的な恐怖、とは?」
 すると、突然エドウィンの背後に人影が立つ。それはリーヴァが作っていた人形、「バックスタッブ君」だった。エドウィンはさすがに一瞬びっくりしたが、すぐに作り物だとわかり冷静さを取り戻す。
「この人形、誰かに似ていないか?」
 エドウィンがそう尋ねると、人形の背後にいたリーヴァも不思議そうに首をひねった。
「そう言われると、確かに似ているな。何故だろう」
 あえて誰に似ているか告げずにリーヴァがそう言うと、その背後に人が立った。
「何の話をしてるん?」
 それは、“笑う道化”ラックだった。
(流石に本家は違うな……だが、良くできている)
 エドウィンはバックスタッブ君とラックを見比べて納得する。そう。バックスタッブ君はラックに似ているのだ。
「それはともかく、キャンディの材料の追加、買ってきたで?」
 ラックが話題を変えると、エンゲルスは待っていたとばかりにその話題に食いついた。
「ホラーハウスでキャンディ、ですか?」
「そうや〜。指の形したクッキーとか、目玉の形をしたキャンディとか作って、宣伝で配ってるんや〜。結構評判なんや」
 ラックはそう言うと、早速キャンディを作りに掛かる。程なく、丸いキャンディが貧乏コンビの前に出される事になった。
「うっ……リアルですね……」
 エンゲルスは一瞬たじろいだが、恐怖を食欲で打ち払い、キャンディを口に放り込む。
「おいしい!」
「せやろ? ほな、ボクはまた宣伝にいってくるで。レダとアルファントゥにキャンディ渡さんと〜」
 ラックはキャンディとチラシを抱え、部屋を出て行く。
「では、俺達もここで失礼するよ」
 貧乏sはキャンディを舐めながら、その教室を後にした。


■夢の翼■
「食べ物を扱っている所は、こんなところですね」
 エンゲルスが手帳に各成果発表の評価を書き込みながらそう言う。
「次から食べ物を扱っていないところですが……」
 エンゲルスが続けてそう言うと、エドウィンはこう応えた。
「では、次はここに行こう」

