修学旅行に行った生徒達の中に、イミールで噂されていた飛行物体を探した者がいる。 彼女らが苦労の末見つけたのは、翼を持った白馬だった。 そして、予知は白馬の行く先をこう告げている。 「それはアルメイスの時計塔に現れる」と……
修学旅行から帰ってきたリッチェルは、先日の自爆での怪我が癒えてからマイヤの所へ向かった。 「……というわけで、その飛行物体の捕獲をしたいのですわ。時計塔の辺りでの活動許可を頂きたいのですけど」 すると、マイヤはあっさりと許可を出す。 「破壊活動とかをしなければ、それは構いませんが」 早速、リッチェルは捕獲の人員を集めようと、校内に張り紙を貼る。それにはこう書かれていた。
『神秘に包まれた純白の天翔る羽馬【ペガサス】を捕獲します。協力してくれた方には、幾ばくかの謝礼を。詳しくは、リッチェル・ララティケッシュまで』
次の日、食堂で優雅に食事を取っていたリッチェルの元に、生徒達が集まってくる。その中には、意外な人物も混じっていた。 「あら。あなたは?」 リッチェルがその意外な人物に尋ねる。 「私はマリエージュ・シンタックス。ペガサスを捕まえるって聞いて、協力に来たんだけど」 マリーがそう名乗ると、リッチェルは意外そうな顔のままマリーに尋ねた。 「あなたのことはネーティアさんから聞いていますわ。無類の機械好きと噂されるあなたが、今回のようなミステリーじみた話に協力するのは何故ですの?」 マリーはいつもの笑顔で、その問いに答える。 「理由は単純よ。空を守りに来たの」 「空を……守りに?」 「ええ。ほら、この前、隕石事件があったでしょ? その時作った『ハイパーホワイトアローEX−L』を改良して、今『ランカーク・ザ・ガーディアンアローEX』を作ってるの。今回はその試験に打って付けなのよ」 そこまでマリーが言った時、リッチェルは驚いた。 「ちょっとお待ちになって。わたくしは、出来ればペガサスは生け捕りにしたいのですわ。撃ち落とされては困りますわね」 「その辺は大丈夫。工夫次第でどうとでもなるわ!」 マリーが自信たっぷりにそう言うのを聞いて、リッチェルや他の生徒達は不安にかられる。だが、マリーはそれには構わず、こう話を続けた。 「そもそも、ペガサスがアルメイスに来て、平和に帰って行くとも限らないわけよね。撃ち落とす必要も出てくるかもしれないでしょ」 「どういう事ですの?」 リッチェルが尋ねる。 「ペガサスがアルメイスに来る『理由』の話よ。何しに来るのか分からない以上、生け捕り自体には反対しないけど、不測の事態には備えるべきって事。そもそも、ペガサスが1頭しかいないかどうかも、分からないのよね?」 「なるほど。その通りですわ」 不意にマリーが真っ当な事を言ったせいか、思わずリッチェルは納得していた。それを見て、マリーは話を更に続ける。 「私には隕石事件の時に空を守った経験があるわ。その経験からアドバイスさせて貰うと、あのときと同じように他の生徒達にももっと協力を求めるべきね。捕獲するにしても、撃ち落とすにしても。人がいると心強いものよ」 「確かにそうですわね。わかりましたわ。マリエージュさん、よろしくお願いしますわ」 リッチェルが頷く。 捕獲計画はペガサス対策チームと名前を変え、マリーが加わることになる。そして張り紙はこう書き換えられた。
『神秘に包まれた純白の天翔る羽馬【ペガサス】からアルメイスの空を守ります。協力してくれた方には、幾ばくかの謝礼を。詳しくは、ペガサス対策チームのリッチェル・ララティケッシュかマリエージュ・シンタックスまで』