 2人が向かったのは、蒸気研だった。そこではマリーが飛行機械を作っていると言う噂である。
 だが、貧乏sが部屋に着いた時は、飛行機械の制作はまだ始まっていなかった。マリーとラザルス、そして“飄然たる”ロイドが図面を見て相談している最中である。
「まだ、作り始めてないのか?」
 相談の邪魔をしてはまずいだろうと、エドウィンは横にいた生徒に様子を尋ねる。だが、次の瞬間、エドウィンは後悔した。
「そうだ! 色々問題があるから相談してるんだぜ!」
 それは“蒼空の黔鎧”ソウマだった。彼の熱き語り口に気づいて、マリーが視線を上げてエドウィン達の方を見る。
「あ。エドウィン」
 マリーの顔には少し疲れが出ていた。エドウィンは心配そうにマリーに言う。
「俺は機械の事はあんまり知らないけど、マリーのやろうとしてるのが大変な事だって位はわかる」
「……大変だけど、いつかはしなきゃならないと思ってたから……ね」
 マリーは眼鏡を外して、目を閉じる。彼女の思いは、エドウィンにも伝わってきていた。
「……頑張れよ。マリー」
 エドウィンはそう言うしかなかった。と、ラザルスがマリーに言う。
「無理はするもんじゃないぞい。焦りは禁物じゃ」
 ラザルスは、先日のNISの事件に衝撃を受けていた。マリーが今回早急に飛行機械の製作を始めたのは、事件の影響が少なからずあるだろう。普段他人の心配をする気がないラザルスも、今回のマリーは心配だったのだ。
(科学はそれを行使しようとする人次第。同じ科学好きとして、マリーが焦って道を外さないよう望んで居るよ)
 ラザルスはそう思っていた。
「……でも、早く決めないと……」
 マリーの言葉に、エドウィンは改めて尋ねた。
「いったい、何を相談しているんだ?」
「飛行機械の構造ですよ」
 ロイドがそう言うと、今回の飛行機械がどういうものかを説明し始める。
「基本はこのように両の翼を使って、空を飛ぼうというものです。また、これだけでは推進力と揚力が足りないので、動力機関に先日の水泳大会優勝賞品『蒸気式トロフィー』の小型化蒸気機関を応用した蒸気機関を乗せ、帝国海軍新鋭戦艦『ヴェルキンゲトル』にも用いられていると噂される最新のスクリュープロペラで推進力をつけます」
 設計図と完成予想図を見せ、ロイドはそう説明した。まるで鳶のように導体から大きな翼が広がっているその図を見ると、確かに何となくではあるが空を飛べそうである。
「良くわからないけど……ここまで決まっているなら、問題は無いんじゃないのか?」
 エドウィンがそう尋ねると、マリーが首を振る。
「この構造だと、普通の材料じゃ強度が足りなくなりそうなのよ。ロイドは鋼板を材料にするように提案してるんだけど、それだと今度は重くて蒸気機関の出力が足りなくなるわけ」
 つまり、強度を犠牲にして、空中分解する危険性と隣り合わせに飛ぶか、飛べる確率を犠牲にして安全を取るかを、マリー達は相談しているのだ。
「俺の事は気にするな! 俺のリエラは鎧型だ! 高い所から墜ちても平気だぜ!」
 そう言うソウマはこの飛行機械のパイロットに立候補していた。だが、流石に墜ちる事を前提に作るわけにも行かない。そこで悩んでいた、と言うわけだ。
「……流石にそれは俺にはわからないな……」
 エドウィンがそう言った時、そこに救いの人物が現れた。サワノバである。
「嬢ちゃん、はかどってるかの? 今回は手伝えなくてすまんの」
 サワノバは、今回は自分で店を出店するので、マリーの事を手伝ってはいなかった。だが、何か困っている事があったら助言しようと、こうしてマリーの元を訪れたのだ。
「……その様子だとはかどってないようじゃな。相談に乗るぞぃ?」
 その言葉に、マリーは問題点を話す。すると、サワノバは驚くべき事に、こう即答した。
「なんじゃ。それなら簡単じゃ。もっと軽くて頑強な人物をテストパイロットに据えれば良いじゃろ。そうすれば、その分強度にも重量を回せる」
「……それは、誰?」
 マリーが尋ねると、サワノバが頷いてこう言った。
「わしのお勧めは、レダ嬢ちゃんじゃよ」
 レダが如何に軽いかは、初めて会った時に証明されていた。レダが倒れ込んで来たのを受け止めた事がある者なら、レダが殆ど体重を感じさせないくらい軽い事は記憶の片隅にあるだろう。また、その後の出来事から、その軽い体に似合わず強い体を持っている事も判る。
「……確かにそうかも知れないわね。わかったわ。ちょっと待ってて」
 マリーはそう言うと、レダを呼びに行く。それを見届けて、サワノバは自分の用事を済ませに、カマー教授の所へと向かう。

 マリーが部屋を出て程なく、レダがアルファントゥと共に部屋へと入ってきた。
「やっほー!」
 いつものように挨拶するレダの手には、ポスター。どうやら、隠密同好会の発表のものらしい。そこには楼国風の力強い筆文字が書かれている。
「あ、ここにもポスターはっていい? スルーティアから頼まれたんだ〜」
 無邪気にそう言うレダに、マリーは早速尋ねた。
「張るのは後で教授に聞いてね。ところで、レダ。体重どれくらい?」
「おぼえてない〜」
 即答するレダ。そこで、急遽身体測定が始まる。その結果……
「レティー・ダーク。身長、45アー。体重、10エルス。……これなら行けそうね」
 マリーは紙に数式を書き並べ、1人頷く。そして、レダに言った。
「軽ければ軽いほど、成功の確率は上がるわ。レダ。私の希望を託して、あなたに飛行機械のパイロットを頼みたいんだけど、いいかな?」
 レダはと言うと、現在はお手伝いキャンペーンを実施中だった。マリーの頼みを一も二もなく引き受ける。
「わかった〜。ボク、がんばるよ」
 そんなレダの言葉に頷き、マリーは手伝うと言ってくれたソウマ達に言った。
「これで構造は決まったわ。そんなわけで、材料、集めてきて〜」
「任せろ! 俺が手に入れられない物なんて無いぜ!」
 ソウマは必要な材料を聞くと、熱く叫んで部屋を飛び出す。ずっと様子を見ていたエドウィンも、出来る限り協力すると約束して次の所へ向かう事にした。

 ようやく飛行機械の設計にめどが立った所で、“黒き疾風の”ウォルガが尋ねた。
「ところで、この飛行機械、飛行実験とかするんだよな?」
 そう言う彼の目には、機械への情熱が感じられた。
(飛行機械……とても惹かれる。空を飛べるとは、どんな気持ちなのだろうか……)
 そんな想いを胸にメカフェチとして覚醒しつつあるウォルガ。マリーもその素質を感じながら、彼の質問に答える。
「もちろんよ。実証試験は重要ね」
「じゃ、それはどこでやるんだ?」
 その問いに、マリーは明るく手を叩く。
「ああ! そこまでは考えてなかったわ。広い所、確保しなきゃ」
 ウォルガはそれを聞いて、慌てて蒼雪祭実行委員の所へ向かう。彼の交渉の結果……。
「場所とれたぞ。ここしか空いていなかったんだが」
 ウォルガはそう言って戻ってきた。
「何処になったの?」
 マリーの言葉に、ウォルガは頷く。
「アリーナだ」

 こうして、飛行機械は夢の空へと向かって、少しずつ組み立て始められる事となった。


■ある真実■
 蒼雪祭の準備は進み、校内はどこもかしこも忙しそうに動いていた。
 だが、その中で何故か1人、普段よりも手持ちぶさたな人がいた。アルフレッド寮長である。それは何故かというと、“桜花剣士”ファローゼが寮長にこう言ったからだ。
「そもそも、寮長がそこまで忙しいのは、皆さんが余計な仕事を押しつけすぎるからですわ。蒼雪祭関係の仕事は、わたくし達蒼雪祭実行委員に回して下さいませ。そうでないと、いくらあなたがタフでも、じきに倒れてしまいますわ」
 その他に、寮長を手伝うと意気込んでいるレダの存在もあり、結果として寮長のやる仕事は普段よりも減っていた。
「まぁ、たまにはこう言うのも良いかもしれないな。それにしても、すまないね。押しつけてしまったようで」
 実行委員長として仕事の打ち合わせをするべく会いに来ていたセラに、寮長はそう言った。
「いえ。そんな事はありませんわ」
 セラは微笑んでそう言うと、少し俯く。
「どうしたかな? やはり、仕事の量が多かったか?」
 寮長がそう心配そうに尋ねると、セラは顔を上げた。だが、頬は少し赤みを帯び、目は伏し目がちである。
「……大丈夫かい?」
 セラはアレフの言葉に小さく頷くと、消え入りそうな声でこういった。
「アルフレッド様に……お願いがございますの……」
「何かな? 私に出来る事なら引き受けるよ」
 アレフがそう言うと、セラは勇気を出してこう告げる。
「もし時間があれば……蒼雪祭当日に……少しで良いですから……わたくしをエスコートして欲しいのです……」
 そこまで言ったセラは、顔を真っ赤にしてまた俯く。その様子に、アレフは微笑んだ。
「レディの頼みなら、断るわけにもいかないな。幸いに当日もそれほど仕事は無いようだ」
 そう言うと、アレフはまるで姫に仕える騎士のように、片膝をついて頭を下げる。
「お受けするよ。セラ君」
 このまま2人きりの時が続くかも思われたその瞬間、明るい声がそこに響いてきた。
「ァレフ〜! 探すの苦労したょ〜」
 それは“夢への誘人”アリシアだった。その後ろにはレダとアルファントゥの姿も見える。寮長はいつもの表情に戻って立ち上がり、セラは真っ赤な顔を見られないように後ろを向いた。
「どうしたかな? 2人揃って」
 寮長が尋ねると、まずレダが答えた。
「ここに来る途中に会ったの〜。アレフに聞きたい事があるんだって。で、ボクにも話したい事があるからって言ったから、いっしょに来たんだ〜」
 レダがそう言うと、アリシアは横にいたレダをちらっと見た後、寮長に言った。
「そぅだょ。聞きたぃ事がぁるんだ。ズバリ聞くけど、レダの事どぅ思っているの?」
 アリシアの言葉に、思わずセラがそちらを見る。アリシアはそれに気づいたのか、こう続けた。
「ぁ、別に恋愛とかじゃなくて、ァレフはティベロンのフューリアなんでしょ?」