その次の日。食事をしながら対策の打ち合わせをしようと、マリーは食堂でリッチェルを待つ。 「……お待たせいたしましたわ」 程なくそこに姿を見せたリッチェルは、何故か言葉少なだった。 「どうしたの? 何か体の具合でも悪いの?」 昨日とは違うリッチェルの様子に、マリーが心配そうに尋ねる。すると、リッチェルは封筒に入った手紙を取り出した。 「今朝、わたくしの部屋の扉に、こんな手紙が挟まっていたのですわ」 その言葉に、マリーはリッチェルから手紙を受け取る。 封筒の表には『ペガサス対策チームへ』とだけ書かれている。裏には何も書かれていない。そこまで確認して、マリーは封筒から手紙を取り出した。 「えーと、何々? 『白き天馬の邪魔をする者には、災いが降りかかるだろう』? 何だ。タダの脅迫状じゃない。こんなのハッタリよ。ハッタリ」 マリーはその手紙を一笑に付した。あまりにもあっさりと終わった話題に、リッチェルもいつもの勢いを取り戻した。 「そうですわね。たかが悪戯の脅迫状に悩むなんて、馬鹿馬鹿しいですわね」 だが、次の瞬間、リッチェルはマリーの顔から血の気が引いていくのを見た。 「こ、これ……そんな……ありえない……」 マリーは手紙を持つだけの力もなくなったかのように、テーブルに手紙を置く。 「どうしましたの? 何かおかしな所でもありまして?」 リッチェルが尋ねると、マリーは手紙の最後の署名を指さす。 「これ、差出人が『秘密結社NIS』よ……」 秘密結社NIS(なんとなく・いつも・白い服)とは、構成員が白い服を着ていること以外は一切謎の結社である。主立った活動をしているわけでもないので、一種の都市伝説であろうというのが世間の一般的な見解であった。 「この手紙の最後に書いてあるマークも、秘密結社NISのものよ」 マリーがそう説明すると、リッチェルが言った。 「それこそ悪戯ではなくって? 噂にしか出てこない秘密結社なんて、誰が存在を信じるといいますの?!」 リッチェルが最後に立ち上がってそう怒鳴ると、生徒達は2人の方を一斉に振り返り、マリーは黙ってしまった。 そこへ、ネイが姿を見せる。その手にはいつものようにチルミワサラダ。どうやら、ネイは食堂で食事中だったらしい。 「リッチェル。声が大きいよ」 ネイが宥めて、リッチェルはようやく席に着く。 「で、何があったの?」 ネイの問いに、リッチェルが事のあらましを説明した。すると、ネイは両手を組み、目を閉じる。 「なるほど……。私の銀色の脳細胞にも、ピンと来ました。これはタダの悪戯じゃありませんね」 ネイは1人納得したように頷くと、他の2人に言った。 「この件、私が調べてみるよ。決して悪いようにしないから。もちろん、マリエージュにも。だから、2人は普通に対策チームの仕事をしてて」 ネイの言葉に、マリーは黙って頷く。
その翌日には、『ペガサス対策チームに、秘密結社NISから脅迫状が!』と言う噂が街に流れたのは言うまでもない。当然、これはネイの仕業である。噂を流して、変わった動きや情報を手に入れようとしたのだ。 だが、それは裏目に出た。犠牲者が出たのだ。 事件を最初に発見したのは、意外なことにレダだった。どうやらレダの夜更かし癖はまだ治ってなかったらしく、その日も遅くまで隠れ家で宝物と戯れた後、寮の部屋まで帰ろうとしていた時にそれは起こった。 「きゃあああっ!」 絹を裂くかのような叫び声が、夜の闇に響き渡る。何が起こったのかと、レダはアルファントゥを走らせた。 「……どうしたの?!」 現場に着いたレダが見たのは、地面に倒れていたリッチェルの姿だった。レダがリッチェルを抱き上げると、リッチェルは息も絶え絶えにこういう。 「どうしたもこうしたも……ありませんわ……。不覚を取られて、暴漢に襲われましたの……」 「大丈夫? 病院まで送る?」 リッチェルの様子を見て、レダはそう言う。 「これくらいは日常茶飯事ですけど……お願いしますわ……。レティー・ダーク」 その言葉に、レダはリッチェルを軽々と抱え上げ、アルの背中に乗せた。
次の日の朝、対策チームの打ち合わせに姿を見せたリッチェルはこう語る。 「いきなりだったので顔は見えませんでしたけど、帰り際に男の声で『これは警告だ』と言っていましたから、きっと秘密結社NISとやらの仕業ですわ。でも、わたくし達はこんな事で負けるわけにはいかないのですわ!」 最後にリッチェルはそう力強く言うと、包帯の巻かれた自分の頭をさすった。 |
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