 『ティベロン』と聞いた所で、寮長は表情を引き締めながらも、頷いた。それを確認して、アリシアが続ける。
「で、レダのお母さんも、昔ティベロンのフューリアだったらしいんだょ。ァレフ、前にリットランドに行った事ぁるんだよね? 何か知ってぃたら、レダに話してあげてょ」
 そこまで聞いた寮長は、険しい表情でレダに尋ねた。
「レダ君。母親の名前は何というのかな?」
 すると、レダは突然寮長の方を見据えて、まるで絞り出すようにこう答える。
「……エル……リント……」
 その時のレダは、普段とは全く違っていた。だが、すぐにいつものレダに戻って、改めてこう言った。
「思い出した! ママはエルリント!」
 レダは母親の事を思い出せたお陰か、笑顔だった。反対に、寮長はレダの答えに驚きながらも、こう話を続ける。
「アリシア君。確かに私は6年ほど前にリットランドに居た事がある。ティベロンと出会ったのはその頃だ。そして私の前にティベロンのフューリアだったのは、私の師匠とも呼べる人だった」
「じゃ、知ってるんだね!」
 アリシアがうれしそうに言うと、寮長は頷く。
「ああ。師匠の名前は……エルリントと言った。ただ……」
 そう言いかけた寮長は腑に落ちない顔をしていた。
「ただ、私は師匠にお子さんが居たという話は、全く聞いた事がないのだが……。だから、私の師匠とレダ君の母親が同じ人という保証は、残念ながら出来ない」
「ぅぅ……手掛かりなしかぁ……」
 アリシアはそう言うと、レダを励まそうと横を向いた。だが、レダはというと、落ち込むでもなく笑顔である。
「……大丈夫なの? レダ」
「だいじょうぶだよ〜。ママの事がひとつ思い出せたし〜」
 その様子にほっとして、アリシアは寮長に言う。
「ありがとぅ〜、ァレフ。そぅそぅ。蒼雪祭の時に、鳩時計で喫茶店ゃるから、遊びに来てね? 約束だよ?」
「では、お邪魔する事にするよ」
 寮長がそう答えると、アリシアは手を振ってそこを去る。レダも同じように手を振ってそこを去っていった。だが、アルファントゥだけはそこに残り、寮長を見る。
(……)
 アルファントゥは何か言いたそうにしばらく寮長を見ていたが、結局何も言わずにレダの後を追っていった。
「アルフレッド様……。アルファントゥさんはいったい何を言おうとしていたんでしょうか?」
 一部始終を見ていたセラが尋ねると、寮長はアルファントゥを見送りながらこう答えた。
「良くわからないけど……多分、感謝をしたんだろうと思うよ。優しげな目をしていたね」

 帰り道、アリシアはレダを自分たちの成果発表に誘う。
「さっきも言ったけど、鳩時計は喫茶店するんだって。レダも遊びに来て欲しぃな」
「うん。行く〜」
「おっと、ちょっと待ってや〜」
 突然背後から声がする。振り返ってみると、そこにはラックがいた。
「レダ。アルファントゥ。キャンディとクッキーいらへん?」
「いる〜」
 ラックの言葉に、レダは満面の笑顔で答える。ラックはキャンディを渡しながら、早速レダを自分たちの成果発表に誘った。
「ボクら『トリック・オア・トリート』は、当日ホラーハウスやるんや〜。良ければ、当日来てみてな♪ 最初やったら、無料サービスにしとくで」
「うん。行く〜……けど、このアメ、なぁに? お目目?」
 レダは目玉を模ったそのキャンディを見て、不思議そうに尋ねる。ラックは頷きながらクッキーを渡した。
「良くできてるやろ? こっちのクッキーは指の形や」
「ぅ〜ん。ちょっと悪趣味かなぁ」
 アリシアは目玉キャンディとフィンガークッキーを見て、少し引いていた。そこで、レダを改めて鳩時計に誘ってから、先に帰る事にする。
「じゃ、レダ。当日、待ってるょ★」
「うん。ありがとう〜」
 レダはアリシアに感謝して、手を振りながら見送る。アルファントゥも先程と同じように、アリシアの事を優しげな目で見送った。


■凶風■
 蒼雪祭の準備は、どこもかしこも順調に進んでいたわけではない。中には問題を起こす生徒もいる。
「そこ! 校内をむやみに走って騒いではいけませんわ!」
 実行委員として校内を巡回していたファローゼとサイレントが、廊下を走りながら宣伝していた“飛竜天翔”ミィユを叱る。
「ごめんなさいなのだ!」
 そう言ってまた走り出そうとしたミィユを叱ろうとした時、サイレントが掲示板の方を指した。
「あれは何をしてるんだ?」
 そこでは、“黒い学生”ガッツが、他のグループが張っているポスターの上から別のチラシを貼ろうとしていた。2人は早速そこへ注意をしに行く。
「何をしている?」
 サイレントが尋ねると、ガッツは悪びれる様子もなく、こう答えた。
「決まっているだろう。こんなポスターはこっちにとっては目障りだから、上から……」
 だが、ガッツの言葉が最後までいく前に、ファローゼは持っていた木刀をガッツに向ける。
「他のグループに迷惑を掛けてはいけませんわ! 木刀制裁!」
 有無を言わさずガッツの手を木刀で叩くファローゼ。チラシがガッツの手から落ち、床に散らばる。ファローゼはそのチラシを拾い、ガッツに言った。
「山茶花の方ですのね。二度は無いとお思い下さいな」
 チラシは没収され、ファローゼ達はそこを後にする。だが、この話はこれでは終わらなかった。


 それから少し後、時計塔・天文部室にて。
「これ、差し入れや。上手くできたかどうか判らへんけど……」
 “のんびりや”キーウィがそう言って、キックス達にサンドウィッチを差し入れる。
「ありがとう」
 キックスはそれを気のない返事で受け取り、テーブルの上に置いた。それを見ていた恰幅の良い先輩(名前はデイヴィッドと言う)は、キックスをたしなめた。
「キックス〜。折角の差し入れなんだから、もう少しちゃんとお礼を言いなよぉ」
「あ、ええねん。ウチ、あんまり天文関係の事はわからへんけど、キックスはん大変そうやし。無理せんでもええんよ」
 キーウィがそう言うが、デイヴィッドはキックスが手にしていた原稿を取り上げる。
「キリツ。少し休憩だよ」
 そこでキックスはようやくいつもの顔に戻り、改めてキーウィにお礼を言った。
「……ありがとう」
「それじゃ、グリンダちゃん。お茶をお願い出来るかなぁ?」
 デイヴィッドがそう呼ぶと、天文部部員見習の“炎華の奏者”グリンダは頷いた。程なく、お盆に人数分のお茶を乗せ、グリンダはデイヴィッド以下天文部部員全員にお茶を配って回る事となる。
「お待たせ致しました」
 グリンダがそう言ってデイヴィッドにお茶を出した時、彼はグリンダの全身を見渡しながら言った。
「あー、良いねぇ。猫耳に黒のゴスロリ。グリンダちゃん萌え〜」
 そう。グリンダは宣伝も兼ねて、自分が所属する『魔女のお茶会』の蒼雪祭での制服を普段から着たままにしていたのだ。グリンダは、ここぞとばかりに宣伝を始める。
「先輩も、どなたか誘って来てみて下さらないかしら?」
「それなら、グリンダちゃんを誘っちゃうよぉ?」
「あら、私は仕事だから駄目よ」
 デイヴィッドの言葉を軽くかわし、グリンダはキックスにも宣伝を始めた。
「キックス。ネイと仲直りしたんだし、たまにはプレゼントでもしてあげたら?」
 そして、魔女のお茶会のサービスを説明する。
「……いいよ。別に」
 そう言うキックスは明らかに照れていた。キックスのそんな様子を見ながら、キーウィは心の中に自分の思いをしまい込む。
(キックスはんにフォークダンスで一緒に踊って貰いたいって伝えるのは、後にしよ。準備とか集中して貰わないと……)
 ここで話を更にややこしくするのは、キーウィの本意ではない。キーウィは気分を変えようと立ち上がる。その時……
――ドンドン!
 天文部の扉が乱暴に叩かれた。キーウィは立ったついでに、何事かとそちらへ向かう。
「どなた?」
 キーウィは丁寧に扉の向こうの人に尋ねるが、返事はない。
「妙だ……俺が見てくる」
 キックスがそう言って扉に向かい、鍵を開けたその瞬間、扉の向こうに居たガッツが部室にずかずかと入ってきた。
「何の用だ!」
 キックスがガッツの方に走っていって叫ぶ。ガッツはと言うと、手にチラシを持ち、天文部の窓へと一直線に向かっていった。
「高い所からこの蒼雪祭用チラシをばらまかせて貰う」
 ガッツがそう言った瞬間、キックスは切れた。
「んなこと、させるか!」
 キックスは無理矢理交信レベルを上げ、リエラ『ロイズ・フォックナー』でガッツをつかまえる。
「大変だぁ! 実行委員を呼んで来なきゃあ!」
 デイヴィッドがそう言うと、キーウィが頷き、慌ててパタパタと駆けだしていく。
 程なくして、セラスとプラチナムがそこへ駆けつけた。
「こいつを持って行ってくれ……」
 キックスがそう言うと、ロイズ・フォックナーが消える。それと同時に、キックスは意識を失い、その場に倒れた。
「何やってるの! ほら、こっち来て」
 セラスとプラチナムにがっちりと両腕をつかまれ、ガッツは連行されて行く。

 ガッツが起こした一連の事件は、実行委員から双樹会に報告され、双樹会で次のような決定が下された。
「“黒い学生”ガッツは、蒼雪祭での茶屋『山茶花』の宣伝を行おうとして一連の事件を起こした。よって、この件は連帯責任とし、茶屋『山茶花』の蒼雪祭成果発表の認可は遡って保留とする。保留解除に関しては追って指示とする」
 そして、キックスにも処分が下る。
「許可無くリエラで他人を拘束した為、寮にて待機とする。待機の日程は追って伝える」


「そう言うわけで、投影機の使用権利も暫定でそっちに移ったよ」
 実行委員からの連絡を受け、ミステリー研究会のマーティは“不完全な心”クレイと共にカマー教授の所へ……
「向かう前に、降ろして下さい……」
 オブジェの予行演習と称して、彼のリエラ『イビルガード』と共に吊されていたクレイが、今にも消えそうな声でそう言った。その下で、“探求者”ミリーは占いの練習がてら、カードを一枚めくる。
「吊られた男……か。おぬし、どうしようもない状態が続くぞ」
「既にどうしようもないんですが……」
 ようやく降ろされたクレイと共に、マーティはカマー教授の下へと向かった。
「はーい。カマーちゃん」
 マーティがそう挨拶している間、クレイはここぞとばかりにマリーの様子を見に行く。
 マリーはというと、今は丁度休憩を取っていた。これは、クレイにとっては絶好のチャンスだった。
「マ、マリーさん!」
「あら。どうしたの? 真っ赤な顔して」
 マリーにそう言われて、クレイの心臓はこれ以上は無いほど激しく脈打っていた。
「フォ……」
「フォ……フォアグラ?」
「そ、そうじゃなくて、フォー……」
「フォーマルドレス?」
 そう。クレイはマリーをフォークダンスに誘おうとしていたのだ。だが、結局彼の心臓が耐えられず、「フォークダンス」と言う言葉がクレイから発せられる事はなかった。
 そうこうしているうちに、マーティがクレイを呼ぶ。
「投影機、運ぶわよ〜」
 こうして、クレイは戦いに入る前に撃沈した。仕方なく、クレイはマーティと一緒に投影機を運ぶ。
 部室まで戻ってきた2人に、ミリーが告げた。
「誰も占う対象がおらんので蒼雪祭の事を占っておったら、妙な結果が出たのじゃ。久しぶりに占ったが、ここまで妙なのはなかなか出ないのでな。一応知らせておこうと思っての」
「あら、なーに?」
 そう言うマーティに、ミリーは一枚のカードを見せる。そこには、塔が描かれていた。
「凶風が吹くかも知れぬの……」


 ガッツの一連の事件の後、実行委員会は見回りを強化する事にした。ファローゼやサイレントの他に、セラスやプラチナム。そして、道具の買い出しなど諸々の仕事をしていた“光炎の使い手”ノイマンもそちらに回る事となる。
「皆、大変かもしれないが、蒼雪祭を無事終わらせることができるよう最善を尽くそう」
 サイレントの言葉に、実行委員達は頷く。
「でも、その分本来の作業が遅れそうだな……」
 ノイマンは自分がするつもりだった仕事のリストを見て、困惑の表情を見せた。

 それから数日後、円の所に茶屋「山茶花」の申請保留解除について通達が来た。
「なんて書いてあるんだ?」
 理不尽な解除条件があったら交渉しにいこうと思いながらコタンクルが円に尋ねると、円は早速通達を広げて読み始めた。
「えっと、『山茶花の申請保留に関して、次の仕事を問題を起こさず期間内に終えた時点で解除とする』となってるです」
 円はそう言うと、仕事の具体的な内容を読み始めた。具体的には次の通りである。

 1:アルメイス市内各所への告知ポスター貼り。なお、ポスターの制作および掲示場所への掲示許可取得もこれに含まれる。
 2:全校生徒に配布する蒼雪祭の案内冊子の制作および印刷。

「『期間は蒼雪祭一週間前まで』だそうですです。そして、『仕事中に再び問題を起こした場合は、発表申請は遡って不許可とする』となってるです……」
 円は最後にそう言って通達を畳んだ。
「結構な分量があるな……」
 コタンクルは仕事の内容を見て、そう呟く。


 蒼雪祭まで、あと数週間。
 果たして夢舞台は無事に終わるのだろうか……。

参加者

“福音の姫巫女”神音 “飄然たる”ロイド
“天津風”リーヴァ “蒼盾”エドウィン
“怠惰な隠士”ジェダイト “白衣の悪魔”カズヤ
“探求者”ミリー “光炎の使い手”ノイマン
“翔ける者”アトリーズ “静なる護り手”リュート
“笑う道化”ラック “朧月”ファントム
“風曲の紡ぎ手”セラ “ぐうたら”ナギリエッタ
“闇司祭”アベル “紫紺の騎士”エグザス
“風天の”サックマン “銀の飛跡”シルフィス
“桜花剣士”ファローゼ “黒き疾風の”ウォルガ
“硝子の心”サリー “自称天才”ルビィ
“待宵姫”シェラザード “鍛冶職人”サワノバ
“幼き魔女”アナスタシア “六翼の”セラス
“闇の輝星”ジーク “銀晶”ランド
“深緑の泉”円 “餽餓者”クロウ
“闘う執事”セバスチャン 空羅 索
“熱血策士”コタンクル “抗う者”アルスキール
“陽気な隠者”ラザルス “路地裏の狼”マリュウ
“蒼空の黔鎧”ソウマ “竜使い”アーフィ
“炎華の奏者”グリンダ “狭間の女王”コトネ
“拙き風使い”風見来生 “緑の涼風”シーナ
“爆裂忍者”忍火丸 “貧乏学生”エンゲルス
“猫忍”スルーティア “七彩の奏咒”ルカ
“のんびりや”キーウィ “深藍の冬凪”柊 細雪
ラシーネ “旋律の”プラチナム
“燦々Gaogao”柚・Citron “轟轟たる爆轟”ルオー
“影使い”ティル “憂鬱な策士”フィリップ
“飛竜天翔”ミィユ “泡沫の夢”マーティ
“黒い学生”ガッツ “不完全な心”クレイ
“夢の中の姫”アリシア “春の魔女”織原 優真
“首輪使い”アウスレーゼ “月と北風”セロ
“暇人”カルロ “極楽台風”ミュウ
“相克螺旋”サイレント